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魔女と狼は月下で笑う  作者: 庄司 篁
散月 文化芸術大会
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第80話 第三回評議会

 ソフィの監禁事件は幕を下ろし、真犯人とその側に付いていた鳥蝶会は、一つの大きな派閥としての力は失った。

 事件の真相は、あの場を経て周囲に広まり、ある程度真実に則した認識が広まった。

 しかし、華月会の評判はある程度戻りつつも、完全回復とまではいかなかった。


『鳥蝶会を潰すための華月会の策略』

『華月会のメンバーが実行犯だったことに変わりはない。責任は華月会にもある』

『やはり、"魔女"』


 そんな陰口が後を絶えない。

 波乱の波は、今だ収まっていない。


 そんな中、第三回評議会が開かれた。

 来たる文化芸術大会に向けての評議会であり、議論の場は用意されていない。

 だが、どこか張り詰めた空気が漂っているような気がした。


「では定刻通り、第三回評議会を始めます」


 生徒会長であるシャルロット王女の言葉で、評議会は幕を開けた。


「いつもの定例報告のための報告書提出の前に一つ。皆様にお話があります」


 緊張した空気の中で、さらに王女は空気を張り詰めたものにするような言葉を吐いた。


「近頃、生徒間での諍いが過激化し、危険な行為をする生徒が現れております。これらはこの学園、ひいてはフロスティア大学校そのものの評価を下す、重大な行為です」


 何の争いなのか、相も変わらず抽象的に表現しつつ、王女は生徒会長としての言葉を語る。


「このような行為はお控えいただきますよう、皆様にお伝えさせていただきたく、このような場を設けました。努々、気を緩めぬように」


 遠回しに、このレベルの諍いは起こすな、との諫言だ。

 エリーヌは少しばかり視線を動かし、鳥蝶会の席に座るイヴェットを見る。

 澄ました顔をしてはいるが、少し眉間に皴が寄っている。


 あの後、レベッカはあの場の宣言通り、一年の停学処分となった。

 過去の事例や脅迫の数々の事もあり、より重い処罰が下るはずだったものが、ただ宣言通りになったらしい。噂によれば、彼女の実家が慰謝料と名のついた金一封と共に、生徒会に嘆願書を送ったという。だが、所詮は焼け石に水で、せいぜい差し引きゼロ。

 貴族ならば、この学校を卒業すること自体は、当たり前に近しいことだ。

 時期が時期なので、一年の停学措置は卒業に関わる可能性がある。留年などすれば、貴族にとっては恥。実家ではさぞ厳しく詰められたことであろう。

 

 ちなみに、真犯人の脅しによって事件を実行してしまったオリオール姉妹は、禁書の持ち出しの件もあって、元通り復学とはならなかった。年が明けるまでの残り二か月ほどの停学。また、今年度いっぱいのサロン活動への参加自粛を求められ、それを了承した。

 あの後見舞いに行ったが、事態を重く受け止めつつも、処罰が軽くなったことを喜んでいた。

 しかし、彼女たち自身の評判もあるので、エリーヌとは今後距離を置かせると当主は言っていた。寂しいことだが、仕方がない。


 そんなこんなで、全て事件は収まりつつも、いまだその余波が周囲を揺るがしていた。


「では本題に戻ります」


 話題は戻り、いつもの定例報告を済ませ、今回の本題に入った。


「次の議題は、来たる散月の文化芸術大会に向けての準備についてです」


 王女がそう言うと、書記の生徒会員が板書を始めた。


 文化芸術大会。フロスティア大学校という大きな括りで開催される、文化や芸術披露の為の会だ。

 自分たちの作った芸術品を飾ったり、あるいは既存の文化や芸術品の解説を観客にしたり、ちょっとした喫茶店を開くような人たちもいる。

 文化的・芸術的なものを扱う催し物をするのだ。

 ロザとリリウムの行き来が可能になり、また生徒の親族の観覧も許可される、大規模な会だ。


「まずは日程について。文化芸術大会では、競技大会のようにいくつかのサロンが組み合わさり、チームを組んでいただきます。その為に例年通り、第三回サロン交流会を開催します」


 文化芸術大会では、サロン同士でチームを組み、催し物を考える。

 今回は、2サロンで1チームだ。


「交流会を行ったサロンでチームを組んでいただき、月末に開催される大会本番までの期間、一限当たりの授業時間を減らし、サロン集会の時間で準備をしていただきます」


 交流会でチームを確定させ、何を開催するかを議論する。

 今回もある程度派閥争いが関わるが、今回の行事に限ってはさしたる影響はない。しいて言えば人気取りぐらいだが、それよりも重視すべきところがある。


 まず大会というと、競技大会のように何か競うイメージがあるが、これはあくまで大きな会という意味の大会だ。

 だがその語彙に引っ張られて、例年ロザとリリウムで集客率を競っている。

 この大会は、フロスティア大学校として、両校舎の門が大々的に開かれるからだ。


「今年度は、このフロスティア大学校に、女学園である聖リリウム学園が創立されてから20周年となる記念すべき年です。より大々的なものにするために、皆様のご協力をお願い申し上げます」


