お別れしなくちゃダメですか?
街のあちらこちらで、建物の補修が行われている。わたしが説明した耐震構造は、窓ガラスの強化にも応用され、新しい割れにくいガラス作りも始まった。
いつのまにか春は終わりを告げ、夏になっていた。あまり湿気のない王都は、夏といってもカラッとしていて過ごしやすい。
わたしのアパートの部屋は、いつのまにかテイルが解約をして、月末には退去することになっていた。
わたしの荷物は一時的に、ブラントン家のタウンハウスに運ばれた。大したものもないので、正直肩身が狭い。
秋になったら学院の寮へと移動できる。
月が変わり、本格的な夏になり、学院からは入学の書類が届いた。寮の部屋が決まれば、すぐに入寮だ!早くこの屋敷から出たいよー。
侯爵家からギルドの制服を着て出勤するわたしに、ブラントン家のメイドたちはあまり良い顔はしないが、家主の命令とあり、誰も口にはしない。
それでも、朝食と夕食は屋敷で食べるよう言われ、ギルドの残業がしづらくなった。こちらも肩身が狭い。
さらに、その度に着替えるのも、すっごく面倒で、時間と服を洗うコストが無駄。はっきりいってコストパフォーマンスは最悪だ。
いつかこの家の女主人になるのか、と思うと気が進まない。しかし、そうなったらコストパフォーマンス改革に乗り出そう!
わたしがブラントン侯爵邸から出勤していることは、いつのまにか冒険者の中でも噂になっていた。
最悪だ。今まで気軽に話しかけてきた人たちが、なぜか急に敬語になっている。
昼休みルリアさんに泣き付いたら、苦笑されながらも慰められた。
「本当の本当に、ただの弟子なんだよね?」
とリシィさんに聞かれ、大きくうなづく。本当、わたしは嘘つきだ。
あれほど親しくしてくれていたトリガーや白狼も、遠巻きに見られて、すっごくこれも肩身が狭い。
あと数日しかここにいられないのに、楽しくないよー。
そんなわたしの気持ちを知ってか、レイトさんが恐る恐る話しかけてきた。
「あ、あの、アークさんに、頼まれて。」
そうか、レイトさんなら一応伯爵家の人間だから、ということで、仲間から頼られたのかも知れない。
頼まれた、としても、久しぶりに話かけられて、すっごく嬉しかった。嬉しすぎて、思わずしがみついて泣いてしまった。
「寂しいよー。みんなと楽しくお別れしたいのにー!」
わたしがレイトさんにそういうと、陰に隠れていたらしい、トリガーの面々が飛び出してきた。
「お別れってどういうこと?」
「あ、そうか。学院に入るから辞めちゃうんだよね。」
「そんなー。ごめんねー。セリナはセリナなのに。」
女性3人に囲まれ、レイトさんはいつのまにか押し除けられ、わたしたち4人は抱き合って泣いてしまった。
ギルドの入り口で、抱き合って泣く4人に、白狼のケントさんが、
「こんなところで邪魔だ!中に入れ!」
と押し込んできた。
あ、ごめんなさい。
抱き合って泣いたままの形でギルドの中に押し込まれたわたしたちに、ジルさんとバンさんが
「邪魔だ。」
「仕事しろ。」
と言ってきた。
そんな2人の様子に、他の冒険者もわたしにいつも通りでいいと思ったらしく、前のように話しかけてくれた。嬉しすぎ!
それから10日,
わたしのギルド出勤最後の日が来た。
その間、わたしは今まで通りの業務をこなし、レイトさんからは時間が許す限り、学院の話を聞いた。
必修の授業と選択の授業があること。
語学、歴史、法律学、ダンスと女子はお茶会は必修であること。ゲッ!
1年生の時に社交会デビューがあるので、それまでにパートナーを見つけること。
ちなみに、レイトさんは妹さんが勤めたらしい。
「わたしはレイトさんにお願いしようかなー。」
というと目を丸くしていた。
選択には乗馬や剣術、数学や科学、裁縫、音楽と様々な授業から選べることなど。うん、楽しそうだ。
そして、大きな事件もなくわたしはギルド最後の日を迎えた。明日、わたしは学院の寮に入る。来週は入学式。入学式には、祖父とブラントン侯爵が、来賓として呼ばれている。
もう一年。わずか一年だったけれど、すっごく楽しかった。すごく勉強になった。
そして最後の依頼報酬を渡したあと、わたしは静かに席を立った。そのまま、誰にともなくお辞儀をして。
その時、どこからともなくヒソヒソ声が聞こえる。
「ちよ、押すなよ。」
「え?今じゃね?」
わたしがキョロキョロと見回すと、ドッと色々な方角から、冒険者やギルドの人たちが飛び出して来た。
その腕にはみんな大きな花束や、箱や、お菓子のカゴを持っていた。
「セリちゃん、お疲れ様!」
「セリナー。元気で頑張るんだよー。」
「立派な最高賢者になれよ!」
口々に別れの言葉と、励ましの言葉を添えて。
わたしは受け取りきれないくらいの贈り物を押し付けられ?顔も隠れてしまう。でも顔が隠れて良かった。
だって涙でぐちゃぐちゃになっていたから。
わたしは声にならない感謝の気持ちを、大きくお辞儀をすることで、許してもらった。業務時間が終わっても、その騒ぎはしばらく収まらなかった。
その日の夜、テイルが婚約の話はなかったことにしよう。と言って来た。侯爵にはこれから話すという。好きとか嫌いとか以前に、わたしたちは兄妹のようだし、わたしはこの世界で初恋も経験していない。
貴族なら当たり前だというが、やっぱり恋の一つくらいはしたい。
そんなわたしの気持ちを知ってか、テイルの優しい気遣いだった。
入学式の日、わたしは一年ぶりに祖父に会った。式の後、祖父とわたしは久しぶりに一緒に食事をした。祖父は優しくわたしのギルドの受付嬢の経験談を聞いてくれた。
食事が終わり、祖父は侯爵邸に寄った後、明日屋敷に帰ると言う。
別れる直前、祖父はわたしの手に手紙を握らせた。後で見るように、と。
祖父を見送ったあと、寮の部屋で、ドキドキしながら手紙を開く。
『セリナへ。学院での授業料、食事代、寮費やデビュタントのドレスはこちらが用意する。ただし、お小遣いは自分でアルバイトするように。ちなみに、アルバイト先は、ジルに頼んである。祖父アルカナより。』
‥?はい?えっ?えーっ!?
こうしてわたしの受付嬢生活は続くのだった。
文才も語彙力もないわたしが初めて書いてみました。
読み返すと、誤字脱字だらけで恥ずかしいかぎりです。
自己満足で書いたものでしたが、読んでくださる人がいたことを知り、すごく嬉しかったです。
本当にありがとうございました。




