【夢を追う背中と、甘い飴とお守り】
ここは、心がちょっと迷子になった人がひょっこりと訪れてしまう場所。
1杯のお茶をゆっくり飲んでいる間に、ついつい心を開いて、溜め込んでいた本音を吐き出してしまう——そんな不思議な縁側です。
悪い心を持つ人は決して辿り着けない。心がほんの少し弱くなった人だけが、何かの拍子に見つけることができる場所。
さあ、今日はどんなお客様が、この暖簾をくぐってくるのかしら?
〜夢をもつお客様〜
私は中学3年生。もうすぐ三者面談がある。
私にはどうしても叶えたい夢がある。そのために行きたい高校がある。両親には前から伝えていたけれど、ずっと反対されていた。だから、うるさいことを言われないようにと必死で勉強し、望み通りの良い成績を勝ち取った。
けれど、それが失敗だったらしい。
「この成績なら、親の勧める高校に行けるはずよ。夢なんて追ってないで、現実を見なさい」
面談の席で母はそう言い放ち、先生までもが「現実的な選択を」と私を追い詰める。夢を見るのは大切だと言っていた先生の言葉は、綺麗事だったんだ。
私は「それでも、自分の行きたい学校に行きます」とだけ告げ、教室を飛び出した。そのまま校門へ向かって走ったはずだったのに、気がつくと周囲の景色は一変していた。
見知らぬ山と田んぼ。ここはどこ?
呆然としている私の目の前に、一軒の古民家が建っていた。縁側には、ニコニコとこちらを見ているおばあちゃんが一人。
「あらあらいらっしゃい。息が切れているわね、まずはお茶を飲んで落ち着きなさい」
おばあちゃんは不思議なほど穏やかで、私は警戒心を抱きつつも、導かれるようにその横に座った。
「おばあちゃんの力じゃあなたには勝てないから、怖がらなくて大丈夫よ」
その言葉に妙な説得力を感じて、私は差し出された緑茶を受け取った。
「おばあちゃん、私には夢があるの。なのに、親も先生もみんな自分の気持ちを押し付けてくる。認められたくて勉強したのに……」
話し出すと、溜め込んでいた悔しさが溢れてきた。おばあちゃんは静かに聞きながら、「疲れているときは甘いものをね」と小さな飴を一つくれた。
「あら、見てごらん。白い小さな鳥が飛んでいるわ。気持ちよさそうね」
空を見上げると、一羽の鳥が空を大きく旋回し、山の向こうへと消えていった。
飴をなめ終え、温かいお茶で口をさっぱりさせると、不思議と心が軽くなっていた。
「あなたは自分の夢のために、これほど努力したのね。その心に一本通った強さがあるなら、大丈夫。あなたはすごいわ」
おばあちゃんの言葉に、自分がなぜ走って出てしまったのか少し恥ずかしくなった。早く学校に戻って、ちゃんと自分の気持ちを話さなきゃ。
お茶を飲み干すと、おばあちゃんは森の先を指さした。先ほどまでなかったはずの道が、光の中に浮かび上がっている。その向こうには、心配そうに校門に立つ母の姿が見えた。
「おばあちゃん、ありがとう。受験に受かったら、またお礼に来ます!」
「ここはね、一期一会の場所で一度しか来れないのよ。これ、受験のお守りに持っていきなさい」
手渡されたのは、おばあちゃんの着物と同じ柄で折られた鶴の折り紙だった。
「これを持って受験するね。じゃあね、おばあちゃん!」
私は母と向き合うため、まっすぐな道へと歩き出した。




