第67話 魔術のルール
※魔術のルールはポ〇モンの居ないポケ〇ンバトルか、ちょっと複雑なじゃんけんのようなものだと思ってください。
あと、元気な方がララで大人し気な方がサラです。(多分間違えている回もあります)
接戦となった剣術の試合は終わり、競技大会午前の部は終了。
興奮冷めやらぬまま、昼食の時間となった。
「かの狼をあそこまで追い詰め、大変な接戦でございました」
観客席の絨毯に、食堂で貰って来たサンドイッチを並べ、エリーヌはチームメンバーやサロンのメンバーから賛辞を貰っていた。
「今まで、彼女をあそこまで追い込んだ者はいませんわ」
「ええ。素晴らしい剣技でございました!」
「ふふっ。ありがとう」
労いの為に、食堂から借り受けたポットから紅茶を注いでもらったり、サンドイッチを差し出されたりなど、まるで特別待遇だ。
それだけ惜しい試合であったということにしておこう。今は周りを気遣うよりも、休むのが先決だ。
「ですが、お次は魔術ですわ」
「こればかりは、エリーヌ様の独壇場ですものね」
悠長ともいえる言葉に、エリーヌは困り眉の笑顔を浮かべる。
「油断ならないわよ。彼女も同じグループだもの」
エリーヌはそう言って、紅茶を啜る。
クロエもまた、魔術の成績優秀者として、エリーヌと同じグループでの試合だ。
彼女はきっと、勝利を確実にするために、魔術も全力で挑んでくるだろう。
油断は大敵だ。
***
「ではみなさん、グループごとの審判の指示に従って、適切に行動してください」
『はい!』
サロンの者達に指示を出し終えて、皆個々に準備を始める。
魔術は個人戦。一人ひとりで動かなくてはならない。
「エリーヌ様のグループは最優秀グループですから、最後の部ですね」
「そうね。しばらくはみんなが頑張っているところを応援するわ」
グループ内での総当たり戦ということで、それなりに時間がかかる。
そういうわけで、三部構成となっており、成績が良いグループが最後となっている。
剣術の時のように、最後にトリとしての場が用意されているわけではない。
「わたくしも、エリーヌ様と同じグループになれたらよかったのですが……」
ベネディクトが肩を落としながらそう言う。
彼女とは同じグループになれず、試合の時間も重なってしまった。
授業内での成績が、エリーヌ程振るわなかったのだ。
「仕方がないわ。魔術は運による勝敗も大きいから」
そう言いながら、エリーヌは観戦をするために絨毯に座った。ベネディクトも、その横に座る。
目前では、下級生が既に試合の準備を始めていた。
校庭では剣術で使ったピストは片付けられ、大きな魔法陣が真ん中に一つと、小さな魔法陣が片隅に一つ描かれた大きな羊皮紙が敷かれている。
選手が大きな魔法陣の上に乗ると、乗った人間を筒状に囲うように、ガラスのような障壁が浮かび上がる。
安全のための結界だ。
そして、審判が小さな魔法陣に色のついた石を置く。するとまた、重ねて筒状の結界が張られる。
こちらは、試合で勝敗を決めるための結界だ。
競技魔術の勝敗は単純。魔術を相手の結界に当て、先にそれを壊した方が勝ちとなる。
しかし、ルールそのものは少し複雑だ。
基幹科目にもある魔法学、その知識を原理として、それを操る術が魔術。
魔術にも様々種類があって、教養科目の『魔術』では、簡易的で実践的な魔術の習得を目指す。
魔術に必要なのは、呪文と魔法陣。その二つを兼ね備えているが故、魔術に必須となる道具が『魔術書』。
使う魔術に対応する魔法陣が書かれたページを開き、正しく呪文を詠唱することで、魔術は放たれる。
魔法陣には、威力の指定と制御の役割があるため、競技魔術においては、皆同じの魔術書を使わなくてはならない。
この競技大会で使う魔術書は、『四大原書』と呼ばれる原典魔術書の簡易写本だ。
操火、操水、操地、操風の魔術を可能とする魔術書で、競技用に威力を調整されたもの。以前、ララとサラが提案してきた魔術書の入れ替えは、まさしく勝負を揺るがす行為というわけだ。
では、これらでどのように競うのか。
「始め!」
審判の声が上がり、全員一斉に魔術書を開く。
エリーヌ達の前で勝負するのは、なんとララとサラ。
同じ派閥だが、どうやら同じグループになってしまったようだ。双子は成績まで似ているらしい。
