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想造世界  作者: 篤
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フォーユとなった日① 引き裂かれる平穏

「――こうして、タシュア・イーライグという一人の悪魔が、この世に産み落とされてしまったんだ」


クレイグが最期に紡いだその言葉は、形を伴う重圧となって空間の狭間ーーその深い闇に吸い込まれていった。

言葉が途絶えた後、微かな鳴動だけが残される。

 だが、その静寂は決して平穏なものではなかった。語られた惨劇の残響が、今なお大気を震わせているかのような、肌を刺すような緊張感がそこにはあった。

クレイグは肺の奥に溜まったおりをすべて吐き出すかのように、長く、そして重い溜息を吐き出した。


彼はゆっくりと、祈るように組んでいた節くれ立った両手を解き、隣に座るサキルへと視線を向けた。

 その瞳の奥には、百年という永すぎる歳月を経てもなお、決して色褪せることのない後悔の念が、どす黒い沈殿物のように沈んでいる。

 それは、時という名の慈悲さえも拒絶した、消えることのない魂の焼印であった。


「…………とはいえ、いま話したタシュアがイーライグ家を――自分の一族すべてを皆殺しにしたという凄惨な光景は、あくまでも奴が俺の脳内へ直接、暴力的にねじ込んできた情報の断片を、俺の言葉で再現したに過ぎない」


クレイグは自嘲気味に、その枯れ木のような唇を歪めた。


「情報の出処が奴である以上、自分を正当化するために都合の良い記憶へと改竄し、嘘の情報を流している可能性も否定はできん。……とはいえ、あの極限の狂気の中で、奴が小細工を弄して嘘を吐いていたとも、俺にはどうしても思えんのだ。あの時に俺が視たのは、奴の魂が放つ剥き出しの憎悪そのものだったのだから」


クレイグは一度言葉を切り、震える手で膝の上の布を強く握りしめた。脳裏には、あの日見た「情報の奔流」がいまも鮮明に焼き付いている。


「それに、たとえ仔細な事実関係が奴の主観で歪められていたとしても、動かしようのない『結果』という名の大筋は、何一つ変わってはいない。あの地獄のような一夜が明けた後、朝靄に包まれたイーライグ邸から見つかったのは、もはや人の形を留めていない、目も当てられぬほど無残に破損した、おびただしい数の遺体だったのだからな」


クレイグの瞳が、まるで当時の光景を目の前の闇に映し出しているかのように、鋭く、そして虚ろに細められる。


「遺体の破損具合は、まさに言語を絶するものだった。鋭利な岩槍によって内側から爆ぜたもの、情報の過負荷によって脳を焼かれたもの……かつて栄華を極め、イフィラ王国でも指折りの名門であったイーライグ家の邸宅は、その日に閉鎖された。その数十年後に家系そのものが、そして彼らが生きたという証さえもが、イフィラの公式記録から組織的に、徹底的に抹消されたのだ。……まるで、最初からこの世に存在しなかったかのように」


 淡々と語られる凄惨な結末に、サキルは自身のこれまでの調査結果を照らし合わせ、静かに口を開いた。


「イーライグ一族を皆殺しにした後、タシュアは『再厄』としてウィスレ各地で暗躍しだし、イフィラは自国からそんな悪魔が生まれたことを恥じた。だから、イーライグ家という存在そのものを公式記録から抹消した……。俺がどれほど調べても真相に辿り着けなかったのは、そういうことか」


「ああ、その通りだ。奴の出自を知るのは、イフィラ上層部のほんの一握りしかいない。今のイフィラ王ですら知り得ない、最奥の機密情報だ。私もまた、その事実は墓場まで持っていくよう固く口止めされていた。……もっとも、私は違う考え方だったがな。人の命は儚いものであり、寿命には逆らえん。どれだけ悪虐の限りを尽くそうが、いずれ命が尽きる。放っておけばいずれ収まるだろうと。いや、それとは別にあるはずのない幻想も夢見てたよ。私とかつて夢見た時のような優しいあいつにいつか戻ってくれるのではないかという甘い幻想をな」


