小話 ハロウィンの日
――ソレイユたちの世界には、多くの種族がいる。
だからこそ、ハロウィンというものも存在していた。
ハロウィンの日、ソレイユは彼ら青年たちの元を訪れていた。
「はーい、ハッピーハロウィン。お菓子をくれないと、イタズラするよ?」
ソレイユが激しい音と共に屋敷のリビングに突入すれば、七対の視線がソレイユに集中する。そして、彼らの目はすぐに驚きから見開かれた。
「おっ、前……、なんつー格好しているんだ!」
エテの激しい叱責が飛んでくる。
だが、ソレイユはあっさりと答えた。
「何って、お姫様の格好だけど」
「恥じらいとかプライドとかねえのかよ!?」
次いで、プランタンが声を上げれば、ソレイユはケロッとして。
「だって、イベントごとでしょう? それに、銀髪はお姫様みたいだって言うから」
ソレイユは丈の長い紺色のドレスに身を包み、髪を珍しくもゆったりと結んでいる。髪型まで変える必要はなかったのかもしれないが、ここまできたらとことん興に乗ることにした。
そもそも、その一意見はシエルからのものである。
たまたま会話の中でハロウィンで仮装するならという例え話が出た時に、シエルはソレイユを指差しながらズバリと答えた。
「ソレイユはぜーったいお姫様だろ!? 銀髪だし!」
「何その銀髪に対しての偏見。しかも、お姫様って柄でもないし。断固拒否するよ」
「いや、魔女って言われてるなら魔女のコスプレでもって思ったけど、それよりもなんか似合いそうって言うかさー」
「うわ、嬉しくない」
「元から魔女って呼ばれているくせに」
「私が不本意だと言っているのを忘れているのかい」
「覚えているわ、アホ」
「シエルにアホって言われたら、私も終わりだな」
そんな茶化し合いを思い出してから、ソレイユはふむと頷く。
シエルに見せたほうが面白かっただろうか……。
ノリの良いシエルならバカ笑いしてくれたかもしれない。見せる相手を間違えただろうか、そう考えたソレイユだったが、杞憂に終わった。
パッセが目を輝かせて、勢いよく告げる。
「イタズラさせてくれぬか、嫁殿!」
「それ、私の立場じゃないかい?」
ソレイユが冷静に返す中、オートムヌとイヴェールが距離を縮めてはいっと手を挙げた。
「はい、お菓子ください!」
オートムヌの言葉にイヴェールがこくこくと頷く中、ソレイユはまたもや冷静に告げる。
「それは私が今言ったことだね」
「可愛いです、ソレイユさん。すごく似合ってる!」
「……綺麗」
「その反応にも困ったものだね」
面白半分押しかけたが、これはやはりシエルに見せるべきだったと後悔する。
そんな中、アクチュエルが首を傾げた。
「……でも、どうしてお姫様、なの?」
ここでソレイユはふと考えた。なんだか事実を述べては行けない気がしたのだ。
そう、特にシエルの名を出すことが。
彼らの目の前でシエルの名を出したら我が身に危険が迫る予感がした。
だから、ソレイユはふわりと笑って。
「安直な魔女よりは良いかと思って」
と、簡単に告げた。
もちろん、大嘘である。しかも、そう告げたのはシエルだった。ソレイユが考えたわけではない、断じて。
だが、七人の青年たちはどうやら信じてくれたようであった。
背後からアヴニールが近づいてくる。目の前にオートムヌとイヴェールがいるからだろう。
ソレイユが腕を組んで横目で観察する中、アヴニールはにこりと微笑んでソレイユの顎を掴む。そして、目線をしっかり交じ合わせると囁くように告げた。
「じゃあ、私はソレイユ、あなたの赤く綺麗で甘美なものをいただこうかな」
「だから、それは私のセリフなんだけど。それと、さりげなく血を吸おうとしないでくれないかい?」
「大丈夫、優しくするよ」
ソレイユの話を聞かないアヴニールがグイグイと来るのはいつものこと。
ソレイユは七人の青年たちがお菓子を持っていないと、勝手に判断した。
「なら、お菓子はなさそうなので、イタズラさせて貰おうかな」
「あ!? ちょっと待て!」
プランタンの焦る声は他所に、ソレイユは妖艶な笑みで告げる。
「悪い子には、お仕置、しないとね?」
「イタズラじゃない!?」
エテがツッコミを入れる中、ソレイユはお得意の蔓で七人を捕まえる。
「なっ、嫁殿!? ジジイらもか!?」
「何言っているの、全員お菓子を持っていないし、何より連帯責任でしょ」
こうして、ソレイユの蔓によるくすぐりの刑に七人は処されたのであった。
「それでは、皆様、良いハロウィンを」
「誰に言ってんだ、ごらあ!」
ソレイユのウインクが綺麗に決まったところで、プランタンの鋭い声が飛んだが、すぐに笑い声に変わったのは言うまでもなかった。
――後日ソレイユからその話を聞いたシエルが大笑いし、固まり、七人に対して憐れむ目を向けたのは余談である。




