第四章 すれ違いと確認
Ⅰ
ソレイユの言葉に、七人の青年たちは皆驚きの声を揃えて上げた。
ソレイユは暢気に自分の両耳にそれぞれ手を当てて、少しでも声量を小さくするように努めている。魔法を使えば良いものを、それすらも使いたくないと頑なであった。
白髪の青年が一通り叫んで気が済んだのか、疑問を口にした。
「嫁殿、何故……」
「その『嫁』ってやつ、どうにかしてくれない? 不本意だし、まず認めていないんだけど。自称ならともかく、他称なんてこの私が許すと思うかい? 大体にして、初対面で急に言われても飲み込めないし」
ソレイユは不満な顔を隠すことなく淡々と告げる。文句だけはさらさらと出てくるのだ、言葉が止まる気配はない。さらに、腕を組んでふいとそっぽを向いてから続ける。
「私は不可抗力でここに連れてこられただけだし、まず第一に誰かと間違えているんじゃない? 人違い――」
「違う」
ソレイユの止まることのない言葉を遮ったのは、別の青年だった。髪色が金で、室内の淡い光を受けて輝いていた。
ソレイユは彼をじっと見つめる。冷たく見据えるその視線にも青年は揺らぐことなく、きっぱりと言い切った。
「私たちはあなたと出会っています。そして、間違えていないよ、間違えるはずもない」
ソレイユはその言葉に眉を寄せた。はっきりとした物言いだなと思ったのだ。確信を得ているその言い方に、困惑しそうになる。
だが、何を言われてもソレイユには身に覚えがない。だから、一つ息をついて自分の調子を取り戻すと再度口を開いた。
「……君たちがそう言ったとしてもね、私には君たちと出会った覚えすらない。それこそ、君たちほどの相手に出会ったなら、さすがの私でも忘れないと思うからね。記憶にないのなら、そういうことだろう」
「……何故?」
金の髪の青年が静かに問いかける。責めている物言いではなかった。ただ、単純に不思議に思ったのだろう。素朴な疑問をぶつけに来ていた。
ソレイユはそれに答えるために口を開く。迷いなくさらりと。
「だって、君たちほど顔が整っている者はそうそういないから。さすがに忘れないでしょ、そんな俗に言うイケメン集団」
ソレイユは言い切った。それは有無を言わせないような物言いだった。無表情で感情は一切なかったが、誰が聞いても言い返そうとは思わないほどにはっきりと告げていた。
ただ、事実を述べただけだった――ソレイユからすればの話ではあるが。
「何度も言うけど、私の記憶には君たちの面影はないからね。だから――って、聞いているかい?」
ソレイユは肩を竦めて続けて告げようとした。だが、あまりにも反応が返ってこないから外していた視線を青年たちに向けて見れば、彼らは自分たちの顔をそれぞれ覆って身体を小刻みに震わせているではないか。隠せていない耳が、多少赤いように見えたものの、ソレイユはそれに触れることなく話を続けようとする。
触れてはいけない、と思ったことには気が付かないふりをした。
回答が結局返ってこないため、不服のままソレイユは再度聞き返す。
「それで? 君たちの言い分として私といつ出会っていたと言うんだい? 納得いかなかったら再度否定するし、このまま問答無用で帰らせてもらうとするよ。私からしたらここにいる理由もないからね」
すでに納得いっていないけど。
ソレイユは心の中でそう付け加えた。
魔法が使えることは確認済みだ。使わなくて良いなら使いたくはないが、脱出のためである。使わざるを得ない。
ただ、ソレイユの中で問題とするのは、この場所だった。
どこにいるのか、ソレイユのいた場所と同じ次元なのか、そんなことですら皆目見当もつかないのである。
もし、仮に次元が違うなんて話になってくれば、それこそソレイユに逃げ場所なんてないに等しいことだろう。
さて、吉と出るか、凶と出るか……。
ソレイユの額からつうっと一筋汗が流れ落ちる。自分では焦っているつもりはなかったが、どうやら身体は違ったらしい。本能的に危険だと察知しているのだろう。身体が強張っている感じがした。
そんな中、白髪の青年がふむふむと頷いたと思ったら、にぱっと笑った。
その笑い方には、見覚えがあった。