 クレイグは首を縦に振り、重々しく頷いた。

 しかし、サキルの疑問はまだ解消されていなかった。

 むしろ、話を聞けば聞くほど、クレイグ個人が抱える「歪み」の正体が気にかかってならない。


「でも、あんたの今の話……いや、これから話そうとしている口ぶりからは、ただの傍観者じゃない熱量を感じる。奴を止めたいと強く思った、決定的なきっかけがあったはずだ。……それが、あんたが百年以上も生き永らえていることと関係があるのか? 」


 サキルの推測は、この物語に隠された「もう一つの不条理」の核心を突いていた。

 クレイグは一瞬、眩しいものを見るように目を細めたが、やがて覚悟を決めたようにサキルを見つめ返した。


「ああ、その通りだ。……俺の話には、まだ続きがある。この男の、そしてあの悪魔の『その後』について。すべてを話し終えた時、タシュアをどう止めるべきか、その答えも見えてくるはずだ。そして願わくばクロンドルーー今はフォーユと名乗っている我が息子を止めて欲しい」


「息子……だとッッ!!」


 クレイグが最後に口にした衝撃的な事実にサキルが息を呑む。

 クレイグはそんな反応をしたサキルを一瞥して自嘲気味に笑ってから再び自身が展開している空間の狭間の深淵を見つめた。

 語られるべき第二の幕が、静かに上がろうとしていた。






***




 クロンドル・レイ・フィローレ。

 彼は、百余年の歳月を生きるクレイグ・レイ・フィローレの七番目の子供、その末子としてこの世に生を受けた。

 高潔なフィローレの血を引き、偉大なる父と慈愛に満ちた母、そして六人の優秀な兄姉たち。そんな輝かしい家族に囲まれ、クロンドルはまさに掌中の珠として慈しまれ、すくすくと育っていった。

 家庭に不和はなく、暴力や冷遇とは無縁の、黄金色の平穏がそこにはあった。

 だが、その幸福な日々に、音もなく、しかし決定的な亀裂が入り始めたのは、彼が物心ついた頃のことだ。

 フィローレの家系には、空間を自在に操るという、ことわりを超越した異能が継承されている。兄や姉たちは、年端もいかぬうちにその片鱗を見せ、空間を歪ませ、切り裂き、一族の正統なる後継者としての地位を確立させていった。


 しかし、末子のクロンドルにだけは、いつまで経ってもその「芽」が出なかった。


「まだ幼いだけだ。いつか、自分にもあの力が……」


 そう自分に言い聞かせ、彼は数年間にわたり、血の滲むような修練を重ねた。

 兄たちが空間の歪みを発現させる横で、彼はただ必死に木刀を振り、創力を練ろうと試みた。

 だがどれほど願っても、どれほど研鑽を積んでも、彼を取り巻く空間は一度として震えることはなく、静止したままだった。


 フィローレの血を受け継ぎながら、その恩恵を何一つ受けていない。自分は「空っぽ」なのではないか。その絶望が、じわじわと少年の心を侵食していった。

 暗い淵に沈みかけるクロンドルを繋ぎ止めたのは、家族のあたたかな「言葉」だった。

 塞ぎ込む息子に対し、父クレイグは、その大きな掌を彼の肩に置き、穏やかに諭した。


「お前の悩みもわかる。だが、クロンドルよ、誰にだって得意不得意はあるものだ。力だけが全てではない。お前にしかできないことが、この先必ず見つかるはずだ」


 母のクィリアもまた、彼を優しく抱き寄せ、その耳元で慈愛を囁いた。


「あなたの兄様も姉様も、そして私たちも、あなたの存在そのものを愛しているわ。力がなくても、誰もあなたを否定したりしない。あなたは、あなたでいてくれれば、それで良いのよ」


 兄や姉たちも、力を持たない末弟を馬鹿にするどころか、常に寄り添い、守るべき対象として優しく接した。そこには差別も、陰湿な蔑みもなかった。家族はただ純粋に、クロンドルの「欠落」を受け入れ、ありのままの彼を愛してくれたのだ。

