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黄泉渡り伊織 ーー関ヶ原で滅した六千の魂を抱く巫女ーー  作者: 結城謙三


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魔獣の王

治療をしてもらい車椅子まで貸与してくれるという。

巾着袋を取り出し、対価を払いたいと申し出るがエディは頑なに必要ないと言う。

人差し指を立て、横に振りながら“チッチッチッチ”と舌を鳴らすエディの仕草が拒絶を表しているのだろう

そう理解した吉継は、巾着袋を懐に戻すと深く頭を下げ礼を言う。


「検問所へ行くんだろう?」

大伴兼興とエディに車椅子ごと担がれ、ギルドの階段を降りる。

通りから建物を見上げると、エディに教えてもらった“5”の記号が書かれている、NO5ギルド……


「エディ、このギルドというのはNO,はいくつまであるんだ?」


「今はNO,99までだな……1つのギルドに1000人くらいのガーダーがいる」


『つまりエディのようなガーダーと呼ばれる兵がこの王都の外周に10万人もいるというのか?』

獣人――あの筋肉の塊のような連中に、魔法という高火力を扱う者たち……それが十万?

検問所までの道中、エディにギルドの仕組みを聞きながら進んでいくと、昼頃よりも明らかに大勢の

大きな荷物を持った人混みが検問所から吐き出され、外には最後尾が見えないほどの長蛇の列が出来ていた。


「大伴君、どうやら近隣の住民がこの王都に避難しているようだ。

おそらく僕らと同じように関ヶ原からここにきた同胞が大勢いることだろう。

大伴君は宿に戻って、みんなと情報収集と言葉を覚えることに励んでくれ」

そう言うと懐から巾着袋を取り出し大伴兼興の手に乗せる。


「刑部は1人でここに残るのですか?」


「僕のことなら心配ない、エディもいるしおそらく青い制服の局員が僕を探しているだろうから」

心配そうに何度も振り返りながら宿へと向かう大伴兼興を見送り、吉継は先ほどから感じている

自分の中の違和感に向き合ってみる。

ギルドを出てから、吉継が1つの方向に集中するとかなり遠くにいる人の話し声や雑踏、犬や鳥の鳴き声まで

はっきりと聞き取ることができるのだ。


「どうやら僕は千里眼だけでなく地獄耳まで手に入れてしまったようだ……脚が動かなくなったのは、その代償か?」

そう独り言ちる、大伴兼興の尋常でない体力や、湯浅五助の遠くまで届く声も自分と同じような能力なのだろうと

確信する。

「他のみんなにも特異な能力があるのだろうか?」

そして検問所へと意識を向けると、数人の日本語での会話が聞こえてくる。

車椅子の外輪に手を掛け漕ぎ出そうとした……その刹那。

吉継の頭の中を強烈な波動が走り抜けた。 絶対的な生命力の波動、耳元で獰猛な獣の咆哮を浴びせられたような

一瞬で吉継の身体に冷や汗が吹き出し、瞼の裏には色とりどりの光が点滅するのだった。


「なにかが来る……?とてつもないなにかが?」

車椅子の外輪を力強く押し出し、神経を研ぎ澄まし青い制服の治安局員の姿を探す。



吉継が王都で異変に気づいた頃、アース・ドラゴン亡き後のサランドル·ダンジョンでは最凶の魔獣が火口の縁に

手を掛け巨体を押し上げると、ついに太陽の下へと姿を現せた。

全身に岩のような筋肉を張り付け、その岩の割れ目からはマグマのように赤い心核が脈動する。

巨木のように太い4本の脚を地面に押し付けると、全身の筋肉を伸縮させ空に向かって紅蓮の咆哮を放つ。


“ぎゅあおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉッーーーーーーーっ”

大気が爆ぜ、地が揺らぎ砂埃が噴き上がり、雲が赤く染まる。 

サランドル·ダンジョンを離れていった魔獣たちすべてにこの咆哮が届くと同時に足を止めると

一斉に方向を変え走り出す。


この咆哮に込められたメッセージ……

“喰らうのだ!そしてレベルを上げろ!さもなくば我が貴様らを喰い尽くす!!”


付近でもっとも人間の集まっている唯一の地、王都へと死に物狂いで駆ける魔獣。

王都へと避難する途中の人間を襲い喰らうと、身体が大きくなり力が漲っていく事を感じる。

この時、ダンジョンを出た魔獣たちが初めてレベルアップという習性に目覚めるのだった。


そしてその頃の王都では、いまだ長蛇の列が検問所を埋め尽くしていた。

まだ誰も知らない。ここが、狩場へと変わることを。



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