「そういうことじゃな。ならば」
白髪の青年はどこからともなくローブを取り出した。それすらもソレイユには見覚えのある物だった。
白髪の青年は手慣れた様子でローブを纏うと、フードをしっかりと被る。それを深く被った瞬間、ぽんと軽快な音が室内で奏でられた。
まるで、ポップコーンがはじけ飛ぶかのような音だった。それと同時に、霧がどこからともなく溢れてくる。
ソレイユの視界は真っ白に染まった。ぱちくりと目を瞬いていれば、少しずつ霧がはけて行って。
目の前に現れたのは、確かにソレイユが出会ったことのある人物だった。
しっかりと三拍置いてから、ソレイユは震える口で小さく彼の名を呼んだ。
「……ぱ、っせ、くん?」
Ⅱ
ソレイユはそれだけようやく音にできたといった感じだった。ぽかんと口を開いて、呆然としてしまう。
目の前で何が起きたのか理解できなかった。思考が追い付いていかない。
目を疑って、一度擦ってみる。それこそ、前日はそんなに眠れていなかった。いまだに夢でも見ているのではないか、と疑いたくなる。
だが、ソレイユの思いとは裏腹に、目の前の光景は変わってくれなかった。
目の前に見慣れない青年が六人と、見慣れた一人の子ども。それこそ、前日に出会ったばかりの妙に年配者のように感じる子どもだった。
ソレイユはしばらく呆然としていた。身動き一つせず、ただその視線はパッセと呼んだ子どもにだけ注がれている。
そんな中、嬉しそうに口を開いたのはパッセと呼ばれた子どもだった。にぱっと笑って、飛び跳ねるかのように自分を主張しながら声を弾ませる。
「そうじゃ、そうじゃ! 嫁殿、ようやく理解してくれたかの?」
ソレイユは沈黙した。言葉が出てこなかった。頭の中で勝手に複雑な数式やら魔導書の文字やらが次から次へと流れていく。今にしては、それらのほうが解読しやすいと思ってしまう。
それでも、目の前の現実が変わることはない。
「……こんなことが、あるはずない」
ソレイユがようやく絞り出した声を、笑ったのは別の声だった。
「魔女がよく言うぜ」
その口の悪さにも聞き覚えがあった。
ソレイユが視線をゆっくりと声の方向に映せば、そこに立っている青年の髪は桃色だった。ニヤリと笑った顔にも見覚えがなく、ソレイユはそのまま感想を口にする。
「……君の顔色には、覚えがないね」
「ああ、だろうな。お前の前ではフードをずっと被っていたしな」
青年はおかしそうにクッと喉奥で笑うと、またニヤリと人が悪そうな笑いを浮かべてから楽しそうに告げる。
「あの蔓には参ったぜ、マジでな」
ソレイユはその言葉に目を見張る。蔓の魔法をここ最近で使用した相手は、一人しか覚えがなかった。それこそ、パッセと同じように子どもで、彼と一緒に来訪したごく最近の人物。
も、しかして……。
「ぷ、らんた、ん、くん……?」
「覚えていてくれて光栄だぜ、魔女」
ソレイユの言葉をあっさりと肯定した青年は嬉しそうに眦を細めた。
はて、とソレイユは動揺する。どちらかと言えば、プランタンは自分のことを嫌っている様子だった。悪態を吐いて、ずっと警戒心剝き出しでいた子どものはずだった。
だというのに、目の前の彼は何故か嬉しそうに目を細めている。
ソレイユはそのことに戸惑うものの、自分の調子を狂わされていることに気が付いた。長く息を吐いて、何度か深呼吸を繰り返す。それから、右手で顔を覆うと、低く唸るように呟いた。
「……誰か、私を殴ってくれないか」
「何じゃと⁉ 勿体ない!」
いち早く反応したのは、パッセだった。他の青年たちも何かを口々に言っているが、ソレイユの耳には届かない。
ソレイユは「いや、」と呟いてから続ける。
「こんな夢物語、いっそここで終わらせてしまいたい……」
ソレイユは頭が痛くなった。現実だと認めたくない時って、特に頭が痛くなるのだと急に理解する。
眠って目を開けた瞬間に別の場所に来ていて、しかも出会ったことがあることは理解したが、何故か結婚を迫られている。
そんなことがあって良いはずがない。
まず、ソレイユはまったくと言って良いほど望んでいない。断固拒否の姿勢は崩さない覚悟だ。
