試してみないとダメですよ!
ソフィーさんの工房では、早速清酒とスライムを合わせた実験が始まった。
清酒が高いとのことで、今後を考えワインやエールといった他のアルコールとも合わせてみたところ、蒸留酒でも同じような状態になった。ただ問題は、清酒の場合白く透明な液体になるが、蒸留酒では、琥珀色の液体になった。
そこで魔導具工房では、蒸留酒で液体にしたものを特注大型注射器に入れ、針先から出たところ、魔術を使った回路で透明にすることになった。
特注注射器と、超極細針は金属工房の工房長がこの間、何度も失敗を繰り返しながら作ってくれた。その針にさらに絹糸並みの細い穴を開けたのは、魔導具工房長のソフィーさんだ。
特注注射器と注射針は魔導具工房の三階の吹き抜け部分に取り付け、それを二階の吹き抜けで透明化と乾燥、それを一階で受け取る、というなかなか大掛かりなものだ。
初めの1本目の糸が一階の受け皿に来た時は、すごく感動し、みんなで喜び合った。こうして一本建物3階分の糸が次々に作り出される。ある程度束にし、それをシリカがマリーさんの待つ服飾工房へ持っていく。
イクメン事件?で、わたしを嫌っていた酒屋の主人たちは、蒸留酒を大量注文に行くと、手のひらを返したようにご機嫌顔で、対応してくれた。イクメン計画はやめないけれどね!
シャツ数枚分の糸ができると、マリーさんたち服飾工房では、早速数枚の下着を作成、それを出資元の侯爵家に献上した日は、雪雲が空にかかる寒い日だった。
早速試した侯爵は、その温かさに感動。全てを買い占めると言われ、ジルさんは説得に苦労したらしい。
残りのシャツはギルドで、白狼のミリカさんをはじめとする女性冒険者の配られた。
もちろんミリカさんたち白狼は、早速雪山の雪鹿や白鹿討伐の依頼に出かけた。残ったうちの3枚はこの日雪山依頼に出かけるトリガーの女性冒険者3人に手渡された。
その様子を見ていた他の冒険者も欲しがったので、それ以後は、追って販売する旨を伝えるのに大変だった。さらに、わたしたちはその糸を使ったアウターも作製することに。
わたしはこの下着の弱点である吸湿性の低さ、撥水性の良さを服飾工房の人たちと話し合うことになった。
「吸湿性?」
はじめは疑問だらけだったマリーさんたちだったが、わたしが実際に水の入った容器にできたシャツを浸し、水分がほとんど吸い込まれないことを見ると、なんとなく理解してくれた。
「この繊維はアルコール、蒸留酒を使ったため、汗を吸い取りにくいんです。そのため激しい戦いの後、下着の中はたぶん汗の水滴で不快になってしまいます。しかし撥水性、つまり水を弾くので、雪や雨の時のアウター、1番外側に着るものとしてはすごく適しています。」
そこまでの説明を図にすると、服飾工房の人たちは、なるほどとうなづく。この世界では今まで全てが天然繊維だったので、こういう性質は初めてなのだろう。
「しかし、内側に空気をたくさん含む綿のシャツを着て外側にこの繊維を使ったジャケットを羽織ると、綿の下着が汗を吸い取り、逆にジャケットが汗を撥水させ、体温を外に逃がさず、外側の冷たい雪や雨を中に通さないので、暖かく動きやすく、快適に戦うことができます。さらに、この新しい繊維の弱点を綿や毛と撚り合わせることで、それぞれの弱点を補い合う新しい糸や生地も作れます。」
わたしは新しい繊維の性質だけでなく、イッキに混用や混紡というところまで説明した。おそらく、この世界では、繊維を混ぜて使うことで、弱点を補える、という考え方がなかったのだろう。
シリカはわたしの話を聞くと
「さすがセリナ!最高賢者様の孫だわ!」
とわたしの手を握ってきた。
賢者とはあまり関係ないのだけれどね。
「でもこれは、わたしの(前世の)理論上の話なので、実際にはどれくらい混ぜて糸にすると1番良いものになるかは、試してみないとダメなので。」
「大丈夫!わたしら服飾工房だって、試してみないとわからないことぐらい、理解してるよ!」
「何せ初めてなことだ。今まではあったものをただ生地にして作ってたけど、オレたちにも新しいものが作れるなんで最高じゃないか!」
「なんか、魔導具工房のお株を取っちゃったみたいだよね!」
服飾工房の人たちが、楽しそうに言ってくれる。嬉しい!
新しいものを作ってみるのが、これほど楽しくて嬉しいなんて、わたしもこんな気持ちは初めてだ。
ただ、この話を後から聞いたソフィーさんが、ちょっとむくれて、結局混用したものをさらに細い糸に仕上げるのは、魔導具工房の仕事となった。
前世は、ただ教科書やニュース、ネットで調べたことを理論的に教えていただけだったけれど、この世界ではかつてとは違う素材も使って新しいものづくりができる。
トイレやお風呂事情はさておき、この世界もまんざらではないな、と改めて楽しくなった。




