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【花嫁への準備と仲良しの山鳩】

ここは、心がちょっと迷子になった人がひょっこりと訪れてしまう場所。

1杯のお茶をゆっくり飲んでいる間に、ついつい心を開いて、溜め込んでいた本音を吐き出してしまう——そんな不思議な縁側です。

悪い心を持つ人は決して辿り着けない。心がほんの少し弱くなった人だけが、何かの拍子に見つけることができる場所。

さあ、今日はどんなお客様が、この暖簾をくぐってくるのかしら?



〜マリッジブルーのお客様〜


その日、私は婚約者の彼と結婚式の打ち合わせをしていた。けれど、新居のことや式の準備の話をするたび、私たちの意見は平行線を辿るばかり。歩み寄れないと感じることが増え、「本当にこの人と一生一緒にいられるのかな」と不安が募っていた。

打ち合わせの帰り、休憩に入ったカフェでまた喧嘩が始まってしまった。私はたまらなくなり、「もう帰る!」と大きな声を出して店を飛び出した。

街中にいたはずなのに、ふと耳に鳩の鳴き声が聞こえた。

「ぽっぽー、ぽぽっぽー。ぽっぽー、ぽぽっぽー」

顔を上げると、そこは街の喧騒から切り離された古民家だった。藁葺き屋根の玄関の扉が開いていて奥には土間と竈門が見える。気づけば私は縁側の前にいて、目の前にはおばあちゃんがニコニコしながらお茶を飲んでいた。

「……ここ、どこですか? 街の中にいたはずなのに」

私が戸惑いながら声をかけると、おばあちゃんはのんびりと「それは大変だったわねぇ」と笑った。

「すみません、スマホも圏外みたいで。電話を貸してもらえませんか?」

「ここは電話なんてないのよ。でもね、ちょっと待っていればすぐ帰れるわよ」

おばあちゃんに手招きされ、警戒しつつも縁側に腰を下ろした。「山姥じゃないから、あなたを食べたりしないわよ」と笑われて、少しだけ肩の力が抜けた。

出された熱々の緑茶を飲みながら、風景を眺める。冷たい風が吹いて、さっきまでの激しい怒りが静かに落ち着いていく。

「……もうすぐ結婚するんですけど、彼と話が合わなくて、喧嘩ばっかりなんです」

おばあちゃんは「まぁ、そうなの」と穏やかに聞いてくれた。

「これがマリッジブルーっていうんですかね。彼と一生一緒にいられるか、不安になっちゃって」

私がそうこぼすと、おばあちゃんは前の森にある木を指さした。

「あそこを見てごらん。山鳩が夫婦で仲良く並んでいるよ」

見上げると、二羽の山鳩が寄り添い、一定のリズムで歌うように鳴き合っていた。

「彼のことは大好きなんです。でも、どうしても意地を張ってしまって……」

おばあちゃんは私の背中をポンポンと叩いてくれた。

「ずっと別々の人生を歩んできたんだから、意見が違うのは当たり前。しょうがないことなのよ」

山鳩の楽しげな鳴き声を聞いているうちに、不安はどこかへ飛んでいった。

お茶を飲み終えると、おばあちゃんは森の方を指さした。

「ほら、道ができたよ」

見ると、そこには彼が待つ場所へと続く道があった。彼が私を追いかけようと、立ち上がりかけている姿さえ見える。

「おばあちゃん、ありがとう。今度、彼とお礼に来ます!」

私が慌てて言うと、おばあちゃんは少し寂しそうに微笑んだ。

「ここは一期一会の場所だから、もう会えないのよ。……お祝いに、これを持っていきなさい」

おばあちゃんは、自分の着物と同じ模様の折り紙で折った鶴を差し出した。指先が、不思議なほど温かい。

「ありがとうございます」

私は何度も手を振り、彼が待っている現実の世界へと走り出した。

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