筋交入れなくちゃダメですよ!
ダリさんには奥さんと、まだ小さい2人の子どもがいた。上の女の子は父親の死を理解したが、下の男の子はまだよくわからない様子で、ずっと目を覚さない父親の顔をペシペシと叩いていた。
葬儀の時は街の人、冒険者、ギルドの職員と、大勢がダリさんの最期を弔いに来た。そして、銀龍のメンバーが持つダリさんの棺は町外れの墓地に埋葬された。
本当なら弱い魔物が大量発生しただけの、簡単な依頼のはずだった。冒険者の家族になったからには、いつ命を落とすかわからない。そんな覚悟はあったかも知れないが、奥さんにとってはあまりにもやりきれない、予想外の出来事だったに違いない。
わたしがもっと上手く説明できれば。あの時、人まかせにしないでわたしがちゃんとついていれば。もう少し早く、瓦礫の下から助け出してあげられていたら。
誰もが思うことかも知れないけれど、悔しさと悲しさとが混ざり合って、家族や銀龍の仲間よりも、わたしがずっと大泣きしていた。
そんなわたしを、なぜかギルドの先輩ではなく、トリガーのメンバーが周りで支えてくれていた。
あの時は夢中で気づかなかったが、ダリさんの異変に気づいた女性冒険者は、トリガーのスピカさんだったらしい。よく覚えてないくらい夢中だったんだよ、とスピカさんに慰められたけれど、冷静さも失っていた、ということだ。
その後、今回の事件のこともあり大工職人さんや魔導具師さんたちは、前回の話し合いに加え、老朽化した建物についての問題も取り上げることになった。
というよりも、冒険者の喧嘩で窓が割れた件より、今回の廃屋敷の方が、大きな問題と捉えられたらしい。
今回のような老朽化し手入れされていない屋敷は、国の至るところにある。統治する領主がいなくなった場所。感染症の大流行で、住人がいなくなってしまった町や村。
こういった場所の建物をどうするか、そしてこれから建てていく家はどうしたら良いか、ということが話し合われた。
話の内容が大きくなるということで、サイレント侯爵も会議に参加することになった。
結果、会議はギルドではなく侯爵邸で行われることになり、大工職人さんたち貴族のマナーがわからない人たちは、ものすごーく気まずい雰囲気のまま参加した。
ジルさんの要請でわたしも出席、書記としてジルさんの隣に座ることになった。
国中の古い建物については、侯爵からさらに上の大臣たちの話し合いにあげられる、持ち主がいない場合は、建物を壊すことが決まった。
現在人が住んでいるところは、住人にこまめに破損箇所を直すよう、通告することになった。
問題は公的な建物の老朽化で、その中でも今回のような、大きな建物の場合だ。
わたしは、ダリさんの件では、たくさん後悔していることがあったので、今回は出し惜しみなく参加しようと意気込んでいた。
「古いレンガは新しくする、というのは当然だが。」
「ただ新しくしても、また何年か経ったら修理が必要になってはかなわない。」
「とにかく、崩れにくい建物を作ろう。」
専門家、と言われるアカデミアの先生も交えて、話し合いは続き、結果レンガや石の中に鉄の柱を入れることになった。
鉄筋コンクリートの始まりだね!
しかし、そこでわたしは待ったをかけた。
「ペンを6本貸してください。」
そうお願いすると、まず4本のペンを紐で括り付けて四角に囲った。
「このように4方向だけ柱を入れた場合、上から強い力を加えると、このように崩れてしまいます。」
そう言いながら、上に横たわったペンの上にノートを置いて潰した。
「しかし、筋交、つまり4隅を結んでクロス、×点になるようにさらに2本加えると、上からも、横からも力を加えても、崩れにくくなります。」
と、わたしは耐震構造の説明をした。
これも前世の家庭科の授業、住居で教えた話だ。このほかにも免震構造、制振構造。地震大国日本は平安時代から、耐震の研究があったのだ、
それを思い出すと、この国の城にある見張り塔や、教会の鐘のどうはどうなっているのだろう。
五重塔やスカイツリーのように、制振構造になっていないのだろうか。
「これから建物を建てたり、壁の補修をする人には、このように筋交を入れるようにすれば、れんがを積み上げるより、丈夫に長持ちするようになります。」
アカデミアの先生や大工職人という専門家がいようがかまわない。ダリさんの家族のような悲しい思いをする人はもう出したくない!
そう思ったわたしは、紙にわたしが知る限りの災害教育を披露してみせた。




