第181話 日高誠と地底湖のモンスター
俺と志本紗英は早足で洞窟内を進んでゆく。
その先は超巨大な空洞になっていて、地底湖が広がっていた。
地底湖には倒壊した古代遺跡の残骸がいくつも湖面から突き出している。
その一つに、三ノ宮と吉田が立っていた。
「ナナコ! レイジ!」
志本が声を上げると、俺達に気付いた三ノ宮が振り向く。
「早く近くのオブジェクトに飛び移って! そこの足場はじきに無くなるよ!」
「嘘だろ……!?」
三ノ宮の言う通りだった。
地響きと共に高波が発生。
俺と志本は遺跡のオブジェクトに乗り移り、それをギリギリで回避。元居た場所は高波によって飲み込まれた。
「サエ! 大丈夫か!?」
「うん!」
「魔法を使えるか?」
「やってみる」
志本紗英は左耳に手を添え、魔法でハッキングを試みる。
「モンスターは一定のタイミングで水中に潜るみたい。その直後に津波攻撃をして来るよ。今居る足場が消されるから、その都度移動して」
「何だよそれ。どんな理屈なんだよ……」
三ノ宮は杖を構え、地底湖の先に視線を向ける。
「そんな事を考えても無駄。ゲームに余計な詮索は不要でしょう? 来るよ!」
水面が揺れ、湖の中から巨大な海蛇の頭が出現した。
コイツが結晶サーペントか。デカいな!
全長五十メートル以上はありそうだぞ。
「サエ! 津波を喰らったらどうなる?」
「ダメージ三十ポイントに、しばらくの行動不可が付くみたい」
何だよそれ。ほぼ即死コースじゃねーか!
『出よ! 闇の炎!』
三ノ宮の杖の先端から黒い炎が生まれ、結晶サーペントに向かって放たれた。
魔法は直撃。
クリティカルヒットで百二十のダメージを与えた。
幸先は良いけど、何せ相手の体力は三千だ。
どれだけのダメージを与えたら個体番号が分かるんだよ。
結晶サーペントは鋭い爪を突き立て、三ノ宮を狙う。
直撃は避けたものの避けきれず、十ポイントのダメージを受けた。
三ノ宮は体勢を立て直し、違う足場へと飛び移ってゆく。
「ナナコ!」
「大丈夫! でも、まともに喰らったら二十ポイント以上のダメージになりそうだよ!」
「二十……!」
防具だって最強装備なのに、それかよ。
だが三ノ宮は怯む事もなく、ひとり前線に立ち、次々と放たれる敵の連続攻撃を躱してゆく。そして反撃のタイミングを伺う。
『闇の炎!』
七十のダメージ。
モンスターの体力ゲージはほとんど変化が無い。倒せるイメージが湧かない。
こうなったら……。
「レイジ! どうにかして剣を当てろよ!」
「無茶言うな! 殺す気かよ!」
「みんな集中して! サーペントが潜るよ!」
結晶サーペントは地響きを上げ、湖の中へと潜ってゆく。
俺達四人は足場を移動し、高波攻撃をやり過ごした。
「時間がかかり過ぎる……! 集中力が持たないぞ」
焦る俺に対し、吉田は余裕の笑みを浮かべる。
「でもよ。攻撃自体は単調だし何とかなりそうじゃねーか? オラオラ。早く出てこいよ!」
そう言って、挑発気味に剣を振り回した。
「あ…………!?」
突然だった。
吉田が膝を着き、そのままドサリと倒れ込む。
「レイジ!?」
「みんな注意して! 敵は何かを飛ばして来ている!」
「何も見えなかったぞ」
狼狽える俺と三ノ宮に、志本が叫ぶ。
「水の弾丸……! 水の魔法の一種みたい」
「水の弾丸……?」
どうやら魔法で生成された水の弾丸が吉田の身体を貫いたらしい。
ダメージは十五。
威力自体は大した事は無いが、レベルゼロの吉田にとって残り体力三ポイントの致命傷だ。
「やべぇ。動けねぇ……」
吉田の体力ゲージが黄色に変色している。
「特殊ダメージ……!?」
水の弾丸を喰らうと硬直するのか。最低だな!
『来い! 吉田玲二!』
俺はすぐさま引力魔法を発動。
魔法は完成し、俺の目の前に吉田が出現した。
吉田のダメージを引き受け、俺は十五ポイントのダメージを受けた。
今の俺の体力は八十ある。まだまだ余裕だ。
「悪いマコト」
「何だよ、あの攻撃は。サエ。どうなってる?」
俺は志本紗英に視線を向ける。
「分からない……。攻撃パターンが変更されている……」
「…………嘘だろ!?」
はいはい。来ましたよ。想定外の展開だ。
俺の魔法人生はこんなのばっかりだよ! チクショー!