 きっと、生徒会も今は内部で争っている場合ではないと言いたかったのだろう。彼女達生徒会の評価も、この大会で関わってくるに違いない。

 どちらが最も人を得るか、水面下だが確実に争い、両者は火花を散らしている。


「つきましては例年通り、どこか一つのサロンに、リリウム実行委員会に参加いただき、運営の手伝いをしていただきたく存じます」


 この大会では、リリウムとロザの生徒の行き来が可能になる。加えて生徒の親族もやってくるため、管理・運営にそれなりの人数が必要になる。

 その為、毎年どこか一つのサロンに、実行委員会として生徒会とタッグを組み、運営の手助けをしてもらうのだ。

 勿論、サロンとしての催し物もあるため、ちょっとした手伝いに過ぎない。


 ちなみにその相手は、既に決まっている。


「では、我々が参加させていただいてもよろしいでしょうか?」


 そう言って、手を挙げて立ち上がったのはクロエだ。

 そう、この実行委員会参加は、毎年度風紀会が担当している。

 貴族の者達がそういった面倒をしたがらないというのもあるが、生徒会がそれを望んでいるというのが大きい。

 リリウムとロザの交流においては厳格なルールがあり、実行委員会はそれらを見張ることが主たる仕事。

 普段から学園掟を片手に目を光らせている風紀会が最も適任である。また、サロンの名前も『風紀会』であるため、名実ともに申し分ない。


「毎年度ありがとうございます。では、風紀会にお願いしましょう」

「お任せください」

「無論、貴女方の催し物を阻害しない範囲で仕事をお頼みする予定です。後ほど、詳しいお話をさせていただきますね」


 両者の同意で決し、クロエは席に着いた。

 明確に首席へのポイントにはなり得ないが、ここで立候補しておくことで、生徒会からの心象は良くなる。必要事項だ。


「それでは実行委員も決まりましたので、文化芸術大会の注意事項についてお話させていただきます。まずは――」


 着々と大会の話が進められる中、エリーヌ達の目前に迫ったのは、再再来のサロン交流会だ。




***




 「では、実行委員会以外の方は、ご退出ください」


 評議会は無事終了。

 実行委員会に立候補した風紀会所属の二人は残り、他のサロンの者達は退出をした。


「また、サロン交流会ですか」

「そうね。これで最後かしら」

「思えばそうですね」


 二人は帰宅するために廊下を歩きながら、そんな会話をした。

 サロン交流会は毎年度、この第三回で終わりだ。

 そして、エリーヌ達にとっては、学校生活最後のサロン交流会になる。


「しかし、いかがいたしましょうか。サロン交流会の交流相手」


 ベネディクトはそう言って、難しい顔をした。

 エリーヌもまた、眉根を寄せ、厳しい表情を浮かべる。


「取れるかしらね、『講堂』」


 エリーヌがそう呟くと、ベネディクトがうーんと唸るように腕を組んだ。


 サロン交流会において、文化芸術大会で組む相手サロンを決めるわけだが、それと共にあるものの申請を出さなくてはならない。

 催し物・出し物をする為の会場の申請だ。


 基本的には、催し物の規模にあった大きさの各教室・教場に申請を出すわけだが、やはり大小の差がある。

 とりわけ、学園の全生徒を収容可能な『講堂』は、大きな出し物をするためにはうってつけで人気。

 逆に言えば、この学園で最も大きな催し物をしたいとなれば、講堂を取らなければならない。

 派閥争いがあまり関わらない文化芸術大会で唯一、ここには派閥争いが絡んでくる。


 申請を出したのち、決定して告知するのは生徒会。申請が他サロンと被った場合などに配慮をし、その裁量権を持つのも生徒会。つまるところ、全ては生徒会の意のままだ。

 そして例年、『講堂』を第一希望とする申請が通るのは、その年度のこの時期における現状のトップサロン。

 これを機に、生徒たちは一度、生徒会がいま最も首席として有力視している生徒を知ることができる。

 無論、主要なイベントで最も点を取っていれば、そのサロンの申請が通るわけだ。

 しかし生憎、今の段階でエリーヌ達に点差はない。

 誰が『講堂』を得るかを予測する術が無くなってしまった。


「点差がない場合、ある程度生徒の人気が集中しているサロンに譲られる傾向があると、聞いたことがあります」

「そうね……差別化するには、そこしかないものね」


 エリーヌは厳しい表情のまま、顎に手を当てそう言った。


「……」


 そうしてエリーヌは思わず押し黙る。

 厳しい現状が目前に広がっていることを、否定しようがないからだ。


 次に点を得られる機会は、最後の総合テストだ。

 それまでに、前回の監禁事件で下がった評判を上げなければならない。

 その為には、この文化芸術大会で、講堂で催し物をすることがもはや必須。

 だが人気が無ければ、講堂は取れない。

 ここにきて、事件の打撃が尾を引いている。


「次のサロン集会で、詳しく考えましょう」

「分かりました」


 運任せというわけにはいかない。

 必ず勝つための手段を、考えなくてはならないようだ。

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