【高性能すぎるセンサー】
※(おことわり:今回のエピソードには、食べ物への異物混入に関する描写が含まれます。苦手な方はご注意ください)
ここは、心がちょっと迷子になった人がひょっこりと訪れてしまう場所。
1杯のお茶をゆっくり飲み干す間に、ついつい心を開いて、溜め込んでいた本音を吐き出してしまう——そんな不思議な縁側です。
悪い心を持つ人は決して辿り着けない。心がほんの少し弱くなった人だけが、何かの拍子に見つけることができる場所。
さあ、今日はどんなお客様が、この暖簾をくぐってくるのかしら?
〜異物ばかり引き当てるお客様〜
当たった。なんでどうして、こんなにたくさんある中から……。
差し入れの今川焼き。美味しそうって半分に割ったら、中から場違いな小さなお客さまが入っていた。なんでいつもこうなるのだろう…こんなに数ある中でたまたま取ったものが。
私はいつもそうだ。子供の頃からサラダを頼むと小さな違和感が入り、給食を食べると場違いな小さなお客さまが混ざっていて、修学旅行で行った宿の夕食の中にも入っていて、そして大人になってからもそういうことが続いて、社員食堂で食べたラーメンの中にボタンが入っていたり、たまたまお昼で入ったイートインのあるパン屋で焼きたてのパンを食べようと思ったら場違いな小さなお客さまが載ってたり、お土産のプリンアラモードを食べようと思うとプラスチック片が入ってたり……。
なんで私ばっかりこういう目に合うんだろう。宝くじが当たるんじゃなくて、なんでこんなに色々嫌な物ばかり当たるんだ。私が何をしたっていうんだ。運が悪いのか。周りの人のように「運が悪かったね」って、それじゃあ絶望しているようなものじゃない。
心が爆発した途端、気がつくと緑茶の香りが鼻をついて、目の前の古民家でおばあちゃんが縁側に座っていた。
「あらあら、そんなに興奮してどうしちゃったの?」
とのんびりとおばあちゃんが言った。私は、「ここはどこですか?、なんで急にこんな……私、仕事場で今川焼きを食べようと思ったら中に場違いな小さなお客さまが入ってたから、給湯室のゴミ箱に捨てに行こうと思って給湯室に入ったはずなのに! 早く戻らないと職場の人に何か言われちゃう!」と言うと、おばあちゃんは「お茶を1杯飲んで落ち着きなさい。お茶を飲み終わる頃には家が現れるわよ」と言った。
私はもう感情が高ぶりすぎて疲れていたので、縁側にどさっと横になった。お行儀は悪いけれど、寝ながらお茶を飲んだ。おばあちゃんは呆れもせずにニコニコ私を見ている。
私はおばあちゃんに、今日会ったこと、今まであったことを全部話した。
そうすると、「あなたは他の人が気づかないことも気づく人なのね。他の人より敏感にできてるのよ。それだけ危機管理ができてるってことじゃないかしら?」と言われた。
私は、「危機管理ができてるってことは、他の人は私のようになっても気にしないというか、気がつかないってことですか? じゃあ、そのまま食べちゃってるってこと!?」と言うと、
おばあちゃんはふふっと笑って、
「さあねぇ。気づかないままお腹に入って、お腹が痛くなってる鈍感な人もいれば、あなたみたいに未然に『これ変だよ!』ってキャッチしちゃう損な役回りもいる。でもねぇ、世の中の『ちょっと変だな』に気づけるってことは、それだけ周りの小さな変化や優しさにも、人一倍気づけるアンテナを持っているってことじゃないかねぇ」
と言った。
私はそれでもおばあちゃんの話に納得できなくて、「他の人の話じゃなくて、私がそんなものに当たってしまう理不尽さに対して、不条理さに対して怒ってるのよ!!」と、また怒りがぶり返してきてしまった。
おばあちゃんは遠くの田んぼに立っている案山子を指差して、「あそこを見てごらん。あの案山子は自分が案山子だということも自覚しないで、ただ立っているだけだよ。だけど、周りに害鳥や害獣を寄せ付けないだろう? あなたもそれと同じように自覚はしてないのに、周りのために自分が犠牲になって周りの役に立ってるんじゃないかなぁ。少し悔しいかもしれないけれど、そのあなたの『敏感にものに気づく力』はいろんなところで役に立っているはずだよ。少し損をしているように感じるかもしれないけれど、それ以上に自分に大きな徳として返ってくるはずだよ」とおばあちゃんが言った。
私はお茶を一気に飲み干した。納得はしてないけれど、おばあちゃんの言葉が胸にしみてきて、怒りが収まった。
そうすると、おばあちゃんが「ほら、あそこに道が現れたよ」と言った。
私はおばあちゃんにきちんと向き合って頭を下げた。
「おばあちゃん、さっきは変な態度をとってごめんなさい。今度きちんと謝りに来るから」と言うと、おばあちゃんは寂しそうに、「ここは一期一会の場所で、一度出ると戻れないのよ」と言って、自分の着物と同じ模様の折り鶴をくれた。
そしておばあちゃんは、「これを見て、自分はただの不運ではなく、物事によく気がつける敏感な自分を発見できたと思い出してね」と言った。
もう一度私は頭を下げて、自分の会社へ続く道に行った。
これからは、不運とは思わず違う見方をしてみようと決意して——。




