第180話 日高誠と南の洞窟
町を出て南にまっすぐ進むと海が見える。
フィールドの端は崖になっていて、引き潮の時にだけ現れる洞窟があるらしい。
道中に出現する雑魚モンスターを薙ぎ倒しつつ、俺達は南の洞窟に到着した。
「サエ。洞窟のデータを入手出来る?」
「やってみる」
志本は耳に手を当てて、目を閉じた。
ハッキング魔法が起動し、青白い光が志本の全身を包み込む。
「地下五階に地底湖があって、そこに棲む海竜がボスみたい」
「海竜……。結晶サーペントって所かな」
「倒し方は分かるのか?」
「一定の間隔で水魔法の攻撃を使用する。それ以上は分からない……」
「水魔法……。厄介そうだな」
三ノ宮は静かに俯き、
「閉鎖空間で津波とか起こされたら一巻の終わりだね」
「対策無しで大丈夫か?」
「本来はノーヒントで向かうミッションだよ。問題無い。行きましょう」
*
『闇の魔眼』
三ノ宮の闇の魔法が発動。
暗い洞窟内でも視界が鮮明になった。
「中は意外に広いんだな」
横幅は四人並んでも余裕があるし、天井もかなり高い。
自然に出来た洞窟にしては不自然だが、ゲームと割り切れば、こんなものだろうとは思う。
洞窟内で出て来るモンスターは、岩系だったり、ミミズなど地中生物がモチーフになっていた。
戦ってみると、どれも見かけ倒しで弱く、俺達は無傷で四階まで辿り着いてしまった。
「おいおい。さっきから敵が弱くないか? 俺たち強くなり過ぎたんじゃねーの」
「レベルゼロのレイジが何言ってんの」
三ノ宮がツッコみつつ、杖の先端で吉田の尻を突いた。
「痛っ!? 何するんだよ! 俺ありきのフォーメーションじゃねーか! もっと褒めるなり、持ち上げたりするなりしろよな」
「レイジは調子に乗るから嫌」
「んだと!?」
この世界の三ノ宮は吉田に対しての当たりがキツい。
吉田のやる事なす事が気に入らないみたいだ。
現実世界の二人の関係とはかけ離れた光景に、初めは違和感があった俺だが、もうすっかり慣れてしまった。
「じゃあ、魔法を使うね」
二人がぶつかる度にオロオロしていた志本も、今は気にする素振りも無い。冷静にハッキング魔法を起動させる。
「ボスモンスターの居場所はこの下の階で間違い無いみたい」
それを聞いた吉田はパーティーの先頭に立ち、腕を大きく振り挙げた。
「よし! こうなったら一気にラストまでクリアしちまおうぜ」
「それもアリだな」
「二人とも、油断し過ぎ。そのうち痛い目に遭うよ」
「いちいちうっせーな! 分かってるって。お!? マコト! 宝箱があるぞ!」
岩に挟まる宝箱へと駆け寄る吉田。俺も後を追う。
「強い武器だといいけどな」
「カネは死ぬ程あるからな。頼むぜ……。あれ?」
宝箱を開けた吉田の動きが止まった。
「中は空だ」
「何だよ。期待させやがって」
「…………」
何故か吉田は宝箱を開けた体勢のまま動かない。
「レイジ?」
「開けた瞬間、カチッて音がしたんだが……」
「音?」
反応したのは三ノ宮菜々子だ。
「…………離れて」
「は?」
「みんな離れて! トラップだよ!」
「ああああああああ!?」
*
*
*
目を覚ますと、冷たい地面に倒れていた。
周りにはそこそこデカい岩が散乱していて、壁には地滑りの痕跡がある。
どうやら俺は宝箱に仕掛けられたトラップによって上の階から落とされたらしい。
落下によるペナルティは無し。どうにか助かった様だ。
「おい! みんな無事か?」
……返事が無い。俺ひとりかよ。
最悪だ。完全に油断していた。
宝箱を開ける前に志本にサーチして貰えば良かったんだ。
このままバラバラだとマズい。三ノ宮以外は単独では戦えない。
そうだ。引力魔法を使ってメンバーを引き寄せてみるか?
魔力は十分に残っている。やってみる価値はある。
まずは志本からだ。
俺は右手に魔力を込め、魔法を起動させた。
『……来い! 志本紗英』
立体魔法陣は砕けたが、肝心の魔法が完成しない。
情報が足りない……。
「足りないのは位置の情報……か」
対象の位置座標をハッキリ認識していないと有効にはならないのか。
くそ。この洞窟内に居るのは間違いないだろ。何でダメなんだよ。
現実世界だと、もうちょっと条件はユルかっただろ。チクショー!
