【唯一無二の優しさの誇り】
ここは、心がちょっと迷子になった人がひょっこりと訪れてしまう場所。
1杯のお茶をゆっくり飲み干す間に、ついつい心を開いて、溜め込んでいた本音を吐き出してしまう——そんな不思議な縁側です。
悪い心を持つ人は決して辿り着けない。心がほんの少し弱くなった人だけが、何かの拍子に見つけることができる場所。
さあ、今日はどんなお客様が、この暖簾をくぐってくるのかしら?
〜いつも親戚の集まりで傷つけられるお客様〜
もう絶対にあんな集まりには行かない。子どもの頃からずっと、嫌で嫌でしょうがなかった。
他の話題はないのか、人のアラを探しては毎回同じ失敗談を蒸し返す。みんなで大声で笑い、最後には「だからお前はまだ結婚できないんだ」と攻撃の矢を向けてくる。他のいとこたちだって同じようなものなのに、なぜ私ばかりがターゲットにされるのだろう。
長年蓄積された悔しさと、消えない言葉の傷跡が胸の中で爆発しそうになったその時――気がつくと、目の前に古い古民家が建っていた。
縁側には、おばあちゃんがニコニコと座って手招きをしている。
一瞬、私を否定してばかりだった実の祖母の姿が重なり、身構えてしまったが、「遠いところをよく来たね。お茶を一杯飲んでお行き」と穏やかに微笑む声に、張り詰めていた警戒心がふっと解けていった。
私はおずおずと縁側に腰を下ろし、緑茶をひと口飲んだ。
「おばあちゃん……私の本当の祖母は、こんな風に優しくしてくれなかったんです」
そう言って、私は何年も繰り返されてきた親戚たちの心無い言葉を、堰を切ったように話し始めた。
「それはずっと、嫌な思いをしたねぇ。苦しかったね」
おばあちゃんは優しくうなずき、「他にもいとこがいるのに、なぜ私ばかり……」という疑問にも、そっと庭の軒下を指差した。
「ほら、あそこをごらん。ツバメの巣があるね。たくさんの子供たちが、一番に餌をもらおうと大きな口を開けて騒いでいるよ」
おばあちゃんは優しい目を細めて続けた。
「あなたの親戚たちもそうやって騒いで、みんなから一番おいしい餌をもらいたいのさ。その親鳥が運んでくる、一番安全で抵抗しない餌が……あなたなんじゃないかねぇ」
「私……ですか?」
「そうさね。いつも決まったおいしい餌で、安定して抵抗もしないから、みんなにとって都合が良くて食べやすいのさ。他の、激しく毒を吐くような手強い餌は、誰も怖くて食べたくないからねえ」
「私が、言い返さずに黙っていたからいけなかったんでしょうか……」
私の問いに、おばあちゃんは首を横に振った。
「違うよ。みんな、あなたのその優しい心につけ込んで、自分が矢面に立たないようにしていただけさね。あなたは、とても優しい人なんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、堪えていた涙が一粒、また一粒とこぼれ落ちた。おばあちゃんが優しく背中を撫でてくれる。
しばらく泣いたあと、残ったお茶を飲み干すと、胸につかえていた何年分もの澱が、すっと溶けていくのを感じた。
「おばあちゃん、また遊びに来て愚痴を聞いてもらってもいいですか」
私が尋ねると、おばあちゃんは少し寂しそうに微笑んだ。
「ここは一期一会の場所だからね、もう二度と来られないの。だけど、これを持ってお行き」
そう言って手渡してくれたのは、おばあちゃんの着物と同じ柄の小さな折り鶴だった。
「これを見るたびに、自分が誰よりも優しい心を持っていることを思い出してごらん。それはあなただけの、何よりも誇らしい宝物なんだから。他に何を言われても、自信を持ちなさい」
「ありがとうございました……!」
私はおばあちゃんに深く頭を下げ、古民家をあとにする。
自分が唯一無二の優しい心の持ち主であるという誇りを胸に、私はしっかりと前を向いて、自分の足で自分の道を歩いていった。




