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【周りの期待に応えたいと思う気持ちが強すぎて…】

ここは、心がちょっと迷子になった人がひょっこりと訪れてしまう場所。

1杯のお茶をゆっくり飲んでいる間に、ついつい心を開いて、溜め込んでいた本音を吐き出してしまう——そんな不思議な縁側です。

悪い心を持つ人は決して辿り着けない。心がほんの少し弱くなった人だけが、何かの拍子に見つけることができる場所。

さあ、今日はどんなお客様が、この暖簾をくぐってくるのかしら?



〜仲間と頑張るお客様〜


俺は額の汗を日に焼けた腕で拭いながら歩いている。毎日朝の練習、放課後も遅くまで、土曜日も日曜日も休みなんてない。

どうすれば白いボールをコントロールできるか、どうすれば速く投げられるか、そればかりを考えてきた。

父親は「あと一歩で甲子園に行けたはずなのに」と、俺が小学校の時からずっと言い続けている。お前は行けるようになれ――呪いのように事あるごとに言われていた。

俺の小学校から高校までの記憶は、もう白いボールとともに過ごしたものしかない。家族で遊園地やキャンプに行ったことなんて、考えれば一度もなかった。もちろん合宿には行ったけれど、それは家族の時間ではなく、朝から晩まで練習漬けの日々だった。

たまには俺だって息抜きがしたい。友達とカラオケに行ったり、ゲームをしたりしたい。

それなのに、父親は「もうすぐ夏の大会だ、気を抜くな、頑張れ」と急かし、母親は「お母さんが食事サポートするからね、頑張りなさい」と微笑む。部活の仲間だって、甲子園という目標に向かって必死に頑張っている。

いつだって気を抜けない。もうプレッシャーに耐えられない。

これは自分の夢なのか、それとも親の押し付けなのか、仲間の夢なのか……もう何もわからなくなってしまった。

「もう、部活を辞めてやる」

そう思った瞬間、夕方だったはずのオレンジ色の景色が、眩しい昼間の光に変わった。

足元は土だ。今までアスファルトの上を歩いていたはずなのに。

「ここはどこだ?」

キョロキョロとしていると、目の前に古民家があった。その縁側で、ニコニコしながらこちらを見ているおばあちゃんがいた。

俺はおばあちゃんに駆け寄り、「ここはどこですか? 電波が立っていないんですが」と尋ねた。おばあちゃんは「あらあら、大変ねぇ」と言った。

「電話を貸してもらえませんか?」と聞くと、おばあちゃんは「ここには電話がないのよ」と笑う。

「それよりもあなた、汗をかいているからお茶でも飲んで行きなさい」

もう暗くなるはずだから早く帰らなきゃ、親に叱られる……そう言う俺に、おばあちゃんは「お茶を飲んでいる間に道が現れるわよ」と静かに言った。

俺はこのおばあちゃんが狐か狸じゃないか、騙されているんじゃないかと少し心配した。しかし、こんな弱々しいおばあちゃんに何かできるわけがないと思い直し、縁側にどさりと座った。

おばあちゃんが淹れてくれた緑茶を飲むと、体の汗が風とともにすうっと引いていく。

俺は思わず、両親からのプレッシャーや、仲間の期待が重すぎること、みんなで同じ目標に向かうことに耐えられないのだと本音をこぼした。

おばあちゃんは「まぁ、それはそれは」と優しく頷き、地面を指差した。

「あそこを見てみなさい。ありんこが一列になって並んでいるわ。みんな一致団結して仕事をしているのね」

そのありをしばらく見ていたが、俺は「おばあちゃん、俺、仲間にも迷惑をかけたくないし、もう部活を辞めるよ」と繰り返した。

するとおばあちゃんは「疲れているとね、暗いことばかり考えてしまうの。この飴を一つ舐めなさい。甘いものは気持ちがほぐれるのよ」と、飴を一つくれた。

それを舐めながらぼーっと上を眺めていると、不思議と気持ちが落ち着いていった。

「……もう一度、両親と話し合ってみよう。部活のみんなとも向き合ってみよう」

そう思えた。

残りの緑茶を一気に飲み干し、「おばあちゃん、ありがとうございました。家に帰って両親と話してみます。今度、部活が早く終わる時にまたお礼に来ますね」と言った。

すると、おばあちゃんは寂しげに微笑んだ。

「ここはね、一度来ると二度と来れない場所なの。一期一会なのよ。でも、これを見て風景を思い出してね」

おばあちゃんは、自分の着物と同じ柄の折り鶴をくれた。

俺は深々と頭を下げ、「部活、頑張ります」と告げ、先ほどまで歩いていた道が見える場所まで駆け出した。

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