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黄泉渡り伊織 ーー関ヶ原で滅した六千の魂を抱く巫女ーー  作者: 結城謙三


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22/45

同胞

力を振り絞り、自らの脚で城壁内の石畳を歩く大谷吉継。

杖代わりの打刀の石突が石畳を打つ音が通路に響き渡り、頭巾の中では額から吹き出た汗が頬を伝う。

右手に避難民たちの長蛇の列を見ながら、城壁を抜けると人々の喧騒の中から聞き慣れた日ノ本の言葉が

耳に飛び込んでくる。

左手の城壁に目を移すと、見上げるほどに巨大な城壁の中ほどに木枠が組まれ、そこから張り出した白いテント

が直射日光を遮りその下には見慣れた甲冑や打刀を腰に下げた侍たちが、1人の男を大勢が囲んで輪になり

ただならぬ雰囲気に包まれていた。


まるで木の棒のように硬くなった膝に両拳を叩きつけ気合を入れると、わずかに脚を引き摺りながら

その輪の方へと向かう。


「戸田殿、いったい我々はどうなってしまうのでしょうか?」


「あの獣たちは、なんだったのでしょう?ここは日ノ本ではないのでしょうか?」


「拙者は関ヶ原で間違いなく斬られて死んだはず……それが傷一つない、ここはあの世なのでしょうか?」


「みなの者、落ち着くのだ!それがしにも何が起きているのかは分からぬ……分かっているのは、関ヶ原で

死んだ者たちが、ここでこうして生きており、言葉の通じぬ国にいるということだけだ」

西軍で戦った越前安居城主·戸田重政が自分を囲む者たちの顔を見渡し答える。


「僕なら、もう少し答えることができる。戸田君……君も来ていたのだね」

少し離れた場所から声を掛けた吉継に全員が振り返る。


「大谷刑部!?」

戸田重政が目を見開き、すぐに破顔する。


吉継がゆっくりと輪の中へと歩みを進めると、その前にいた者たちが道を開け重政が歩み寄る。


「刑部……無事でしたか……」

一瞬にして目を潤ませ、大谷吉継の手を取る戸田重政。


「今の状況が無事と言えるのかは分からないが、僕なら大丈夫」


「相変わらず、僕だの君だの……頭巾を被られているが間違いなく刑部ですな」

そう言いながら、みんなの前へと吉継を誘い声を張り上げる。


「知っているとは思うが、こちらの御仁こそ太閤秀吉殿下の懐刀と言われた大谷刑部少輔その人である。」

そう言い一歩下がり、吉継の背を押す。


「はじめに言っておく、ここは日ノ本ではない……よって官位も身分も、ましてや東軍も西軍も関係ない!」

吉継がそう言い切ると“ざわっ”と動揺が走る。


「僕の知っている情報を伝える。ここはマリアガ王国のマンダカル王都という都市で、この城壁の向こうには

巨大な街があり、おそらくは京の都以上の規模だろう。

そして目にした者も多いと思うが、我々の知らぬ魔獣と言われる獣が跋扈しており、付近の集落からここ王都

に民が避難してきているらしい、それに釣られて魔獣もここに現れるだろう」


「刑部はなぜそこまでのことを知っているのですか?」

輪の中から疑問の声が上がる。


「聞いたからだ……まだわずかではあるが、この国の言葉を話すことができる」


「たった1日でですか……?」


「耳を澄ませ、話している人の顔を見るんだ。僕たちは生きていくために言葉を覚えねばならないし、この国の

金を稼がねばならない、しかし今もっとも大事なことは、魔獣と呼ばれる獣から自分の身を守らねばならない」

大勢の唾を飲む音が聞こえ、緊張が走る。


「刑部……拙者も魔獣とやらと戦いました。たった一匹の角の生えた狼に3人も殺されようやく討ち取ったのです。

あんなモノと戦うなど……逃げるという道はないのでしょうか?」

疲れ切った様子の年配の男がすがるような目を向け聞いてくる。


「それは各々方の自由だ。ただ僕はこの国の地図を見たが、付近に大きな街はない……これだけの城壁を備えた

街はここにしかないだろう。ここがもっとも安全とは言い切れないが、生き延びる可能性はもっとも高いだろう」


「集落の連中がここに集まってくるのが、その証ですな。刑部はこの王都の守りに力を貸されると?」

戸田重政が全員の聞きたいことを代弁する。


「それが自分たちの命を守ることになると僕は考えている。寝床と食料は甘えることにしよう」

そう言いながら、輪の外で見守っているエディとカイルを見る。


「刑部!拙者は小早川隊に属していた加々美吉行ともうす者です。刑部の言われることよくわかりました……

しかしながら裏切り者の隊に属していた我らが行動を共にすることは、不信を抱き続けることになるでしょう。

お許しいただけるのならば、この場を去りたいと思います」

全員の冷たい視線が加々美と名乗った男に突き刺さる。


「先ほど言ったように、東軍も西軍も関係ない……しかし個の自由と言ったのも本当です。

もしここを離れるのならば魔獣は向こうの方角から現れます。逃げるのであれば反対の方向に行ってください」

東の方角を指差し、魔物が現れるという吉継、それはサランドル·ダンジョンの方角を正確に指していた。

そしてこう話している間にも、次々と甲冑を着けた者たちが加わり続け、輪が大きくなっていった。


「最後に1つ聞きたいのだが、君たちの中にこの世界に来てから、急に遠くが見えるようになったり

遠くの声が聞こえたり、力が増したりといったものはいないだろうか?」


「それがしは足が速くなり申した!」


「拙者は高く跳べるようになりましたぞ!」


「爪が硬く鋭くなったのだが……」


「なるほど、様々な変化があったようだ。あとで聞かせてもらおう」


「……あの……それは、みなさんに付喪神が憑かれているせいです」

ふいに女性の声が割り込んでくる。


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