 そのあたたかすぎる環境が、クロンドルの劣等感を「諦念」へと変えさせた。


 自分は天才ではない。異能もなく、剣の腕も磨いたところで人並みより少しマシな程度。それが自分の限界なのだ。家族がそう言ってくれるのだから、自分は「何者でもない自分」として生きていけばいい。

 成長するにつれ、彼はその残酷な事実に折り合いをつけ、平穏な日常に埋没することに慣れていった。コンプレックスに囚われることなく、穏やかな青年へと成長できたのは、間違いなく家族の愛のおかげだと信じていた。

 だからこそ自分が「騙されていた」という真実を知った時、彼の中の防波堤は音を立てて決壊したのだったーー






***






 三十年の月日が、かつての少年たちを遠く隔てていた。

夢を語り合った季節は過ぎ、クレイグはフィローレ家の当主として、そして齢五十を数える一族の長として、重厚な威厳を纏う男になっていた。その日は末息子クロンドルの十五歳の誕生日。邸宅の食堂には、フィローレ一族の未来を祝うための華やかな灯火が灯っていた。


「さあ、クロンドル。今日からはお前も大人の仲間入りだ。何か欲しいものはあるか?」


クレイグが穏やかに問いかけると、兄や姉たちが口々に冷やかし、食堂は温かな笑い声に包まれた。


「父様、クロンドルはきっと新しい剣が欲しいんですよ」


「あら、私はもっと綺麗な装飾品の方が似合うと思うわ」


そんな家族の他愛もない会話を、クレイグは目を細めて眺めていた。これこそが、彼が三十年かけて守り抜いてきた「幸福」の形だった。

その団欒を裂くように、一人の男が静かに歩み寄ってくる。

手に持った白ワインのボトルが、シャンデリアの光を反射して冷たく光る。給仕の一人だと思い、クレイグはグラスを差し出そうとした。

だが、男は酒を注ぐ代わりに、家族の会話にふわりと「毒」を混ぜ込んだ。


「――いい家族じゃないか。まるでお伽話の完成図を見ているようだよ、クレイグ」


その場にいた全員の動きが、凍りついたように止まった。

主人の名を呼び捨てにする不敬。そして、場違いなほどに透き通った、それでいて背筋を撫でるような冷たい声音。

クレイグの脳内が、一瞬で「平穏」から「戦闘」へと切り替わる。しかし、目の前の男が誰であるかまでは、まだ認識が追いつかない。ただ、直感した。この男は、自分たちが雇っている家人などではない。


「……何者だッ!? 貴様、家人のフリをして、どこから入り込んだ!」


クレイグは激昂し、椅子を蹴り飛ばして立ち上がった。


「曲者だ! 警護の者を呼べ!!」


彼の裂帛の咆哮が広間に響き渡る。その叫びに呼応するように、妻のクィリアは悲鳴を上げ、子供たちは反射的に武器へ手をかける。誰もが目の前の不審者に向け、敵意と恐怖を剥き出しにした。

だが、男は一歩も動かなかった。

むしろ、クレイグの激昂を愉しむように、優雅な手つきで自らにかけられた「擬態」の術を解いていく。


「そんなに怒鳴らなくても聞こえているよ。……三十年ぶりだというのに、随分と物騒な挨拶だね」


さらりと解かれたその「化けの皮」の下から、一人の青年が現れた。

その瞬間、クレイグの呼吸が止まった。

全身の毛穴が逆立ち、かつて心に深く刻まれたはずの恐怖の刻印が、疼くように熱を帯びる。

そこに立っていたのは、五十歳になった自分とは対照的に、三十年前のあの「訣別の日」から一日たりとも時が経っていないかのような姿をしたタシュアだった。


「……た……タシュア……? なぜ、お前がここに……。それに、その姿は、一体……」


クレイグの声は震え、先ほどまでの怒声は、湿った吐息のように霧散した。

タシュアは、月夜に照らされた鏡のように冷たく、完璧な美しさを保ったまま、不気味な青紫の瞳で親友を見つめていた。その瞳の奥には、三十年前よりも深く、底知れない狂気の深淵が広がっている。


