8.鳥籠の道化は、優しい嘘に飼われる(後)
それからの私は、邸の奥部屋に軟禁される「狂った道化」となりました。
「退屈だわ、退屈で死んでしまいそう!
誰か、私を見て頂戴!」
たまに、見張りの隙を突いて部屋を脱走することがありました。
私が向かうのは、いつも、立派に成長していく息子・セルジオの元でした。
「セルジオ!私のかわいいセルジオ!
お母様よ、お母様が会いに来てあげたわ!」
廊下を歩くセルジオ(すでに十五歳近くになり、アレクそっくりの冷酷な美貌を持つ青年に育っていました)を見つけると、私はなりふり構わず彼に絡みつきました。
「お母様、廊下で大声を出すのはお控えください。公爵家の品位に関わります」
セルジオは、私の狂態に対しても、眉一つ動かしませんでした。
彼は私を突き放すこともしません。
ただ、父譲りの冷静さで、私を「うまくあしらう」のです。
「今日のドレスも素敵ですね、お母様。ですが、お医者様が部屋で待っています。
さあ、侍女たちと一緒に戻りましょう。後で、お気に入りの紅茶を届けさせますから」
「まあ……セルジオ、私のドレスが素敵だって言ってくれるの?
やっぱり、私を分かってくれるのはあなただけね!」
普通の人なら、その機械的で冷ややかな対応に、拒絶を感じて絶望するでしょう。
けれど、承認欲求の塊であり、狂気に片足を突っ込んでいる私にとっては、冷たく無視されるより、相手をしてもらえることだけで満足だったのです。
「ふふ、セルジオは私を愛しているわ。私を気遣ってくれているもの」
私はセルジオにあしらわれるたびに機嫌を良くし、大人しく部屋へと戻っていきました。
そんな歪んだ、奇妙な日常が、しばらくの間続いていたのです。
私は自分が「哀れな籠の鳥」であることに、気づかない振りをしながら。




