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アルバイトしても良いですか?

王都にある名門校、ノートン学院。通称学院は国中の貴族や大富豪となった商家の子女たちが5年間学ぶ、レベルの高い学校だ。どんなに名家の出でも、入学試験に合格しなければ入れない。

中は全寮制。男子寮と女子寮があり、個室と2人部屋がある。1学年2クラスで、1クラス20名。全200名ほどの10代が生活をしている。


わたし、セリナ・タイラーの部屋は5階の2人部屋。ルームメイトはアンナ・ウォール子爵令嬢だ。ウォール家は西にある小さな領地を守る子爵家だ。数年前に魔物の大群が押し寄せてきた時に、長男のロバートが亡くなった。その後残されたアンナは、たった1人の跡取りになってしまった。

「だいたいウチのような小さな領地の婿になりたい、なんて奇特な男性が王都にいるわけがございませんわ。」

初めて会った時、アンナはそうこぼしていた。

明るくて物おじしないアンナは、スピカさんを上品にした感じ、とわたしは思った。

入学式までの1週間で、わたしはアンナとおおよそ仲良くなったと思う。

わたしが週末はアルバイトをする、と言ったらアンナもやりたいと言ったが、いくら小さくてもいずれは子爵、領主様だ。とてもではないが、ギルドのガサツな冒険者に会わせられない。

「仕方ありませんわ。でもなんとかお金を稼ぐ手段を考えなくては。」

アンナは小さな拳を握ってそう言った。


アンナの話では、良い男性と知り合うためには、お茶会やパーティーに出て顔を売らなければならない。しかし、そのためには、着ていくドレスやアクセサリーなどを買わなければならない、と言うのだ。そう言うものなんだ。

社交なんて他人事だったわたしには、わからない世界だ。ドレス、ドレス‥。

そういえば、とわたしはアンナの方に勢いよく振り向いた。

「あるかもしれない。良いアルバイト!」

アンナは目を輝かせて、顔を上げた。

「知り合いの服飾工房の人が、ドレスのモデルの人を探しているの!」

「モデル?モデルってなんですの?」

アンナが首を傾げた。

「えっと、例えば新しいデザインのドレスをお客様に見せる時、今までは絵に描いたものを見せていたのだけれど、できれば実際に着た感じを見せたいって。」

「ドレスを着て、お客様にお見せすることなのですね。」

わたしは大きくうなづいた。ただしこれには1つ問題がある。モデルの仕事をしているなんて女の子を見て、自分の息子の嫁にと思う貴族女性がいるか、と言うことだ。モデルと言う認識事態がこの世界にはない。わたしが初めて、マリーさんに提案した方法だ。

今回マリーさんが探しているのは、春の初めに開かれるデビュタントのドレスのモデル。

まさにわたしたの年齢が着るドレスになる。


デビュタント、つまり社交界デビューはこの世界での成人を意味する。学院の生徒や貴族の子女は、王城の広間でファーストダンスを踊るそうだ。レイトさんに聞いて蒼くなった。

街の子どもたちは、みんなで教会や街の集会所などの大広間で、輪になって楽しく踊る。その日は、街もお祭りになる。みんなで成人した子どもを祝うお祭りだ。女の子は皆、似たり寄ったりのドレスを着て、男の子は、自分が持つ一番良い服を着る。女の子の親は、母親がドレスを縫うものもいれば、服飾工房で作るもの。出来上がったドレスを購入するもの、と様々だ。問題は、その全てがオートクチュール、つまりオーダーメイドであると言うこと。

わたしも昨年は、シリカの成人を祝った。


今回マリーさんは、デビュタントのドレスを街の子どもたちにも、もっとおしゃれなものを提供したいと思っている、らそして、もちろん学院の生徒にも。

そのために、平面の絵ではなく、実際のモデルが着たところを見せたいと考えた。

実はわたしも協力するし、すでに成人しているトリガーの女性3人も協力してくれる。


デビュタントのドレスをよりおしゃれに、より低価格で、を目標にと考えたのが、大量受注と大量生産、そして大量販売。つまりプレタポルテ、既成服の始まりだ!

マリーさんは、春よりは涼しいけれど。比較的気温が近い秋のお祭りの時に、街の中心でモデルにデビュタント用のドレスを着せて、ファッションショーを開く。いつもなら、学院の生徒にはデザイン画を見せて早めに注文をとり採寸、その子だけの一着を作る。今回は、いくつかのデザインから、人気のあったドレスに絞り、いくつかのサイズのドレスを大量に生産しておく。それを春になる前に、販売すると言う方法だ。


お金に余裕がある子どもは、今まで通りオーダーメイドで良い。しかし余裕がない子どもにしてみれば、少しでも安いに越したことはない。

そこで、街の子ども用のデザイン数種と、学院の生徒用を複数用意して、それを大量に作る。縫製も分業にするため、服飾見習いの子どもにも仕事を与えられる。


だいたい、貴族の子どもたちでも、流行のデザインとなれば、多くの子が同じようなドレスを色違いやちょっとした違いで着ている。それなら、土台を大量生産し、アクセサリーやオプションで変えれば良いじゃないか。と、マリーさんに提案したのが入学式の翌日だった。

そう、学院の制服を見て思ったのだ。


というわけで、モデルの話をアンナにしたところ、ぜひ引き受けたいと言ってくれた。


わたしは週末1日目の朝、コナンパンでシリカと待ち合わせをして服飾工房へ行く。モデルのことはジルさんには言ってあるので、今日は午後からギルドに出勤する。

アンナは服飾工房の前に入った、コナンパンのパンも気に入ってくれた。

「ここのパンはとても美味しいですわ。」

中でも、わたし考案の煮たお豆の入ったパン、所謂あんぱんを一番気に入ってくれたようだ。




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