【変な縁が重なっても、物ともしない強い心を持つ決心】
ここは、心がちょっと迷子になった人がひょっこりと訪れてしまう場所。
1杯のお茶をゆっくり飲み干す間に、ついつい心を開いて、溜め込んでいた本音を吐き出してしまう——そんな不思議な縁側です。
悪い心を持つ人は決して辿り着けない。心がほんの少し弱くなった人だけが、何かの拍子に見つけることができる場所。
さあ、今日はどんなお客様が、この暖簾をくぐってくるのかしら?
〜奇妙な悪縁の連続に心をすり減らすお客様〜
悪縁ばかりだ。もう、いい加減にしてほしい。
いつからこういうことが始まったのだろう。振り返れば、高校を卒業した時に仲良くしていた元クラスメイトと、妹が私とは別の高校で仲良くなった友達が、偶然にも姉妹だったりした。
社会に出て転職を繰り返した時もそうだ。同じ業界とはいえ、前の職場でトラブルのあった上司の知人が新しい派遣先にいたり、元同期の知り合いが転職先のグループにいたり。彼氏の後輩のグループと遊べば、新しく入った会社の人がその子と友達だったりする。
ある時は、海外出張へ行く途中の海外の電車の中で取引先の人にばったり会い、タクシーを降りて次に乗ろうとした人がまた別の取引先の人だったこともある。またある時は、親戚のおばさんに連れていってもらったラーメン屋で、私たちの会話が耳に入ったようで、隣に座った人が「もしかして〇〇さんですか?」といきなり声をかけてきた。何かと思えば、今話題にしていた友人の料理人の旦那さんが仕入れをしている先の漁師さんだった……。
こんな偶然が続きすぎて、「みんなこんなものなのだろうか?」と首をかしげたくなる。
そして、極めつけは今だ。
長く付き合った彼氏と別れ、新しく出会った彼氏と「そろそろ結婚を」という話になり、ご両親への挨拶のため実家を訪れた時のことだった。なぜか、兄のお嫁さん候補を探るように覗き見に来ていた妹夫婦が、彼氏の両親と一緒にいたのだ。
彼氏の妹の旦那さんが私をじっと見つめているなと思ったら、一瞬二人になった時に「俺、あなたを知ってますよ」と言われた。「えっ」と聞き返すと、彼はなんと私の元彼の上司だったという。飲み会の時などに元彼のスマホで私の写真を見せられ、彼女だとよく話を聞いていたそうだ。しかも、私と別れる時の相談までされていたらしい。
はっきり言って、私は元彼にひどく振られ、散々な言われようで深く傷ついた。それを相談されていたということは、私の悪口もたくさん聞かれていたに違いない。私は何も悪いことをしていないのに、気まずさと嫌な気分でいっぱいだった。
その場では「そうですか」と大人しく対応し、彼氏のご両親にもきちんと挨拶をして実家を出たが、耐えきれなくなって彼氏に妹の旦那さんの話をぶつけた。
すると彼は、「あー、そんなの全然気にすることないよ」とあまりに軽く笑った。あなたの両親に何か変な印象を持たれたらどうするのよ。たまたまあなたが元彼の存在をを知っていたからこうして話せたけれど、もし知らなかったら裏でどんなふうに思われていたか……。
「もう私、今日は先に帰る!」
私はそう言って走り出した。彼が追いかけてきたようだったが、私は駅へと駆け込み、電車に飛び乗って彼を振り切った――はずだった。
けれど、電車に揺られているついついそのつもりが、いつの間にか目の前の景色が変わっていた。
見渡す限りの里山。目の前には古民家があり、縁側にはおばあちゃんがニコニコと座って手招きをしている。
「あら、髪を振り乱してどうしたの? 汗もかいているようだし、喉が渇いているんじゃないかい。お茶でも飲んでゆっくりしなさいよ」
「いや、何が起きたんですか……私、早く帰りたいんです!」
慌ててスマホを取り出したが、あろうことか圏外になっていた。
「おばあちゃん、ここはいったいどこですか!? 電話はどこに……」
そう聞く私に、おばあちゃんは「ここには電話なんてないわよ。お茶を飲んでいるうちに、道が現れるから」と、のんびりとしたペースを崩さない。
「こんな不思議な世界に迷い込んじゃったなんて……私、やっぱり疲れすぎているのかな」
「そんなことないわよ。大丈夫、安心しておいで」
おばあちゃんが差し出してくれたお茶の香りに誘われるまま、私は促されて縁側に腰掛けた。
お茶を一口飲み、少しほっとした瞬間、張り詰めていた糸が切れたように、おばあちゃんへこれまでの愚痴が堰を切ったようにあふれ出した。
「なんで私ばっかり、こんな変な繋がりばかりできるんでしょう。業界が一緒ならまだしも、全然関係ないところでも変な縁ばかり……。どうして私、何か悪いことでもしたのかなぁ。彼氏の家族に変な噂が流れたらどうしよう……」
そう言って、私はポロポロと涙をこぼしてしまった。
おばあちゃんは優しく私の頭をポンポンと撫でてくれ、やがて森の方を指差した。
「ほら、あそこを見てごらん。あそこにアコウの木があるだろう? あの木はね、他の木にピタッと絡みついて、しまいには相手の木をダメにしてしまうんだよ。だからね、大切な木にそういう厄介なものが巻きつこうとした時には、しっかりそれを取り除かないといけないのさ。それに自分でちゃんと気づくことが大切なんだよ。気づいてさえいれば、前もって対処できるからね」
日本のこの森には似つかわしくない、南方の強い生命力を持つ木を見つめながら、私はハッとした。
――そっか。私もあの絡みつかれた木のように、今までの経験を生かして「おかしいな」と思う悪い縁に自分で気づき、絡まれないようにしっかり向き合って戦えばいいんだ。
そう思うと、胸のつかえがすーっと軽くなり、私はお茶を最後の一口までゆっくりと飲み干した。
「あそこに道が現れたよ」
おばあちゃんの声に振り返ると、確かにさっき乗るはずだった電車へと続く道が、ゆらゆらと浮かび上がっていた。
「おばあちゃん、ありがとう。私、彼とちゃんと向き合ってきます。今度彼とお礼におばあちゃんに会いにきますね」
そう言うと、おばあちゃんは少し寂しそうな、けれど温かい顔をして微笑んだ。
「ここは一期一会の場所だから、もう二度と会えないんだよ。でもね、この折り鶴を見て、この場所の風景を思い出してごらん。また変な縁や嫌な繋がりが結びつきそうになった時、『どうすれば自分を守れるか』を思い出せるようにね」
おばあちゃんは、自分の着物と同じ模様の折り鶴をそっと手渡してくれた。
「おばあちゃん、本当にありがとう。私、もう行くね!」
私は折り鶴を大切にポケットにしまい、明るい道へと歩き出した。
これから先も、もしかしたらまた妙な縁やトラブルに出くわすかもしれない。だけど、それにただ嘆くだけじゃなくて、「こういうこともあるさ」と受け流し、どうやってきっぱり断ち切るか――そんな強い心を持って、これからは笑って過ごしてやろうと心から決心したのだった。




