第4話「学校では他人――誰にも知られてはいけない秘密」
前回、一眞は「Five Melody Project(FMP)」合同レッスンを見学し、ステージでは決して見ることのできない四十人の素顔と努力に触れました。
笑顔の裏で積み重ねられる練習。
仲間同士だからこそ見せる自然な表情。
そして、一眞を昔から知る仲間として迎え入れてくれる温かい空気。
しかし、一眞と彼女たちの関係には、絶対に守らなければならない一つの約束があります。
学校では、ただの高校生。
芸能界では、プロデューサーの弟。
二つの世界を繋ぐ秘密が、今回改めて確認され
合同レッスンが終わった頃には、時計の針は午後七時を回っていた。
「ありがとうございました!」
四十人のメンバーが一斉に頭を下げる。
講師やスタッフも笑顔で応えた。
「お疲れ様!」
「今日はここまで!」
「また明日!」
スタジオには達成感に包まれた空気が流れていた。
一眞も拍手を送りながら、その様子を見守っていた。
(やっぱり凄いな……。)
(テレビで見る三分間のために、何時間も努力している。)
その姿に改めて尊敬の気持ちを抱く。
すると、桃井音羽が近寄ってきた。
「一眞くん。」
「ん?」
「少し時間ある?」
「あるよ。」
「じゃあ、みんな集まって!」
音羽が声を掛けると、五つのグループのメンバーたちが自然と一つの円になった。
花音、ひなた、さくら、澪、音羽。
五人のリーダーが中央へ立つ。
花音が優しく口を開いた。
「一眞くん。」
「学校生活、楽しい?」
「うん。」
「友達もできた?」
「たくさん。」
「それなら安心。」
続いて、ひなたが真剣な表情になる。
「だからこそ、改めて約束したいことがあるの。」
「約束?」
「うん。」
スタジオの空気が少しだけ引き締まる。
さくらが静かに続けた。
「学校では私たちのことを知っていても、知らないふりをしてほしい。」
「もちろん。」
「私たちも同じ。」
澪が穏やかな声で言う。
「もし偶然、学校の近くや街で会っても、必要以上には話しかけない。」
「ファンや週刊誌に見られる可能性もあるから。」
「分かった。」
音羽が微笑んだ。
「でもね。」
「学校が終わって、ここへ来たら違う。」
「ここでは今まで通り。」
「いっぱい話して。」
「いっぱい笑って。」
「家族みたいに過ごそう。」
一眞は笑顔でうなずいた。
「ありがとう。」
その言葉を聞いていたメンバーたちも次々に話し始める。
「私たちも学校生活を応援してる!」
「青春を楽しんで!」
「文化祭とか体育祭も思い出作ってね!」
「修学旅行も!」
「恋愛も!」
「恋愛はまだいいよ!」
一眞が照れながら答えると、スタジオは笑いに包まれた。
「顔真っ赤!」
「可愛い!」
「高校生らしい!」
そんな和やかな空気の中、一人のスタッフがスタジオへ入ってきた。
「皆さん、お疲れ様です。」
「安本プロデューサーと柊木プロデューサーがお話があります。」
全員が自然と姿勢を正した。
数分後。
スタジオ前方へ安本康晴と柊木沙織が並んで立つ。
安本は穏やかな笑顔で四十人を見渡した。
「皆さん、今日もレッスンお疲れ様でした。」
「ありがとうございます!」
「そして、一眞くん。」
「はい。」
「今日改めて皆さんにもお願いがあります。」
スタジオが静まり返る。
「一眞くんは普通の高校生です。」
「学校では、一人の学生として青春を送っています。」
「その日常を守ることは、私たち全員の責任でもあります。」
四十人が真剣な表情で話を聞いていた。
「だからこそ。」
「学校や公共の場では、皆さんから一眞くんへ話しかけることは控えてください。」
「もちろん、必要がある場合を除いてです。」
「はい!」
四十人の返事が響く。
続いて沙織が口を開いた。
「皆さんも知っている通り、一眞は私の大切な弟です。」
「でも、それ以上に、一人の高校生です。」
「私は姉として、普通の青春を送ってほしいと思っています。」
沙織は一眞へ優しく微笑んだ。
「一眞。」
「何?」
「学校では、お姉ちゃんじゃなくて、ただのプロデューサー。」
「ここでは、いつもの姉弟。」
「その切り替えを大切にしていこうね。」
「うん。」
そのやり取りを見たメンバーたちは自然と笑顔になる。
「沙織さん、本当に弟思い。」
「素敵な姉弟。」
「羨ましいな。」
安本は最後に締めくくった。
「Five Melody Projectは、メンバーだけでなく、支えてくれるスタッフや家族も含めて一つのチームです。」
「これからも、お互いを思いやりながら活動していきましょう。」
「はい!」
スタジオには大きな拍手が響いた。
その後。
一眞は帰る準備を始める。
「もう帰るの?」
花音が少し寂しそうに聞く。
「明日学校だから。」
「そっか。」
「また来てね!」
「もちろん。」
「約束!」
「約束。」
四十人が笑顔で手を振る。
「またね!」
「学校頑張って!」
「風邪ひかないでね!」
「ありがとう!」
一眞も手を振り返す。
本部を出ると、夜風が心地よかった。
見上げれば、満天の星空。
(学校では普通の高校生。)
(ここでは、みんなと過ごすもう一つの日常。)
(二つの世界を大切にしよう。)
そう心に誓いながら、一眞は家路についた。
そして、この春。
彼はまだ知らない。
この約束の先に、自分の人生を大きく変える五つの出会いが待っていることを――。
第5話「始まりの春――五つの恋が動き出す」へ続く。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
第4話では、一眞とFMPの四十人のメンバー、そして創設者・安本康晴と総責任者兼プロデューサー・柊木沙織との間で、「学校では他人」という大切な約束が改めて交わされました。
一眞が普通の高校生活を送れるように。
そして、メンバーたちがトップアイドルとして安心して活動を続けられるように。
お互いを思いやる気持ちがあるからこそ、この秘密は守られていきます。
一眞にとって学校はかけがえのない青春の場所であり、FMP本部はもう一つの大切な居場所。
二つの世界を行き来する日々が、これからどのような物語を紡いでいくのか、ぜひ見守っていただければ幸いです。
次回はいよいよ学校編最終話。
第5話「始まりの春――五つの恋が動き出す」では、一眞が再び学校へ戻り、平穏な日常の中で新たな出会いの予感を感じ始めます。
そして、このプロローグを経て、いよいよ第一章「HONEY BLOOM編」へと物語が動き出します。
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次回もどうぞよろしくお願いいたします。




