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縁側のひみつ茶屋  作者: Fos B


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【トラブルも跳ね返す、頼もしい経験値】

ここは、心がちょっと迷子になった人がひょっこりと訪れてしまう場所。

1杯のお茶をゆっくり飲み干す間に、ついつい心を開いて、溜め込んでいた本音を吐き出してしまう——そんな不思議な縁側です。

悪い心を持つ人は決して辿り着けない。心がほんの少し弱くなった人だけが、何かの拍子に見つけることができる場所。

さあ、今日はどんなお客様が、この暖簾をくぐってくるのかしら? 



〜機械トラブルと不運の連続に心をすり減らすお客様〜


はい、まただ。目の前のレジの担当が、ベテランさんから新人さん(見習い)に変わってしまう。私はどうしてこうタイミングが悪いのだろう。

最近はほとんどがセルフレジになり、自分でやるようになったというのに、それさえもよく不具合が起きてしまう。私が変なところを押したわけでもないのに、いつも係の人を呼んで直してもらっては、余計に時間がかかってしまうことが多い。

仕事のときのコピー機もそうだ。いざ使おうとすると、操作する前からなぜか詰まったり、自分が使う時に限ってエラーが起きたりする。普通に使っているだけなのに、私はいったい変な電磁波でも出しているんだろうかと思ってしまう。

そして、数が少なくなったスーパーのレジでもそうだ。昔はセルフレジなんかなかった時からずっと、いつも行くスーパーだと「この人はベテランで早いな」というのがわかる。だからその人の後ろに並んでいるのに、自分の前や2人前で急に新人さん(見習い)に代わってしまい、他のレジの方がどんどん進んでいってしまう。そんなことが本当によくある。

それに、通販で買い物をしても、届いたものが違う商品だったり、最初から壊れているものの率がすごく高い。今は電話での問い合わせ先を探すのも一苦労だというのに……。

新しく通信教育をやろうと一大決心をして届いたテキストを開いてみれば、肝心の教材が足りなかったりすることが多い。

「私は何か変な呪いでもかけられているのか? それとも変な電磁波でも出しているのか……もういい加減にしてよ!」と、誰に向かうでもなく、怒りが頂点に達した時だった。

スーパーの出入り口から駐車場に向けて歩いて行こうとした、その時。

アスファルトの地面から、急に里山の風景が目の前に広がり、爽やかな風がふわりと肌を撫でた。目の前には古民家があり、縁側にはおばあちゃんがニコニコとこちらを向いて手招きをしている。

「買い物して疲れたでしょう。お茶を1杯飲んでいきなさいよ」

そう言われて、私は思わず「いやいや、知らない人がいきなりお茶に誘ったって、普通は行きませんよ」と返してしまった。すると、おばあちゃんは大笑いしてこう言った。

「こんな田舎なんだから、何をしようと思ったってできないわよ。だまくらかして、私があなたを食べるとでも思った? こんなおばあちゃんに何ができると思っているのよ」

その言葉に私もおかしくなって笑いながら、促されるまま縁側に腰掛けた。

「おばあちゃん、このお茶おいしいですね。初めてこんなおいしいお茶飲みました……。なんだか、さっきまでイライラしていたのが少しおさまった気分です」

そう話しながら、私は先ほどまでのイライラや、コピー機の不具合から通信教育の不手際まで、これまで何かをしようとするたびにうまくいかなかった出来事の数々をぶちまけた。

おばあちゃんは優しく聞いてから、「そういう日常のちょっとしたイライラや、うまくいかないことって、一番頭にきちゃうのよね」と声をかけてくれた。

「そうなんです。一つ一つはちっちゃくてくだらないことかもしれないけれど、私にとっては結構深く傷つくことばかりで。それが溜まって大きなイライラになっちゃっているんです」

私の言葉を聞きながら、おばあちゃんは里山の遠くに見える田んぼの間を、山の方へとゆっくり流れていく川を指差した。

「あの川を見てごらん。一見ゆっくりのんびり流れているように見えるけれど、所々で流れが激しいところがあったり、淀んでしまったようなところがあるのよ。一見穏やかにそうして生きているように見える人たちにも、きっとそれぞれそういうことがあると思うわ。でも、あなたはエネルギッシュで色々なことをやろうとするから、その回数が余計に他の人より多いのかもしれないわね」

その言葉に、私はハッとした。

あぁ、そうか。私は他の人よりも「いろんなことをしよう」と思ってたくさん動き、どうすればレジが速くなるかなど人一倍頭を使っているからこそ、余計にそういうトラブルに遭遇しやすいのかもしれない。

「でも、それって理不尽じゃないですか! 結局私、何も悪いことしてないのに、勝手に機械が止まったり変なことが起こっちゃうんです。何か悪いものでもついてるのかって思っちゃいますよ」

思わずそう声を上げると、おばあちゃんは穏やかに微笑んだ。

「そうよね、嫌な気分になるわよね。でもね、あなたはその数々のトラブルや機械の不具合を、なんだかんだ言いながらも毎回ちゃんとやり過ごしてきたのでしょう? それって、実はものすごく生命力が強くてすごいことなのよ。だからこれからも度々そういうことがあるかもしれないけれど、今までの経験を生かして、あなたなら何でも強く乗り越えていけるって私は思うわ」

その言葉を聞きながら、私はお茶を最後の一口までゆっくりと飲み干した。

――そっか。今まで嫌な気分になったりトラブルに巻き込まれたりしたけれど、それも全部「経験の一つ」なんだ。これからもいっぱい機械の不具合とかあるかもしれないけれど、すでに人よりたくさん場数を踏んで乗り越えてきているから、私にとっては案外大したことではないのかもしれないと思えた。

ふと気がつくと、おばあちゃんが「ほら、あそこに道が現れたわよ」と言った。

見ると、さっきまでとは違う、駐車場へ続く見慣れた道がゆらゆらと浮かび上がっている。

「おばあちゃん、今度お礼にまた遊びに来てもいいですか?」

そう聞くと、おばあちゃんは少し寂しそうに、けれどどこまでも優しく微笑んだ。

「ここは一期一会の場所なのだから、もう会えないわ。でも、これを持っていって。ここであなたが『今までの経験をさらに生かして強くなるんだ』と思い付いたこと、その気持ちを忘れないでね。そして、あの川の景色も忘れないでね」

そう言って、おばあちゃんは自分の着ている着物と同じ模様の折り鶴をそっと手渡してくれた。

「おばあちゃん、ありがとう! 私、行ってきます」

私は折り鶴を大事に握りしめ、明るい道に向かって歩き出した。

これからもきっと、コピー機が詰まったり色々なことがあるだろう。だけど今のこの気持ちを忘れずに、また何か起きた時も「これも経験を積み重ねるためだわ」と、笑って過ごしてやろうと心から決心したのだった。

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