打刀
吉継らが大会議室を出たところで、続々と増え続ける日ノ本の侍たちと対面する。
湯浅五助らとも数時間ぶりに顔を合わせる、そして戸田重政にいま来た連中に会議の内容を伝えるようにと
頼み、エディと伊織らを見つけると、車椅子を漕いで近づく。
「僕とこの湯浅五助も街一番の肉料理レストランに同伴してもいいだろうか?」
「大谷の御殿様、わたしとムサシの分はエディがご馳走してくるそうですが……お金を持っていませんよね?」
伊織が吉継にそっと囁く。
「それなら心配ない、魔石を売ってお金なら持っている。なにか他に食べたいものがあるなら僕がご馳走しよう」
「もちろんです。食事は大勢で食べるほうが美味しいですから、じゃあエディ行きましょうか?」
すぐ横の西門検問所まで出ると、相変わらずの長蛇の列ができ検問所を抜けた広場には、さらに大勢の避難民たち
が途方に暮れた様子で、地べたに座り込む者や大きな荷物に腰を掛けている姿が目立っている。
「あの人たちはどうしたのだろう?」
ムサシが彼らを見ながら、何気なく伊織に聞く。
「たぶん避難してきたのは良いけど、行くところがないんじゃないかしら?
これだけ人が押し寄せたら宿もいっぱいでしょうし……」
事情も分からずに、はしゃぎ回る子供を心配そうに見る伊織。
[ああ、彼らなら大丈夫だ。今も空いている倉庫を片付けていて、彼らに解放することになっている]
伊織とムサシの会話から察したエディが、ギルドの裏手にある倉庫街を指差す。
それを通訳した伊織の言葉を聞き「いい国なんだな……」と呟くムサシ。
西門から伸びる目抜き通りを歩く。いかた
商店が立ち並び、馬車道の横に屋台が規則正しく並ぶ、それを冷やかすように人々が足を止め眺める。
魔獣の襲来が予想されていると知らされているのに、この国の民は家に引きこもる様子もなく、商店も扉を
閉ざすこともなく、押し寄せる避難民に商機と言わんばかりの活気が溢れていた。
「ここの民はずいぶんと逞しいんだな?」
吉継が通りを行き交う人々を眺め、覚えたてのブランデン語でエディに話し掛ける。
[この王国の国民は、男も女も人生の数年間は必ずガーダーになる。……昔は冒険者と言ったんだが、ダンジョン
を探索し魔獣を倒しときには他国から王都を守る仕事だな、ここで働いている人たちのほとんどがガーダーを
引退した人たちだ。そうそう怖気づくこともないし、何より現役のガーダーを信用してくれている]
そんな話をしながら歩いていると目的のレストランへと着く。
扉を開けた途端に鼻腔をくすぐる香ばしい肉の焼ける匂いに、鳴りだした腹の虫に頬を赤らめる伊織とムサシ。
昼飯時をだいぶ過ぎているというのに店内のテーブルは半分近く埋まっており、車椅子が置けそうな窓際の端の
席へと腰を下ろす。
人数分の料理を注文し、果実水を飲みながら待っているとエディがどこか言いにくそうに口を開く。
[嫌なら断ってくれたらいいんだが……君たちが腰に下げているのは剣なのだろう?よければそれを見せてもらう
ことはできるだろうか?]
遠慮がちに壁に立て掛けてあるムサシの打刀を指差すエディ。
ムサシが吉継の顔を見ると微笑みながら頷いているのを見て、吉継より譲り受けた備前長船祐定を差し出す。
それを貴重品でも扱うように両手で受け取ると、鞘をまじまじと見つめ”ほ〜”とため息を吐く。
[いったいこの塗料はなんなのだ?まるで吸い込まれるような深みと重厚さ……この光を反射しているのは?]
鼻がつきそうなほどに鞘を凝視し羨望の眼差しを向ける。
「エディ、それはウルシノキという樹木の血液を何層にも塗ったものだ。きらきら反射しているのは貝殻を
砕いて塗料に混ぜてあるからな」
吉継が伊織に分からない単語を聞きながら、自分の口で説明をする。
[俺たちも武器に飾りを施したりはするが、これは芸術品だろう?家で大事に保管しておく物だ]
レストランに入った時から、静かな注目を集めていた吉継たちだが、いつの間にか数人がエディの後ろに立ち
備前長船祐定に注視している。
「抜いてみてもいいぞ」
吉継のその言葉に“ごくりっ”と息を呑み、柄に手を掛けると“チンッ”という小気味良い音を残し鞘から抜き放つ。
[この模様はなんなんだ?なんとも言えない圧を感じるんだが?]
真っ直ぐに立てた刀身を、自分の後ろに立つずんぐりとした体型の髭面の男に見せる。
[俺も長いこと鍛冶師をしているがこんな模様が浮き出た金属を見るのは初めてだ……この反りは引いて斬る
ことに特化させているのだろう、俺らが作る剣は叩き斬るか突くことを前提にしているからな]
エディが獣人特有の長く鋭い爪を刃先に滑らせると……なんの抵抗もなく爪の先が落ちる。
[……おいっ!ドラン見たか!?]
エディの呼びかけにドランと呼ばれた鍛冶師の男が目を丸くする。
[驚いたな……何かの魔法を付与させているんじゃないのか?]
[いや……彼らは魔法を使えない、というか知りもしなかったんだ]
「ちょっと事情があって研いだばかりなんだけどな」
ムサシがはにかみながら答える。