ソレイユは今見た光景を思い出す。気になるのはローブのことだ。混乱しているからか、ソレイユは自身の考えをぶつぶつと唱えながら分析を開始していた。
「……ローブに魔法がかかっているのか。普段は青年の姿だとして、ローブを被ったら子どもの姿になって……、フードが発動条件か? いや、私の家にいた時はフードを外していても問題なく子どもの姿のままだった。だとしたら……」
「すごい、集中力……」
ソレイユの姿を見ながら、オレンジの髪の青年が感心したように呟く。彼の隣にいた空色の髪の青年が同意を示すように無言で何度か頷いていた。
だが、ソレイユの耳には、視界には何も入らない。
それどころか、普段は口にしないような言葉が勝手に零れ落ちていた。俯いているせいで、表情は見えなかった。
「……だから、魔法は嫌いなんだ」
ソレイユの言葉に、六人の青年と一人の子どもが目を見開く。驚いた、というよりは予想していなかった、という表情だった。魔法を扱う者からそんな言葉が出てくるなんて、思いもしなかったのだろう。
青色の髪の青年が怪訝そうな表情で口を開く。
「いや、お前、魔女だろうが」
ソレイユはそれに間髪入れずに反応した。
「私はたまたま魔法の才能があった。誰かの力になれるのならとなったのは、本当だ。あの頃の私は、ただそれだけを望んでいただろう。けれど――」
ソレイユはそこで言葉を区切った。顔を上げれば、意図せずに表情が歪んだ。その瞳の奥には、確かに悲しみが宿っている。
「――けれど、誰かをだましたり、何かを偽ったりするための魔法なんて見たくない。そんな魔法なら、使われずに消滅してしまえば良い」
ソレイユの有無を言わせない物言いに、その場にいた全員が黙り込んだ。ソレイユはまた顔を手で覆う。
ああ、何をやっているのだろうか……。
この状況が悪い。この理解できない状況によって、歯止めが利かない。
普段ならそんなことを口にすることはなかっただろう。それでも、口にしてしまった言葉は二度と戻っては来ない。取り消すこともできない。
ソレイユの心は闇に包まれた。
パッセはしばらく黙っていたが、やがてローブを脱いで青年の姿に戻ると、ソレイユの元へと歩み寄る。それから、優しく彼の両手を握った。
ソレイユの顔はまだ俯いたままだった。
パッセは気にすることなく、優しく言葉を紡いでいく。
「……泣かんでおくれ、嫁殿。ジジイらはそのような顔をさせたくてここに連れてきたのではない」
「……泣いてない」
ソレイユは少しばかり顔を上げた。視界の端は揺らいでいたが、情けないところを見せたくなくてただ否定する。だが、鼻をすすりながらでは隠せていないようなものだった。
パッセはそれに触れることはなかった。困ったように笑うだけで、にこやかに告げる。
「嫁殿、少し話をさせておくれ。ジジイらが急に話を進めてしまったが」
ソレイユは小さく頷いてから視界の端の水晶を拭う。
それから、一言訂正した。
「とりあえず、『嫁』だけは本当にやめて欲しいかな」
Ⅲ
「……は? 出かける時は子どもの姿になるのが掟?」
ソレイユは理解できないとばかりに、彼らの言葉を繰り返した。
あれから、話をするために広いリビングに通され、あれよあれよという間にお茶会へと流れていった。
そして、今に至るわけである。
ソレイユは怪訝な表情をしていた。内心、何を言っているんだろうかと思っている。
こればかりは仕方がないと思って欲しい。何せ、本当に意味が理解できていないのだから。心底、不可解だと思っているのだから。
「何故、それが掟なんだい?」
ソレイユは素直に疑問を口にした。不思議で仕方のない掟だと思ったからだ。
パッセはううむと唸ってから口を開く。
「実はのう、これは先祖の話からになるのじゃが――」
「あ、そんなに長い話になるのなら遠慮しておくよ」
「あっさりじゃのう……」
ガックシと項垂れたパッセを見ながら、ソレイユは出された紅茶に口をつける。
「まあね、長居をするつもりがないから」
ソレイユとしては、さっさと話を終わらせて自身の根城に戻りたいと考えている。そんな長い話を聞くつもりは毛頭ないし、何より面倒ごとは御免だ。
