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縁側のひみつ茶屋  作者: Fos B


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【自分の殻を破る方法】

ここは、心がちょっと迷子になった人がひょっこりと訪れてしまう場所。

1杯のお茶をゆっくり飲み干す間に、ついつい心を開いて、溜め込んでいた本音を吐き出してしまう——そんな不思議な縁側です。

悪い心を持つ人は決して辿り着けない。心がほんの少し弱くなった人だけが、何かの拍子に見つけることができる場所。

さあ、今日はどんなお客様が、この暖簾をくぐってくるのかしら? 



〜緑茶に対する思いが強いお客様〜


なぜ日本人なのに、みんな急須でお茶を入れて飲んでくれないんだろう。体にも良いのに、どうしてペットボトルのお茶ばかりなんだ。「海外で日本のお茶(緑茶)がブームだ」と言っても、向こうで人気なのは『MATCHA(抹茶)』ばかりで、種類も違う。海外に普及している緑茶だって、ほとんどが日本製じゃない。こんなにも日本人の心が詰まった飲み物なんて他にないんだぞ……。この両親から引き継いだ茶畑を、どうすればいいんだ。もう廃棄するしかないのか……。

俺は学校を卒業してからずっと、この茶畑を毎日毎日手入れしている。春先は霜が降りないように気を配り、一番茶を丁寧に摘み、夏は夏で黒い遮光ネットをかけたり、雑草対策や肥料をまいたりと、とにかく休む暇がない。それなのに、市場で高く売れるのはペットボトル用のお茶や三番茶・四番茶ばかりで、二足三文にしかならない。一番茶の価格はどんどん下がっている。この先どうしたらいいんだ。日本人の心の緑茶も、この茶畑も、もうなくなってしまうのか……。

怒りと絶望が爆発寸前になった時――。

自分の茶畑から急に見慣れない景色へと変わった。目の前には古民家が建っており、その縁側でおばあちゃんがニコニコと手招きをしている。そこからは、今まで嗅いだことがないような、圧倒的に上質な緑茶の香りが漂っていた。

その匂いに誘われるようにふらふらと縁側の方へ行き、腰を下ろした。

「よくいらっしゃいました。いつも私たち、お茶の農家さんにはお世話になっているのよ。いつも上質な緑茶をありがとうね」

とおばあちゃんが言った。その優しい言葉を聞きながら、差し出された湯飲みに入っている緑茶をひと口飲んだ。張り詰めていた胸の重みが、少し軽くなった気がした。

そして、「おばあちゃん、聞いてください」と今までの話をした。

おばあちゃんは「それは大変だったねぇ。自分の愛情を込めたものが理解してもらえず、粗雑に扱われるなんて、とても辛かったね」と、じっと話を聞いてくれた。

「なぜみんな、日本人なのに急須でお茶を入れなくなったんでしょう。ペットボトルで飲んでくれることはありがたい。でも、本当の味を急須で淹れたお茶で味わってほしいのに、今はその急須さえない家の方が多いそうなんです」

そう言うと、おばあちゃんは「そうだねぇ、時代がどんどん流れていくね。良い変化もあれば、悲しい変化も多いね」と優しく頷いた。

そして、囲炉裏のある部屋の方を示して言った。

「あそこの部屋のちゃぶ台を見てごらん。この古民家には似合わない、ぴかぴかしたパソコンが置いてあるだろう?」

奥の部屋を見ると、たしかにパソコンが置いてあった。

「あのパソコンっていうのはね、おばあちゃんには操作がちとキツイんだけどさ。でも、おばあちゃんも毎日毎日少しずつ操作を覚えていって、やっとその便利さに気づいたんだよね。ここはインターネットが通じてないから簡単なことしかできないけれどね」

「はあ……」

「でもね、あなたの今までの経験と同じでさ、決して無駄じゃないと思うんだよ。何かの役に立つんだ。この年になってそう思うんだよ。今は大変かもしれないけれど、今までの経験を生かして、何か今の状況を打破できるんじゃないかねぇ?」

俺は少し驚きながらも、おばあちゃんが淹れてくれたお茶を飲み干し、里山の風景を眺めながら考えた。

――そうだ。自分のお茶をインターネットを使って直接発信して、少しずつでもいいから、本物の急須で淹れる緑茶の良さを広げよう。そうすれば、道が開けるかもしれない。

そう思った瞬間、「帰る道が現れたよ」とおばあちゃんが言った。

「おばあちゃん、ありがとう。なんとなく、これからやるべきことがわかったよ。今度お礼にまた来ていいですか?」

と言うと、おばあちゃんは少し寂しそうな顔をして言った。

「ここは一期一会の場所で、二度と会えないんだよ。でもね、これを持っていきな」

と言って、おばあちゃんの着物の模様と同じ柄の折り鶴をくれた。

「もしまた迷った時は、この折り鶴を見て、自分自身で物事を切り拓く力をつけたことを思い出すんだよ」

俺は「おばあちゃん、ありがとう!」と言って、あの縁側での極上の緑茶の香りを胸に抱きながら、自分の茶畑へと向かって力強く歩き出した。

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