エディ
果たして治安局員たちに大谷吉継の話がどれほど伝わったのか……
話を続けた吉継が喉の渇きを潤すために、すっかり冷めた黒い液体に手を伸ばす。
最初に一口飲んだ時には、あまりの苦さに閉口したものだが局員を真似て牛の乳を入れてみると
苦さも和らぎ、深い味わいが気に入り一気に飲み干す。
そして吉継が懐から小さな巾着を取り出し無言でテーブルの上に中身を置く。
「これ……魔獣の魔石……長老に渡された」
テーブルの上には黄色い魔石が4つに一回り大きな魔石が2つ、それを局員が手に取り眺める
「ふむバルホーンの魔石が4つにオークが2つだな、緑の皮膚の小人はゴブリンと言うのだが
魔石は持っていない」
局員の1人が魔石を指さして教えてくれる。
「換金できるけど、どうする?」
「換金?」
「ああ、お金に換える事ができる」
自分のポケットから財布を取り出し、銀貨を数枚取り出すと魔石を引き寄せ、銀貨を押し出す。
そして全員で食堂を出ると目抜き通りから横路へと入り、いくつかの路地を曲がり大きな建物の前で
足を止める。
「ここが宿になる」
そう言うと、建物へと入り受け付けのカウンターで短いやり取りのあと、3つの鍵を渡され部屋へと案内された。
部屋には3台の寝台が並べられ、表の通りに面して大きな木板の窓が付いており、通りを見下ろすことができる。
「すまないが、君たちがここにいる間は監視が付くことになる」
局員の1人がそう言い、身ぶりで伝えようとするが諦め、自分の両目を2本の指で差し、その指を吉継らに向けて
“見ているぞ”と示した。
局員が出ていくと、解放感からか……揃ってため息をつき、腰の物を外すと壁へと立てかける。
「思っていたよりもよい待遇でしたな?」
湯浅五助が寝台に腰掛け、その柔らかさに目を丸くする。
「ああ、あの村の村長がずいぶんと熱心に掛け合ってくれたようです」
吉継が通りを眺めながら答える。
「これから、我々はどうなるのでしょう?」
大前時治が不安そうに問い掛けるが……その問いに答えられる者はいない。
「まずは、僕たちが置かれている状況を知らねばならないし、言葉も覚えなければならない……
あの村長が言ったことが本当なら、あの魔獣と呼ばれる獣がここにも押し寄せるかもしれない
気になることはいくつもあるが、情報を集めるのが先決だな」
「情報を集めると言われましても、我らは言葉も分かりませんし知り合いもいないのに……」
もっとも年若い小林忠良が、吉継の胴丸を磨きながら独り言のように呟く。
「情報集めと言葉を覚えるのなら、酒場がいいだろう……この魔石とやらを、さっき聞いた
換金所で金に変えてくるので、日が暮れたらみんなで出掛けるといい、僕は検問所まで行ってくる」
「検問所へ?それはまた何故に?」
「それは通訳が必要だろうからな、まだまだ覚束ないがおそらくこの世界の言葉を僕より話せる日ノ本の
人間はいないだろう?この王都にまだまだたくさんの日ノ本の人間が訪れるだろうからな……」
治安局員の用意してくれた杖に身体を預け、脇差だけを差すと大伴兼興を供に部屋を出る吉継。
廊下に出たところで、紺色の治安局員の制服を着た男が座っていた。
先程までの3人とは違う見覚えのない顔だが、軽く頭を下げ前を通り過ぎる。
とくに引き止められることもなく宿から出るが、そこで満面の笑みを張り付けた男が近づいてくる。
局員の制服ではなく、赤い革製の肩当てや胸当てに籠手など動きやすさを重視した防具に細い鎖で編まれた
上下を装備した若い男だ。人間ではなく猫のような目に縞模様の尻尾を生やしているが。
「エディだ」
そう言うと右手を差し出してくる。
それに応じて吉継も右手を差し出し握る、この国の挨拶で“握手”と言うそうだ……
利き手を相手に差し出すことで敵意が無いことを伝えているように感じた。
続いて大伴兼興とも握手をし、道の真ん中でニコニコしながら見つめ合う……
「……? あっ!これは失礼をした大谷吉継と申す」
名乗りを待っていたのだと気づき、日本語で挨拶をする。
「大伴兼興と申す」
納得したのか軽く頷き、横にずれて道をあけるエディ。
「あんたたちの監視を頼まれた。俺はあんたたちが悪い人でないことを知っている……俺の生まれた村を
救ってくれたからな。だから案内役だと思ってくれ、どこに行きたい?」
エディの言ったことの半分も理解できなかったが、敵意がないことは明らかに伝わってくる。
「案内をしてくれるのか?……これを換金したいのだが」
ブランデン語でそう言うと、軽く頷き2人の前に立って歩き出す。




