国防
ちょうどその頃の王城の会議室では、まもなく訪れるであろう魔獣たちの襲撃にそなえた対策会議が続いていた。
「つまり現在、サランドル·ダンジョンから溢れ出た魔獣たちは、昨日まではばらばらに回遊していたはずなのに
今日の午後になって一斉にここ王都マンダカルに向かっているだと?」
ダラス宰相が、若い執務官が読み上げた斥候たちから、届いた報せにため息を吐く。
腕を組んだまま黙っていた国王パイス·サンドゥが眉間にしわを寄せ口を開く。
「伝承の通り、ダンジョンの噴火ののちダンジョン内の魔物たちは人間を含む亜人種の殲滅のみを目的として
生命が尽きるまで走り続けるというのは、真実だったというのか?」
「パイス王よ、その解釈はちと違っていてね……あたしの研究だとダンジョンから追い出された魔獣たちは、
他の生命を喰らうことでダンジョン·コアから与えられた仮初めの身体に本当の魂を宿らせるらしい。
そして厄介なことに喰えば喰うほどに身体も魂も強くなるのじゃ」
王都で最高齢であり【魔導王】の称号を持つエルフのナタリーが杖の石突きで軽く床を叩く。
「それゆえ、ダンジョンの噴火を確認したら直ちに王都へと避難することを執拗なまでに語り継がれてきたのか
……民を守ることよりも、魔獣を強くしないために?」
パイス国王が、テーブルに乗せた拳を強く握りしめる。
「それでハリス局長、避難民の受け入れ状況はどうなっている?」
ダラス宰相がパイス国王の憤りを逸らすかのように、ハリス治安局長に問い掛ける。
「はいっ、現在のところサランドル·ダンジョン周辺のすべての集落から王都へ向けての避難が続いています。
現在までに王都へ入った避難民が約23,000人ほどで、東西南北すべての検問所には今も長蛇の列ができており
増え続けております。迅速に入都を進めるために身分証の確認のみで持ち物検査と質疑応答の簡略化の許可を
お願いいたします」
額に汗を浮かべたハリス局長が、切実な声音で訴える。
「ハリス局長……聞けば人間や獣人に擬態する魔獣がいると言うではないか?王都の民を危険に晒すわけには
いかんのだ。気持ちは分かるがマニュアルを徹底してくれ」
ダラス宰相の返答が会議室に冷たく響く。
「宰相!魔獣どもが王都の間近まで迫っているというではないですか?もたもたしていると王都の外に民の
死体が積み上がりますぞ!?」
「それには巡回のガーダーを増員し対応しており成果を上げているという……そうだなセルザ将軍?」
「はっ!我がギルドの総員で巡回にあたり、各ギルドからも隠密行動に長けた者らが斥候に出ております。
ダンジョン上層部の魔獣が王都までたどり着くことはないでしょう……しかし中層部、下層部の魔獣がもし
ここに現れた場合は、籠城での総力戦となるでしょう。その準備を着々と進めています」
NO,1ギルドのギルド長を兼任するセルザ将軍が、冷静に報告をすると宰相らの息を呑む声が聞こえてくる。
「その魔獣どもが……ここまで来る確率っ」
ダラス宰相が言い終わる前にナタリーが声を荒げて遮る。
「来るに決まっているだろ!ここにこれだけの亜人種が集まっているんだ!!言うまでもないが絶対に
ここで食いとめなきゃいけないんだよ……セルザよ、分かっているね?」
「はっ!ナタリー様!!この命に代えましても!!」
左胸に拳をあて敬礼で答えるセルザ将軍。
「それで、例の異邦人っていうのはどうしているんだい?」
「その件でしたら、防衛戦に参加する意思のあるものだけの入都を許し、ご命令通りNO,100ギルドにて
待機させております。おそらく500人を超えるかと……それと驚かれると思うのですが、彼らは魔法が使えません
と言うよりも魔法を知りません」
ハリス局長の報告に会議室内がざわつく。
「何を言っているのだ!?彼らが複数の魔獣を討伐したと聞いているぞ?魔法無しでどうやって魔獣を倒し
ここまで来れたというのだ!?」
ダラス宰相がみんなの疑問を代弁する。
「それは私にも分かりませんが、NO,100ギルドを任せているエディ指揮官の報告ですから間違いないでしょう」
「それは興味深いね……あとで挨拶をしに行かないといけないね〜、もしも城壁を破られるようなことがあれば
壁になってもらわねばならない連中だ。その実力を見ておかないとね」
「それは構わんがナタリー、決して敵対するでないぞ……1人でも多くの肉壁が必要になるかもしれん
そしてハリスよ、検問所での人員を追加させよう他部署の書記官、執務官らを連れて行くがいい、質疑応答
くらいの役には立つだろう。
そしてセルザ将軍、東西南北すべての魔導砲の使用を許可する。武器庫にある魔石とすべての武器の持ち出しも
許可する」
パイス国王の命に慌ただしく動き出す、各責任者たちだった。




