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【孔雀は誰のために羽を広げる】

ここは、心がちょっと迷子になった人がひょっこりと訪れてしまう場所。

1杯のお茶をゆっくり飲んでいる間に、ついつい心を開いて、溜め込んでいた本音を吐き出してしまう——そんな不思議な縁側です。

悪い心を持つ人は決して辿り着けない。心がほんの少し弱くなった人だけが、何かの拍子に見つけることができる場所。

さあ、今日はどんなお客様が、この暖簾をくぐってくるのかしら?



〜歌とダンスが好きなお客様〜


「……ちょっとぐらいいいでしょう?」

大人なんだから、好きなものを飲んで何が悪いの? 別に悪いことなんてしていない。なんでそんなに責められなきゃいけないの? 私だって人間なんだから、感情くらいあるわよ。

私はただ、歌うこととダンスが好きで、それをみんなに見てもらいたいだけだった。それだけだったのに、いつの間にか大勢の人から「こうあるべきだ」という姿を押し付けられるようになった。私の本当の気持ちなんて、誰も分かってくれない。

「もう、やめてやる……」

スタジオを飛び出したはずだった。賑やかな喧騒から急に、自然の音しかしない場所にいた。

目の前に古民家があり、縁側でニコニコと笑うおばあちゃんが座っている。

「おばあちゃん、ここはどこ? スタジオにいたはずなのよ! マネージャーに怒られるわ、もうどうでもいい、逃亡しちゃおうかな!」

私が一方的にまくし立てると、おばあちゃんはのんびりと笑った。

「たくさん声を出したから喉が乾いたでしょう。こちらに来て、お茶を飲んでいきなさいな」

「知らない人にそんなこと言われても……罠なの?」

私が疑うと、おばあちゃんは「周りをよく見なさい、ここには何にもないわよ」と静かに言った。しぶしぶ縁側の横に座り、差し出された熱い緑茶を一口飲む。

「……あれ? 私、熱いお茶なんて嫌いなはずなのに。これ、すごくおいしい」

「それはよかったわねぇ」

一口飲むと、張り詰めていた糸が少し緩んだ。

「おばあちゃん、聞いてよ。私が好きなことをしているだけなのに、周りが勝手に期待して、勝手に失望して、勝手に叩くの。本当に煩わしいわ」

「それは大変ねぇ」

おばあちゃんは、そばの木を指差した。その先には、この静かな風景には不釣り合いなほど華やかな孔雀が止まっていた。

「驚いた……大きな孔雀がいる」

「どこからか迷い込んだのね。でも見てごらん、羽を広げてとても綺麗よ。まるであなたみたいね」

その孔雀が見事に羽を広げているのを眺めているうちに、喉の奥のヒリヒリした怒りが、少しずつ静まっていった。

お茶を一気に飲み干して、私は言った。

「おばあちゃん、もう何もかも嫌になったからここにいたい。ねえ、ここに居座っちゃダメ?」

おばあちゃんは少しだけ困った顔をして、優しく首を振った。

「いいえ。ここは一期一会の場所。もう二度とここには来られないのよ」

「そんなのやだ! また来たいんだけど!」

私は思わず食い下がった。こんなに静かで、私の味方をしてくれる場所なんて他にないのに。

しかし、おばあちゃんは凛とした声で言った。

「あなたが本当に輝ける場所は、ここにはないわ。その強い心を持って、周りなんて蹴散らしてやりなさいよ」

おばあちゃんは、着物と同じ柄で折った折り鶴を私に手渡した。

「……これは?」

「いつでもこれを見て、この景色を思い出してね」

そしてもう一度、諭すように言った。

「ほら、あなたの道が出来ているわよ。お帰りなさい」

私は縁側を立ち上がった。けれど未練がましく何度も何度も振り返りながら、元のスタジオへと続く、かすかな光の道を進んでいった。

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