7.鳥籠の道化は、優しい嘘に飼われる(前)
公爵邸の門を叩いた私を待っていたのは、怒号でも涙の再会でもありませんでした。
ただの、徹底的な「無」でした。
「アンナ。君のしでかした醜聞は、我がヴァレンティ公爵家にとって致命的な汚点だ」
冷徹な書斎で、夫であったアレクは、書類から目を離さずに淡々と言いました。
彼は私を責めることすらしませんでした。
ただの「処理すべき不具合」として私を見ているのです。
「実家との兼ね合いもある。
君を処刑したり、放逐したりすれば、余計な噂が立つ。
よって、君は本日より、この邸の最奥にある離れの部屋で病気療養してもらう」
「な、何よそれ!私はこの家の夫人よ!
そんな鳥籠の中に閉じ込める気!?」
私が叫んでも、アレクは呼び鈴を鳴らすだけでした。
現れたのは、キティでした。
「アンナ様、お部屋へご案内いたしますわ」
彼女の顔には、かつてのような優しい微笑みはありませんでした。
あるのは、完璧な貴婦人としての、冷ややかな慈悲の表情。
私が連れ帰った、レックスとの間に生まれた娘——アニーは、すぐに私の手から引き離されました。
私は育児どころではない精神状態でしたし、そもそもレックスの裏切りの証であるその子を、育てる気にもなれませんでした。
「アニーは、私が責任を持って育てます。公爵家の名に恥じぬ、完璧な貴婦人としてね。
アンナ様は、どうぞお部屋で心穏やかにお休みください」
キティはアニーを抱きかかえ、私に背を向けました。
後で知ったことですが、アレクとキティは、私がいない間、すでに実質的な夫婦として機能していたのです。
社交界もそれを容認していました。
私は、生きながらにして、自分の居場所を完全に奪われたのです。




