第1話「五つの伝説――高校に存在する”神”のようなアイドルたち」
皆さま、本作品をお読みいただきありがとうございます。
いよいよ物語が始まります。
舞台は、ごく普通の高校。
しかし、その学校では今、日本中を熱狂させるアイドルプロジェクト「Five Melody Project(FMP)」の話題で持ちきりです。
主人公・柊木一眞もまた、そんな高校に通う一人の男子高校生。
けれど彼には、誰にも打ち明けることのできない大きな秘密がありました。
学校では普通の高校生。
放課後には、誰も知らないもう一つの世界へ。
青春、恋愛、そしてアイドルたちとの出会いが、ここから少しずつ動き始めます。
それでは、第1話をお楽しみください。
四月。
桜の花びらが風に舞い、新年度を迎えた朝。
通学路には真新しい制服に身を包んだ新入生と、春休みを終えて久しぶりに顔を合わせる在校生たちの笑顔があふれていた。
「おはよう!」
「久しぶり!」
「今年も同じクラスだった!」
そんな声が校門前で飛び交う中、一人の男子高校生が静かに校門をくぐる。
柊木一眞。
どこにでもいる、ごく普通の高校二年生。
勉強も運動も平均的。
友人も多く、目立つタイプではない。
ただ一つだけ、誰にも知られてはいけない秘密を抱えていた。
(今年も普通の高校生活が始まる。)
(……それが一番だ。)
一眞は静かに教室へ向かった。
教室の扉を開けた瞬間だった。
「おいおい! HONEY BLOOMのライブ当たったぞ!」
「マジで!? 羨ましすぎる!」
「倍率何倍だったんだよ!」
「三十倍以上だって!」
「えぇぇぇっ!?」
朝から教室は大騒ぎだった。
「私はSUGAR RIBBONの握手会に行く予定!」
「いいなぁ! 天宮ひなたちゃん可愛すぎる!」
「いやいや、私は七瀬結衣ちゃん推し!」
「私はMILK CROWN!」
「白雪澪様は女神だから!」
「違う違う! 九条琴葉さんでしょ!」
「あの上品さは反則!」
女子たちの会話も止まらない。
一眞は苦笑しながら席へ座った。
すると親友の佐伯健斗が椅子を引き寄せる。
「おはよう、一眞!」
「おはよう。」
「聞いたか?」
「何を?」
「Five Melody Projectだよ!」
一眞は思わず苦笑する。
「またその話?」
「またじゃない!」
健斗は机を叩いた。
「Five Melody Projectだぞ?」
「HONEY BLOOM!」
「SUGAR RIBBON!」
「CHERRY SMILE!」
「MILK CROWN!」
「PEACH MELODY!」
「この五組全部まとめてFMP!」
「日本一の女性アイドルプロジェクトだ!」
すると後ろの席の大野翔太も会話へ加わる。
「俺はCHERRY SMILE推し!」
「春川さくら最高!」
「いや、高瀬美咲だろ!」
「宮崎莉愛も可愛い!」
「藤原紬は妹にしたい!」
「お前ら全員推し変しすぎ!」
教室中が笑いに包まれる。
女子グループも負けていない。
「PEACH MELODYの新曲聴いた?」
「昨日だけで再生回数五百万回!」
「桃井音羽ちゃん歌上手すぎ!」
「若葉結菜ちゃん可愛い!」
「森下莉央ちゃん最年少なのにダンス凄い!」
「今年の夏フェス絶対行く!」
「応募した!」
「私も!」
「外れたら泣く!」
「あはは!」
そんな様子を見ながら、一眞は静かに窓の外を眺めた。
(本当に人気なんだな。)
もちろん知っている。
誰よりも近くで。
誰よりも。
なぜなら──。
「おはようございます。」
担任教師の山城先生が教室へ入ってきた。
「席に着けー。」
ざわついていた教室が静かになる。
……と思ったが。
「先生!」
「何だ?」
「先生はFMP誰推しですか!」
教室中が爆笑した。
山城先生は苦笑する。
「お前たちは朝からその話ばかりだな。」
「だって国民的アイドルですよ!」
「ニュースでも毎日見るし!」
「先生もライブ行ったことあります?」
「ない。」
「えーーっ!」
「人生損してます!」
「こら。」
再び笑いが起こる。
山城先生は出席簿を閉じながら言った。
「確かに人気なのは分かる。」
「だが、お前たちは学生だ。」
「まずは勉強。」
「アイドルはそのあとだ。」
「はーい!」
返事はしたものの、どこか納得していない生徒たち。
その様子に先生も思わず笑ってしまう。
ホームルームが終わり、一時間目までの休み時間。
再びFMPの話題が始まった。
「今年も合同ライブあるかな?」
「絶対ある!」
「四十人全員集まるライブ見たい!」
「創設者の安本康晴さんって本当に凄いよな。」
「プロデューサーの柊木沙織さんも!」
「元アイドルだったんだよね!」
「今は五グループ全部担当してるらしい!」
「一度でいいから会ってみたいなぁ。」
「雲の上の人だよ。」
その名前を聞いた一眞は、一瞬だけ動きを止めた。
(姉ちゃん……。)
(学校のみんなに知られたら、大騒ぎどころじゃ済まないな。)
一眞は心の中だけで苦笑する。
誰も知らない。
教室にいる普通の男子高校生が、その”雲の上の人”の実弟だということを。
昼休み。
食堂でも話題は同じだった。
「HONEY BLOOM派!」
「いやMILK CROWN!」
「CHERRY SMILE!」
「PEACH MELODY!」
「SUGAR RIBBON!」
「あー! 決められない!」
「あの五組は全員神!」
「FMP最高!」
その熱量は、まるでスポーツの全国大会を語るようだった。
一眞は友人たちと昼食を食べながら、その光景を静かに眺める。
(みんな、本当に楽しそうだ。)
(姉ちゃんたちが頑張ってきた結果なんだな。)
放課後。
チャイムが鳴る。
帰ろうとした一眞のスマートフォンが静かに震えた。
画面に表示された名前は──
『姉ちゃん』
一眞は周囲に気付かれないようメッセージを開く。
『今日は本部へ来られる?』
『みんなも待ってるよ。』
その一文を見た一眞は、小さく息を吐いた。
「さて……。」
学校では普通の高校生。
しかし放課後からは、誰にも知られてはいけないもう一つの世界が待っている。
その扉が、今、静かに開こうとしていた。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
学校編・第1話では、主人公・柊木一眞の日常と、学校中の生徒たちが「Five Melody Project(FMP)」に夢中になっている様子を描きました。
教室や廊下、昼休みに飛び交う会話からも分かるように、FMPは高校生にとって憧れの存在です。
そんな憧れの世界を誰よりも身近で知っている一眞ですが、その秘密はまだ誰にも知られていません。
これから物語は少しずつ動き始め、一眞の日常とアイドルたちの非日常が交わっていきます。
次回、第2話では、放課後にFMP本部へ向かった一眞が、創設者・安本康晴、そして総責任者兼プロデューサーである姉・柊木沙織と再会します。
学校では決して見ることのできない、トップアイドルたちの舞台裏も少しずつ描かれていきますので、ぜひ楽しみにお待ちください。
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次回もどうぞよろしくお願いいたします。