システムに文句を言っても始まらない。まずはパーティーとの合流が優先だ。
他の三人が一緒の場所に居てくれる事を祈ろう。
俺は覚悟を決めて、洞窟の奥へと進んでゆく。
すると、微かに音が聞こえて来た。
「水の流れる音……」
地底湖が近いのかも知れない。
ここは洞窟の地下五階。ボスの待つエリアだ。
一人の状態でボスと遭遇したらゲームオーバーは間違い無い。
ひたすら奥に歩いて行くと、巨大な岩が行く手を塞いでいた。
こっちはハズレだった様だ。戻って違う道を探す事にしよう。
振り返った、その直後だった。
「…………!?」
視界の左隅に敵の体力ゲージが出現した。
モンスターだ。三体いる。
名前は結晶モグラ。
体力は二十二。モンスターの守備力が高くなければ、今の俺なら杖の打撃だけでも三ターン以内で倒せるだろう。
俺は杖を構え、戦闘体勢に入る。
「…………!」
地面の一部がボコリと凹んだ。
「そこか!」
俺はすかさず杖を振り上げ、凹みを目掛けて振り下ろす。
「ガスッ」という打撃音が洞窟内に響き渡る。
十ポイントのダメージを与えた。
「来るか?」
反撃に警戒して身構えた俺だったが、いくら待てども結晶モグラは姿を現さない。
「いや、来ないのかよ!」
地中に戻っていったのか? 何だよ。モグラ叩きでも始まる流れか。
それなら大歓迎だ。敵の行動パターンは単調な方がいい。
俺一人でも勝てる可能性が高くなる。
「後か……!」
背後に気配を感じた俺は、振り返ると共に杖を振り回した。
地中から飛び出していた巨大モグラに対して、カウンター気味に攻撃がヒット。
十二ポイントのダメージを与え、結晶モグラを倒した。
「あと二匹!」
杖を構えて敵の襲撃に備えるも、気配すら感じない。
……逃げたか?
いや、敵の体力ゲージは表示されたままだ。戦闘は継続されている。
「んん……!?」
よく見ると、俺の体力ゲージの下にもう一つゲージがあった。
「サエ」。志本紗英だ。
体力は半分にまで下がっている。
さらにダメージを受け、残りは八ポイントに変わった。
おそらく、あと一撃でも受けたら死ぬ。
モンスターの残り二体は志本と戦闘中だったか。
同じ戦闘フィールド内って事は、近くに居るはずだ。どこに……。
「そうか……!」
洞窟を塞いでいる岩の反対側に志本が居るんだ。
「サエ! そこにいるのか!?」
返事は無い。だがきっと、そこにいる。
俺は右手に魔力を込め、引力魔法を起動させた。
『来い……! 志本紗英!』
引力魔法が発動。
俺の目の前に魔法陣が出現し、円の中心部に青白い光の柱が浮かび上がった。
引力魔法が成功している。やはり志本が反対側にいたらしい。
眩い光は次第に人の形へと形成されてゆく。
「大丈夫か、サエ!」
魔法陣の中央に、志本紗英が座り込んだ状態で出現した。
「マコト……」
志本は俺の顔を見るなり涙を浮かべ、俺に向かって駆け寄って来る。そのままの勢いで抱き着いた。
「怖かった……」
*
号泣する志本が落ち着くまで、それほど時間はかからなかった。
すぐに立ち上がる事が出来たので、俺は志本の手を引いて歩いてゆく事にした。
「ありがとう……。ありがとう……」
「無事で本当に良かった」
「私、何も出来なくて……。みんなに迷惑ばかりかけて……」
「サエにはハッキング魔法があるだろ。助けられているのは俺たちの方だ」
志本は俯き、俺の手を強く握る。
「……マコトはいつも優しいね」
「普通だと思うけどな」
「レイジは怖いよ」
「アイツはああいう言い方しか出来ないだけなんだよ。慣れれば何て事ない」
「そうかな……。やっぱり苦手……」
現実世界で初めて会った時の志本紗英はクールなキャラだった。
群がる男共を睨み付けていた。
記憶の無い今の志本が、本当に同一人物なのか怪しくなって来るレベルだ。
だが引力魔法で引き寄せている以上、隣に居るのは俺の知る志本紗英で間違いは無い。
もしかしたら俺以外は性格が真逆になる魔法にでもかけられているのか?
ここまで違うと、そうであって欲しいとも思い始めている自分がいる。
洞窟を戻り、別のルートを進む。
地響きと、水の流れる音が大きくなって来た。
「地底湖が近いのかも知れない。気をつけろ」
「マコト。ゲージが……!」
視界の左上に重なり合う体力ゲージが出現した。
名前は結晶サーペント。
この洞窟ミッションのボスモンスターだ。
体力は三千。今までのボスの二倍近くになる。
右上には四本の体力ゲージが並ぶ。
俺と志本。そして三ノ宮と吉田。
先に到着した二人は既に戦闘状態になっているみたいだ。
「行くぞ!」
八章もいよいよ佳境です。




