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【頑張り屋の君と、小さなカナブン】

ここは、心がちょっと迷子になった人がひょっこりと訪れてしまう場所。

1杯のお茶をゆっくり飲んでいる間に、ついつい心を開いて、溜め込んでいた本音を吐き出してしまう——そんな不思議な縁側です。

悪い心を持つ人は決して辿り着けない。心がほんの少し弱くなった人だけが、何かの拍子に見つけることができる場所。

さあ、今日はどんなお客様が、この暖簾をくぐってくるのかしら?



〜頑張り屋の小さなお客様〜


放課後の校庭。僕は何度も鉄棒を見上げている。

「小学校3年生までに逆上がりができないと、一生できないのよ」

友達のお母さんが言っていた言葉が、胸に重くのしかかっていた。

手が滑り、鉄棒に打ちつけられた手のひらが痛い。豆が潰れてジンジンする。なぜ僕だけできないんだろう。みんなあんなに軽々と回れるのに。

痛みに顔をしかめ、ふと顔を上げたその瞬間だった。

急に耳に蝉の声が響いた。まだ5月なのに、なぜ?

気づけばそこは校庭ではなかった。古びた民家の縁側。そこには、おばあちゃんが一人、ニコニコしながらお茶を飲んでいた。

「ここどこ? お母さんに連絡して!」

僕が焦って駆け寄ると、おばあちゃんは穏やかに言った。

「ここには連絡する手段がないの。でも、ちょっと待っていれば道はつながるから。その間に手の手当てをして、お茶を飲んでいきなさい」

「知らない人の家になんて上がったら、お母さんに怒られちゃうよ」

「縁側に座って家に入らなければ大丈夫よ」

おばあちゃんは、僕の手のひらを優しく手当てしてくれた。そして、温かい緑茶を差し出してくれる。

並んで足をぶらぶらさせていると、静けさの中で僕の口から本音がこぼれた。

「おばあちゃん、僕ね、逆上がりができないんだ。いくら頑張っても、全然できなくて……」

「そうなんだねぇ」

おばあちゃんは急かさず、ただ聞いてくれる。

「あ、見てごらん。あそこの物干しに、小さなカナブンが一生懸命上に登ろうとしているよ」

「本当だ」

「みんなができるのに、僕だけできないんだ。一生できないのかな」

おばあちゃんは僕の手のひらを、そっと上に向けてくれた。

「あなたは豆が潰れるくらい、一生懸命努力をしたんだね。逆上がりができることよりも、それだけ一生懸命になれる心が強いってこと、あなたはすごいと思うよ」

不思議と、あんなに焦っていた気持ちがすっと消えていった。空には夏のような大きな入道雲。遠くで蝉が鳴いている。

気がつくと、湯飲みは空っぽになっていた。

「おばあちゃん、ごちそうさま。今度、お礼にお母さんと来るね」

僕が言うと、おばあちゃんは少し寂しそうに、でも微笑んで言った。

「そうね。でも、ここは一度きりしか来られないところなの。一期一会って言ってね。また会えなくても、あなたの気持ちはちゃんと通じているから大丈夫よ。よかったら、仲良くなった記念にこれを持っていってね」

おばあちゃんは、自分の着物と同じ模様をした鶴の折り紙をそっと手渡してくれた。

おばあちゃんが指さした道をまっすぐ進むと、森の向こうにいつもの鉄棒が見えた。

「おばあちゃん、ありがとう! バイバイ!」

僕は縁側を降り、校庭へと続く道を踏み出した。

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