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【おじいさんの冒険、宝のゆくえ】

ここは、心がちょっと迷子になった人がひょっこりと訪れてしまう場所。

1杯のお茶をゆっくり飲んでいる間に、ついつい心を開いて、溜め込んでいた本音を吐き出してしまう——そんな不思議な縁側です。

悪い心を持つ人は決して辿り着けない。心がほんの少し弱くなった人だけが、何かの拍子に見つけることができる場所。

さあ、今日はどんなお客様が、この暖簾をくぐってくるのかしら?



〜体調の悪いお客様〜


ふっと意識が浮上した。どうやら俺は庭で倒れ、病院に運び込まれたらしい。

周りで家族が騒いでいる声がする。声をかけようとしたが、声も出ず、体も動かない。

「親父の遺産は俺が全部もらうんだよ」

「何言ってるの? お父さんの面倒を見てるのは私じゃない!」

「お兄さんは何もやってないじゃないですか」

……耳を疑った。俺がまだ元気に生きているのに、遺産だの何だのと金の話ばかりを喚き合っている。医師は「ただの脱水症状だから、すぐによくなる」と言ってくれたのに、家族は聞く耳を持たず、俺をもういなくなった人のように扱っているのだ。

俺はこいつらのために、何十年も身を削って働いてきたのか。

怒りが、そしてどうしようもない虚しさがこみ上げてくる。こいつらになど、俺が築いたものなど一銭も渡してなるものか。

看護師が騒ぐ家族を外へ連れ出し、ようやく静寂が訪れた。俺は、自分を縛り付けているかのような病院の環境が、たまらなく嫌になった。

俺はベッドから起き上がり、繋がれていた管をゆっくりと外した。もう誰にも縛られたくない。ただ自由になりたかった。足を引きずるようにして一歩を踏み出す。

すると、消毒液の匂いが消え、ふわりと青々とした草の匂いが漂った。次の瞬間、俺が踏みしめていたのは無機質な床ではなく、柔らかな土の感触だった。

「……もしかして、天国に来てしまったのか?」

俺はあたりを見回した。あの世への橋を渡ったおぼえもないし、三途の川なんて見ていないのに……。

フラフラとよろめく俺に、縁側から穏やかな声がかかった。

「あらあら、随分と慌てん坊ね。大丈夫、こちらに来て休みなさいな」

そこには、ニコニコと微笑むおばあちゃんが座っていた。俺と同世代くらいに見える。

差し出された緑茶からは、吸い寄せられるような深い香りがした。一口飲むと、張り詰めていた糸がふっと切れた。

「……家族は、俺の体調のことなんて少しも気にかけていないんだ」

俺は止まらずに語り始めた。家族のこと、働いてきた年月、そして彼らが金のことしか考えていないという悲しみを。おばあちゃんは、ただ静かに聞いていた。

「それは辛かったわねぇ」

おばあちゃんが空を指差した。視線の先には、悠々と飛んでいく鶴の姿がある。

「何十年も家族のために頑張ってきたのに、この仕打ちだよ」

「あなたは、誰かのために自分を犠牲にできるほど、強い心を持った人なのよ。それは誇れること。家族も……自分の欲に目が眩んで、周りが見えなくなっているだけのことよ」

お茶を飲み干すと、身体の芯から力が戻ってくるようだった。

「おばあちゃん、またここに来てもいいか」

「ここは一期一会の場所。もう二度と会えないわ。でもね、これを持っていきなさい」

おばあちゃんは、自分の着物と同じ柄で折った折り鶴を、そっと手渡してくれた。

「これを見ればいつでもこの景色を思い出せるわよ」

おばあちゃんから受け取った折り鶴を握りしめ、俺は縁側を降りた。

振り返ると、病院のベッドが霞んで見える。

よし、答えは出た。

俺は一歩ずつ、静かな決意を胸に歩き出した。生きているうちに、すべて寄付してやろう。俺の人生の価値は、こいつらには一銭も渡さない。俺は、俺のために生きていくんだ。

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