「久しぶりだね、クレイグ。……君の言う通り、招かれざる『侵入者』だよ。でも、追い出そうとする前に、少しだけ話を聞いてくれないかな?」


タシュアが微笑むと、食堂の空気が瞬時に鉛のように重く変質した。

クレイグの子供たちは、目の前の「青年」から放たれる、生命を拒絶するような禍々しいオーラに圧され、ただガチガチと歯の根を鳴らすことしかできなかった。


豪華な祝宴の灯火が、一瞬で凍りついたような静寂に包まれる。

クレイグの胸中には、かつて親友に向けた情など微塵も残っていない。

 視線の先にいるのは、人の皮を被った底知れぬ悪夢。最愛の家族の命が脅かされているという事実が、クレイグの眠っていた戦士としての本能を呼び覚ます。剣の柄を握りしめる拳には、血管が浮き出るほどの力が込められ、指先が白く変色していた。


「いやぁ、そんなに殺気立たないでおくれよ。せっかくの、愛する息子の記念すべき誕生日会が台無しじゃないか」


侵入者は、場違いなほど軽やかな足取りで、ダイニングテーブルの周りをゆっくりと歩く。銀食器に反射する彼の影は、歪んで見えた。


「安心しなよ。外の衛兵や家人の人達には、少しの間だけ心地よく眠っておいてもらっただけだから。大丈夫、乱暴な真似はしない。……今のところは、だけどね。君の大事な家族に、いきなり手を出そうなんて無粋なことは考えていないよ」


男が指先を顔に滑らせると、陽炎のように空間が揺らいだ。擬態の術が剥がれ落ち、その下から現れたのは——三十年前、あの決別の日と寸分違わぬ姿をしたタシュアだった。


クレイグの視界が歪む。鏡を見れば、自分の顔には五十年の歳月が刻んだ深い皺と、一族を背負う重責ゆえの白髪が混じっている。だが、目の前の男はどうだ。

タシュアの肌は、死者が愛でる陶器のように滑らかで血色を欠き、その青紫の瞳は、三十年前よりもなお一層深く、底知れない狂気と妖しい光を湛えて爛々と輝いている。


「な……何故だ……何故お前は、あの頃のままなのだ!? その姿、まやかしを解け! 趣味の悪い化けの皮を脱げと言っているんだ!」


クレイグの咆哮と共に、抜かれた剣の切っ先がタシュアの喉元を正確に捉える。しかし、タシュアは頬を伝う殺意の風など存在しないかのように、優雅に、そして薄気味悪く笑った。


「若作りなんて、そんな面倒な苦労をする必要がない……とだけ言っておこうか。時間は僕を素通りしていくんだよ。……それよりクレイグ、昔話はもういいじゃないか。僕は今日、あの時の続きをしようと思って来たんだ。かつて君を誘ったように……今度は、君の愛しい子供たちを僕の世界へ誘いにね」


「ふざけるな! 誰が貴様のような、血も涙もない外道について行くものか!」


「……本当かなぁ? 本当に、誰もいないと言い切れるのかい?」


タシュアは嘲笑を浮かべ、恐怖に顔を強張らせる子供たちを一人ずつ、まるで品定めをする商人のように舐めるような視線で見回した。


「ねぇ、君たち。聞いておくれよ。こんな古臭い掟と、親の過保護に縛られた退屈な家なんて、君たちには窮屈すぎるだろう? 広い世界……理さえも書き換えられる場所へ、僕と一緒に来たいという『勇気ある子』はいないかな?」


「……くるな! 近寄るなッ!」


長男が震える手で妹たちを庇い、声を絞り出す。


「父様……この男は、一体何なんだ……。何なんだよ、この寒気は……!」


次男も、そして末の娘たちも、恐怖に歯の根を鳴らして震えていた。あるいは、向けられた理不尽な悪意に顔を真っ赤に染めて憤慨している者もいる。だが、誰一人としてタシュアに立ち向かう一歩を踏み出すことはできない。