「エリーヌ様!」
「ベネディクト様……!」
「二人共、頑張って」
エリーヌ達の応援に、二人はよく似た顔で気合の入った表情を浮かべる。
「『野火を焚きたる星の空。吐ける炎で衣を清め、白き情熱輝かせん』」
「『野火を焚きたる星の空。吐ける炎で衣を清め、白く』……あっ」
二人とも同じ呪文を唱えたが、サラが呪文を噛んでしまった。
「『来たれよ、火竜』!」
「『野火を』――きゃっ!」
ララの攻撃が、サラのバリアに当たる。
魔術を使うのには、呪文詠唱を成功させるのが前提。一度言い淀んでしまえば、もう一度初めから詠唱し直さねばならず、後れをとるために必ず攻撃は当たる。
呪文は『原語』と呼ばれる魔法学専用の古代語で詠唱せねばならず、経験の差が大きく出る。
下級生は経験が浅いが故に、この初歩的なミスが多い。
「『野火を焚きたる星の空。吐ける炎で衣を清め――』」
ララが、すぐさま同じ魔術の呪文詠唱を始めた。
恐らく、このまま速さと正確さで押し切ろうと思っているのだろう。
「……! 『白鳥謳う夜半の湖上。誓いの言葉を漱ぎ、永遠に魂繋ぎ止めん』」
サラは、ララの先ほどと同じ詠唱を聞き、魔術書のページを捲りながら、別の詠唱を素早く始めた。
「『来たれよ、波の乙女』!」
「『来たれよ、火竜』!――くぅっ!」
同じタイミングで魔術は放たれたが、こんどは火の魔術を唱えたララがダメージを喰らった。
魔術には相性がある。火は水に、水は地に、地は風に、風は火に弱い。
同じタイミングで魔術が放たれると、ある程度打ち消し合って両方に小ダメージが入る。だが、その二つの攻撃に相性があった場合、優位の魔術が相手の魔術を完全に打ち消し、相手に中程度のダメージを与えることができる。
相手の攻撃を読むことで、防御と攻撃を兼ねることができる。
「『我らが女神の死の母よ。優美に森を駆け巡り、その身で毒霧を晴れさせん』」
「『白鳥謳う夜半の湖上。誓いの言葉を漱ぎ、永遠に魂繋ぎ止めん』」
片方は火の魔術から風の魔術に切り替え、もう片方はそのまま水の魔術の詠唱を始めた。
同じタイミングの詠唱、そして相性の良し悪しがない二つの魔術。
このままぶつかれば、互いに小ダメージが入る。
素で魔術を当てると大ダメージ、優位の相性で中ダメージ、相性のない小ダメージ。順に3P、2P、1Pとする。
そう考えた場合、結界のHPの上限はおおよそ10程度。つまり、初手に攻撃を与えたララは残り8P、サラは7P。
さて、どうなるか。
「『来たれよ、波の乙女』……っ!?」
サラの水の魔術は放たれ、バリアに当たる。
しかし、同時に詠唱を始めたはずのララの攻撃が放たれない。
「『茨の棘に怒れども、その痩身に花は舞う。来たれよ、森の妖精』!」
「『野火を』……うわぁっ!」
時間差で放たれたララの魔術は、サラのバリアに当たった。
追加詠唱を行うことで魔術は強化でき、そのまま当たれば特大ダメージを与えることができる。
強化された魔術は相性の良い魔術で相殺が可能だが、打ち破って相手にダメージを与えることはできない。基の詠唱に続けて行うものなので、相殺の為に再び詠唱をしても間に合わない。
ただし、追加詠唱をすることで、総じて詠唱の時間は長くなるので、同時に放たれた詠唱の短い普通の魔術は身に受けることになる。
ララに大ダメージ。サラに特大ダメージが入ったことになる。
そしてまた、攻撃が行われ――
「そこまで! 勝者、ララ!」
サラの結界が破れたところで、ララの勝利となった。
「やったぁ!」
「あう……」
ララは飛んで喜び、サラは肩を落とした。
ララの追加詠唱のダメージを喰らった後、立て直そうとサラも善戦したが、初手の攻撃での差が痛手となってこのような結果となった。
「エリーヌ様、ベネディクト様! 見てくださいましたか!」
「ええ。追加詠唱の増幅魔術まで扱えるなんて、ララはすごいわ。サラも、よく頑張ったわね」
エリーヌはそう言って、全力で勝負をした双子を褒めたたえた。
これが、魔術のルール。
指定された行動を正しく履行する力、ルールを有効活用する力、そして、相手の次の手を読む力が試される。
まさに、社会で生きる能力の集大成となる競技である。