紅茶を口にすれば、香りが高く、ほっと一息つける。少しだけ気持ちが落ち着いてきたことを、自分で理解した。
それよりも、である。
「……君たち、近い」
ソレイユが促されたソファの両脇には青年たちが座っているが、それがまたぴっとりと身体がくっついている。
両手に花、ならぬ、両脇にイケメン青年二人。
ソレイユとしてはまったく嬉しくない。
右にはオレンジの髪の青年が、左には空色の髪の青年が居座っていた。周囲はソレイユを取り囲むように青年たちが各々座っていて、向かいにはパッセが目の前を占領している。
ソレイユは内心混乱していたが、それよりも両脇にいる二人だ。よく分かっていないものの、妙に懐かれているという印象である。
ソレイユが静かに告げれば、オレンジの髪の青年が人懐っこい笑顔を浮かべながら告げる。
「魔女さん、僕の名前も呼んでよ」
「君の名前をまず知らないね」
「そしたら、魔女さんの名前を教えてくれる?」
「考えてあげる」
今の会話で、ソレイユは一つ気が付いたことがあった。
この子は、最初に来た三人のうちの一人、ってことか……。
ソレイユはパッセたちと出会った時は名乗っている。プランタンが名前を聞いていたかは不明だが、玄関で名乗ったことだけは覚えていた。
だが、オレンジの髪の青年は自分の名前を知らない。つまり、それはソレイユが名乗っていないということ。考えられるのは、あの兄弟と捉えた三人だった。
もっとも、あの三人がこの青年たちに該当するなら、の話だけど……。
ソレイユが曖昧な答え方をしても、オレンジの髪の青年はぱっと顔を明るくした。それから、えへへと笑いながら名乗る。
「オートムヌ、だよ。魔女さんの名前は?」
ソレイユに向けられるキラキラとした瞳が、早く早くと急かしている。ソレイユは根負けして素直に名乗ることにした。
「ソレイユ。……君は私の家に来ている、ということだよね」
確認するように投げかけて見れば、青年はうんと嬉しそうに頷いた。
「僕は四兄弟の三番目、だよ」
「兄弟……」
どうやら読みは当たっていたらしい。三兄弟の姿を思い浮かべながら推測する。
確か、兄のために薬草を取りに来たと言っていたんだから……。
兄がプランタンを意味するとすれば、三人来ていた一番背の高い子どもが次男に当たる。となれば、真ん中の背の子と、一番背の低い子が残るわけで。
ソレイユは「ああ、」と言葉を零してから推測を口にした。
「ということは、君が三人で来た時の真ん中の子、ってことかい?」
「そう! ソレイユさんの左側にいるのが末っ子のイヴェール。で、パッセの右斜め前にいるのがエテ兄さん。僕の兄さんで、四兄弟の二番目。プランタン兄さんは知っているよね? 僕たち四兄弟の一番上の兄さん」
ソレイユはオートムヌの案内と一緒に彼らを順に見比べる。
エテと呼ばれた青年は青い髪だった。
そして、プランタンは桃色の髪色。
桃色、青、オレンジ、空色……、そして、名前は季節から来ていた。
「四兄弟で、春夏秋冬……。なんて、覚えやすい……」
安直、というのはさすがにやめた。
だが、オートムヌはそんなこと露知らずに、さらりと続ける。
「ちなみに、名付け親はパッセだよ」
「ああ……」
なんとなく、分かる気がする……。
彼の会話を聞いている限り、どこか軽い節がある。名前もあまり考えていなさそうだと、少しばかり同情してしまった。
さらに、だから自分でジジイなんて言っているんだ、と妙に納得してしまっていた。
対して、パッセは褒められていると思ったのか、ふふんと胸を張る。
「ちなみに、ジジイがパッセ、黒髪がアクチュエル、金髪がアヴニールじゃ! それもジジイがつけた」
「過去に現在、未来、ね……。壮大な名前だね」
ソレイユは相槌を打ちつつも、どんな名前だと内心でツッコミを入れた。喉元から出てこないように紅茶を口にして、それから話を戻すことにする。
「……しかし、子どもにならないと外に出られないとは不便だね」
「まったくじゃ。嫁殿を運ぶのもなかなかに苦労したのじゃぞ。この姿ならば容易いのだがのう」
「それに関しては許していないけど」