「高波が来るぞ!」
「このタイミングでかよ!」
「マコト! 動けるか?」
「……大丈夫だ」
体力ゲージは通常の色に戻っている。身体は動ける様になっていた。
落下ペナルティよりは硬直は短いみたいだが、カウントが表示されないのは厄介だ。
動けるまでの時間が把握出来ない。
「避けろ!」
足場を移動する吉田と俺。
だが志本が動けず、高波に飲み込まれようとしている。
「サエ!?」
体力ゲージの色が違う。
いつの間に水の弾丸に撃たれた!? 嘘だろ!?
水の弾丸。サーペントの牙。津波。
こんなの全部躱せる訳が無い。
俺は魔力を右手に集中させ、立体魔法陣を生成した。
『来い! 志本紗英!』
引力魔法を発動し、志本を引き寄せる事が出来た。
これでまた十五ポイントのダメージ。
体力はあと残り六十五ポイント。
通常ダメージに加えて魔力の消費が激し過ぎる。
引力魔法を使えるのは、あと四回といった所だろう。
それまでにコイツを倒せるのか?
「な……!?」
視線が落ちてゆく。
いやいや、ちょっと待ってくれ。
身体が……動かねぇ。
「マコト!?」
「ヤバい。撃たれてた……!」
予備動作無しで魔法を撃って来るのは反則だろ。
蛇は蛇らしく戦えよ。明らかに難易度が狂っているだろ。
「ナナコ! 逃げて!」
「…………!?」
志本の絶叫で、何が起きているのかを理解出来た。
前線で一人残っていた三ノ宮は弾丸を受けて膝を地面に着いている。
そこに結晶サーペントが牙を剥いて襲いかかろうとしている状態だ。
メチャクチャピンチだよ! チクショー!
三ノ宮の体力は残り僅か。
牙の攻撃を受ければ体力はゼロだ。このままだと死ぬ事になる。
早く引力魔法を……! ダメだ。身体が動かない。
「うおぉおおおおお!」
洞窟内に咆哮が轟いた。
吉田が剣を構えつつ、結晶サーペントに突進してゆく。
三ノ宮の前に立つと、襲い来る結晶サーペントに剣先を向けた。
「来いやぁぁぁ!」
「レイジ!?」
「ここだぁ!」
構えた剣をテニスラケットに見立ててスイング。
水の弾丸にブチ当てると、触れた瞬間にモザイク模様となって消滅した。
上手く当てやがった。スゲエぞ吉田!
水の弾丸の軌道を完全に読み切っていた。
「よっしゃ、ラッキー!」
「いや、適当かよ!」
「ははっ。野生の勘ってやつよ!」
間一髪で乗り切った吉田だが、ピンチは続く。
サーペントは巨大な牙を剥き、吉田に一直線に向かっている。
対する吉田はモンスターに向かって走り出した。
「真正面からやり合うつもりか? 無茶だろ!」
「どりゃあああああ!」
吉田は身を屈めてスライディングの体勢を取る。
牙の攻撃をやり過ごし、サーペントの顎の下へと滑り込んだ。
そして気合いの掛け声と共に、喉元に剣を突き上げる。
「喰らえぇぇ!」
渾身の一撃はモンスターにヒット。
突き刺した部分からモザイク模様が拡散し、巨大な蛇を飲み込んでゆく。
バチバチと電撃を放出させながら、結晶サーペントは爆散した。
衝撃で洞窟内が振動し、砕け散ったモンスターの破片が雪の様に降り注ぐ。
俺達の体力ゲージと魔力は回復し、ウインドウにメッセージが表示された。
『地底湖の主 結晶サーペントを倒した』
倒した……。マジで死ぬかと思った。
「レイジ!」
俺と三ノ宮と志本は、倒れて大の字になった吉田に駆け寄る。
「やった……! やったぞチクショおお!」
「無茶しやがって」
俺が手を差し伸べると、吉田は手を取って立ち上がった。そして涙目になりながら、
「ははっ! どうだ! やる時はやる男なんだよ俺はよぉ」
声は震えているし、身体はフラフラだ。相当な無理をしたに違いない。
それを見た三ノ宮は苦笑いをしつつ、
「自分で言わなければ格好いいのにね」
「いちいちうるせーんだよ! これで貸しは無しだからな!」
「貸し?」
「……ハチの時、俺達を助けてくれただろ」
「まだそんな前の事を気にしていたの? レイジって、気にし過ぎでしょ」
「ケッ。悪かったな」
「……でもありがとう。レイジのおかげで助かったよ」
「お、おお……。分かればいいんだよ分かれば」
あの吉田が顔を赤らめ、照れ臭そうにしている。いやいや、珍しい事もあるものだ。
勝利の余韻に浸っていると、志本が俺の服を引っ張って来た。
「水の結晶を手に入れたよ! 早くここから出ようよ」
「そうだな。……あ?」
地響きがした。
天井からパラパラと砂が降り始める。
「おいおい。崩れてないか?」
「クリアしたらダンジョンが崩壊するパターンかよ」
「見て!」
三ノ宮が指差した先に、魔法陣が展開されていた。
「転移魔法陣かな。あそこに入れば地上に戻れるのかも知れない……」
「いかにもって感じだな。行くぞ!」




