9.氷の散る駅
セルジオとマリア皇女殿下との婚約が決まったという知らせが、私の元にも届きました。
「マリア殿下は本当に素晴らしい方です。
セルジオ様の実母が……あのような狂人でなければ、何の問題もないのですが」
部屋の外から、使用人たちのひそひそ話が聞こえてきました。
「ええ、公爵家としても、あの女の存在が婚約の足かせになることを懸念されているようです。
近々、何かしらの処置があるという噂ですよ……」
処置?
私をどうする気?
私は不安になり、その日、久しぶりに部屋を抜け出しました。
街へ行く列車に乗れば、また誰かが私を「氷の薔薇」と呼んでくれるかもしれない。
そんな現実逃避の思いに駆られ、私はかつてレックスと出会った、あの駅へと向かったのです。
冬の風が吹き抜ける、うらぶれた駅のホーム。
私がベンチに座っていると、周囲の空気が、一瞬で凍りつくような殺気に満ちていくのを感じました。
「……え?」
気がつくと、私の周囲を、黒い外套を纏った男たちが取り囲んでいました。
その目の冷たさは、アレクやセルジオの持つ、あの「ヴァレンティ公爵家」の冷徹さそのものでした。
「公爵夫人……いえ、アンナ様。お迎えに上がりました」
「な、何よあなたたち……嫌よ、来ないで!」
立ち上がろうとした瞬間、背後から強く押されました。
視界が大きく歪み、私の体は、プラットホームの端から、線路へと転落していきました。
ゴォォォォォォ……!!!
地響きを立てて、激しい蒸気と共に向かってくる鉄の塊。
ヘッドライトの光が、私の視界を真っ白に染め上げます。
「あ……あぁ……」
その瞬間、私はすべてを理解しました。
私は、排除されるのだ。
完璧で美しいヴァレンティ公爵家に、私という「狂った道化」は、もう一滴たりとも必要ない。
アレクも、キティも……そして、私が愛したセルジオすらも、私の死を望んだのだ。
「私は……氷の、薔薇……」
激しい衝撃が私を襲い、私の意識は、粉々に砕け散る氷のように、暗闇へと消えていきました。
私は世界一美しくて、みんなに愛される公爵夫人になるはずだったのに。
こんなはずじゃなかった。こんなはずじゃなかったのに――!!!