タシュアがただそこに立っているだけで、大広間の空気は物理的な重みを持ち、鉛のように肺を押し潰しているからだ。彼が放つオーラは、生物としての格の違いを強制的に分からせる。


「いないかぁ。残念だなぁ。クレイグ、君が子供たちを『都合よく飼い慣らして』しまったせいかな。個性が死んでいるよ」


「戯言を! さっさとその不気味な若造りの、呪わしい秘密を吐け! 吐かねば——今この瞬間、ここで貴様を斬り捨ててくれる!」


「ははっ、相変わらずだね。君こそ少しは成長して、丸くなるかと思ったけれど。……いや、いいさ。大人たちが変われなくても、この子なら、まだ変われるはずだ。……そうだよね。クロンドル君」


タシュアの視線が、兄たちの背後に隠れて震えていた末息子——今日、人生の節目を迎えたはずのクロンドルに、冷酷なまでの正確さで突き刺さった。


「えっ……ぼ、僕……?」


いきなり名指しされ、クロンドルは肺の空気がすべて奪われたかのように息を呑んだ。


「君は今日、十五歳になった。大人の仲間入りだ。……ねぇ、いつまでも家族に『騙されたまま』、用意された安寧の中で死んでいくより、本当の自分が何者であるか……その『真実』を知りたくはないかい?」


「貴様、タシュア!! 何を、勝手なことを言っている!!」


クレイグの怒声が、静まり返った広間に響き渡る。だが、その声には、先ほどまでの純粋な殺意とは異なる、明らかな動揺と焦燥が混じっていた。

百戦錬磨のクレイグが見せた、わずかな隙。それを、タシュアが見逃すはずもなかった。


「いやね、僕はただ、騙されているこの子が不憫でさ。クレイグ、いくら親だからって、個人の自由を奪い、目を塞ぐのは良くないよ。嘘を吐いて力を封じ込めるのではなく、その本当の姿……内側に眠る混沌を認めさせてあげるべきだと思わないかい?」


「……黙れッ! 人の命も心も弄ぶ貴様が、何をいけしゃあしゃあと……! 俺は何も隠してなどいない!」


「ああやっぱり知らぬ存ぜぬかぁ……まぁそうだね。それが君の言う『愛』なんだろうね。だったら、僕がその役目を代わってあげようか? 僕がこの子を引き取って、国や一族の退屈なしがらみなんて全部壊して、その力を存分に使わせてあげようじゃないか」


「ふざけるな! 貴様を殺してでも、この子だけは渡さん!!」


クレイグの激昂、そしてパニックに陥った家族たちが泣き叫ぶ。その混沌とした渦の中で、クロンドルだけが、何かに取り憑かれたような虚ろな瞳で、タシュアを……その青紫の瞳を見つめ返していた。


「……待って。父様。この人の言っていることは……本当なの? 僕が……騙されている? 力を持たない僕に、隠していることなんて……あるはずがないじゃないか。ねえ、父様……どういうことなんだ……!?」


「それは……いやこの男の前では誤魔化しても無意味だろう。だが全てはお前の為なんだ!」


言葉を濁す父の姿。それが、クロンドルの心に小さな、しかし決定的な亀裂を作った。


「そうだよね! 気になるよねぇ! 真実の味は、甘いか苦いか、自分で確かめるべきだ!」


タシュアはクレイグの狼狽をあざ笑うように、嬉々として、まるで獲物を追う獣のような優雅さでクロンドルへと歩み寄る。


「君が誰に、何を、どんなに残酷な嘘で隠されてきたか。僕が全部、教えてあげるよ。……慈悲深いお父様が、君の未来を奪うために、君に何をしていたかをね」


タシュアの青紫の瞳が、月夜に照らされたナイフのように、冷たく、そして美しく輝いた。



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