ソレイユはバッサリと斬り捨ててから、肩を竦める。それから、訂正しなくてはいけないことを口にすることにした。嫁にすることを諦めてくれるように祈りながら。
「というか、まず第一にね。君たちは決定的で一番重要なことを間違えているんだよ」
「……何を?」
今まで黙ってぴとりとくっついていたイヴェールが顔を上げて静かに問いかけてくる。顔を少しだけ上げて、ソレイユの顔を覗き込んでくる姿は確かに末っ子のようで。子どもが甘えてくる姿勢に見えていた。
ソレイユはカップをソーサーに戻すと、きっぱりと告げた。
「私、男だからね」
すると、間髪入れずに声が上がる。
「……はあっ⁉」
七人分の声が揃えばその分声量も大きくなるわけで。彼らは大げさに立ち上がって詰め寄ってきた。
ソレイユは気にすることなく耳を手で塞いでいたが、声が落ち着くと暢気にカップに手を付けた。そして、優雅に紅茶を口にする。
そんなソレイユに対して、エテが叫ぶように声を上げた。びしっと人差し指がソレイユに向かって貫かれていた。
「はあっ⁉ 初耳だがっ⁉ つーか、魔女で通していたし、否定もしなかったじゃねえかっ⁉」
「確かに否定はしていないけど、私は肯定もしていないよ」
ソレイユは非難の声をさらりと躱す。それから事実を述べた。
「噂が独り歩きしているようでね、勝手に『魔女』にされているだけ。私は魔法使い、正真正銘、男だよ」
「そんな、美人で……?」
アクチュエルが戸惑いながらも問いかける。
それにもソレイユはバッサリと斬り捨てた。
「嬉しくないね」
七人が沈黙する中、ソレイユは一人息をついた。
これで諦めてくれると良いんだけど……。
少し酷なことをしているだろうか。そうも思ったが、それでも否定しておかなくてはいけない。何せ、揺るぎようもない真実なのだから。噂が独り歩きしていようが、事実だけは述べておかなくてはいけない。
このまま素通りしておけば、ソレイユは本気で彼らの嫁として迎えられてしまうかもしれないのだから。
ソレイユは肩を竦めて彼らの出方を待った。
だが、ソレイユの目の前で金の髪がさらりと流れた。はたと気が付いた時には、ソレイユの目の前でアヴニールが跪いている。ソレイユや六人の青年たちが彼を凝視する中、アヴニールはゆっくりとソレイユの手を流れるように掬い取った。そして、意思の籠った瞳をソレイユに向けて言葉を紡いだ。
「関係、ないよ」
「……は?」
ソレイユは理解できなかった。彼が何に対して関係ないと言ったのか。
アヴニールは気にすることなく続けていく。
「私はソレイユ、あなたという人に一目惚れをしたのだから。性別なんて、些細なこと。異性だろうと、同性だろうと、関係ない。――私は、あなたが良い」
これにはソレイユも思わず息を呑んでいた。予想しなかった言葉に躊躇っていれば、アヴニールは目の前でふわりと微笑む。
初めて見た笑みだった。
「孤高で美しく、面倒見の良いあなたに惚れた。あなたは過干渉しないと言うが、私たちのことをよく気にかけてくれている。それが私はとても嬉しい。あの短時間でも、あなたという人柄に触れられたことが、幸福な時間だと思えた。それは、紛れもない事実。私しか知らない真実だ。それに……」
アヴニールは空いている手で、自身の髪をいじりながら嬉しそうに告げる。
「私とあなたが並んだら、金と銀の色でさらに綺麗でしょう? 見せつけられるのが嬉しいと思う」
ソレイユはそれを聞いて肩を竦めた。
「……やれやれ、諦めて欲しかったというのにね」
ソレイユは呆れたとばかりに告げる。
だが、アヴニールはさらに微笑を称えて告げた。
「それにしては顔が赤いよ? ソレイユ」
「……うるさい」
ソレイユは否定しながらも、内心自覚していた。顔が多少なりとも熱い。耳はもっと熱く感じていた。指摘されたことで余計に熱く感じてしまった。
好意、なんていつぶりだろうか……。
基本的に引きこもり状態のソレイユだ。数少ない会合ですら人と話すことを極力避けている。
だからこそ、素直に向けられる感情になれていない。目の前でアヴニールが向けてくる感情に、瞳に、困惑してしまった。
表情は取り繕っていたものの、動きまで取り繕えることはできていなかった。少しばかり身体に力が入ってしまう。
それを察したのか、アヴニールが優しく言葉を紡いでいく。
「大丈夫、取って食べるわけじゃないから。だから、力を抜いて」
アヴニールの余裕な物言いに、ソレイユは動きがさらにぎこちなくなる。文句の一つでも言おうと口を開いた。
「あのね……」
だが、それすらもアヴニールに遮られてしまった。
「まずは私たちにチャンスをくれない? あなたが私から離れたくないと思うようにしてあげるから」
「こら、話を聞きなさい」
アヴニールが畳みかけるように告げてくるのを、ソレイユは窘める。だが、アヴニールは聞く耳を持たないようで。
「あなたと過ごしたい。……だめ?」
「その整った顔でお願いするように言うのはやめなさい」
ソレイユの手をぎゅっと両手で握って懇願してくるアヴニールに、ソレイユは顔を背けながら一度息を吐く。このままでは簡単に流されてしまいそうな気がしたからだった。
ソレイユはやれやれと首を振る。
「……物好きだね、君は」
「君じゃないよ、アヴニール。そう呼んで」
勝手にぐいぐいと話を進め始めたアヴニールを、はたと我に返ったパッセが声を張り上げて叱る。
「こら、アヴニール! お主、嫁殿にぐいぐいと迫り過ぎじゃぞ! ジジイのなんじゃからな!」
「え、パッセにはあげない。というか、私のだから」
アヴニールはぎゅっとソレイユをさりげなく抱きしめる。ソレイユは咄嗟のことでぱちくりと目を瞬きながら固まった。その間にも、七人の青年たちは口々に言い争っている。
「違う、僕の!」
「……ううん、僕のだもん」
「勝手なこと言ってんじゃねえぞ、おら」
口々に言い始めた彼らの会話は、ソレイユの耳には届かない。状況を理解したいのに、頭は働かないままだった。
だが、とにかく自分が主張しないとどうにもならないことをこの数時間で体験したため、やんわりとアヴニールを引き剥がしながらすっと手を挙げる。
「とりあえず、話を聞きなさい。それと、私の意思は無視か」
残念ながら、ソレイユの言葉には誰も返してくれることはなかった。
Ⅳ
ソレイユはため息交じりに使いたくない魔法を使って全員を正座させることに成功した。
あれからまったく聞く耳を持たなかったため、何とか話をするために取った強硬手段であった。
本音を言えばそのまま逃げだしたいところであったが、あそこまでアヴニール言われてしまえば、このまま逃げたところで再度追ってくること間違いないだろう。そう考えたソレイユはここでしっかりと決めておこうと考えたのである。
以前より力を強くした蔓で縛り上げた七人を見下ろして、それから全員の顔を見渡しながら静かに告げる。
「いいかい? まず、私が嫁になるだのなんだのの話は置いておいて」
「置いておかんでくれ、嫁殿」
「少し黙っていてくれるかい。とりあえず、条件を先に出させてもらうよ」
ソレイユは有無を言わせない物言いでパッセを黙らせると、指を一本ずつ立てながら三つの条件を述べることにした。
「一つ、私を私の根城に返すこと。ここで住むつもりはないからね。私はあの根城が気に入っているんだ、それを呑まないのならまず私とかかわること自体拒絶するから。二つ、過剰な接触は避けること。先に言っておくと、私はこういうことに慣れていないからね。ほどほどの距離で頼むよ。それから、三つ」
ソレイユは一度言葉を区切る。すると、七人は不思議そうにソレイユを見上げた。
ソレイユは目を細める。
「――確認したいことが、ある」
ソレイユの言葉に、予想していなかったのか七人はそれぞれ反応を示した。不思議そうに、怪訝そうに。中には逆に「何?」と問いかけてくる者までいた。
ソレイユはそれを見届けてから、今まで気になっていたことをついに口にした。
それは、前日に知人の魔法使いであるシエルと話したことを、確かめる内容であった。
「……君たちが、噂になっている『夜な夜な現れては襲い掛かる小さきものたち』、なのかい?」
ソレイユの言葉に、室内に戦慄が走る。
沈黙がその場を支配したのであった。




