2.私の世界は薔薇色に満ちている(中)
公爵邸の美しく整えられた薔薇園。
その一角にあるガゼボで、私は大好きな「お姉さま」とお茶会を楽しんでいました。
「お姉さま、このスコーン、とっても美味しいわ!
やっぱりお姉さまが選ぶお菓子に間違いはないわね」
「ふふ、アンナ様にそう言っていただけて光栄だわ。お口に合ってよかった」
上品に微笑みながら紅茶を淹れてくれるのは、キティ。
二十歳になる彼女は、私とは違って地味なドレスを纏い、柔らかな金髪を簡単にまとめており、控えめでありながらも洗練された大人の気品のある女性でした。
実は、社交界の誰もが知っている公然の秘密がありました。
キティはアレクの「愛人」だったのです。
けれど、自己中心的な私の世界に、そんな不都合な真実は存在しませんでした。
私にとってキティは、ただの「私を優しくお世話してくれる、物知りで行儀の良いお姉さま」でしかありませんでした。
私より身分が下で、私を引き立てるための都合の良い存在。
「ねえ聞いて、お姉さま。昨日の観劇の時、侯爵夫人が私のイヤリングを見て、悔しそうに顔を歪ませたのよ。
私、あの方のあの顔を見るのが最高に好きなの!」
「まあ、アンナ様ったら、いたずらっ子が過ぎますわ。
でも、それだけアンナ様が魅力的だということでしょうね」
「ふふっ、そう?
そういえばね、今日のアレクったら、私のドレスを見て見惚れてしまって、言葉を失っていたのよ!」
「まあ、それは素敵なことですわね。
公爵閣下も、アンナ様のような美しい奥方を持てて、さぞお幸せでしょう」
「そうなの! 私がいなければ、あの人は退屈な軍務だけで干からびてしまうわ。
ねえ、お姉さまもそう思うでしょう?」
「ええ、本当に。
アンナ様は、ヴァレンティ家の輝かしい真紅の薔薇ですわ」
「ふふ、お姉さまにそう言われると、本当に良い気分!
私、世界で一番幸せ者だわ。
アレクという最高の夫がいて、みんなに愛されて、お姉さまみたいに優しい人がそばにいてくれるんですもの」
キティは、ただ静かに微笑んでいました。
その微笑みが、哀れみの混じった「道化を見る目」であることなど、私は微塵も疑いませんでした。
私はただ、自分の話を楽しそうに聞いてくれて、私の自己愛を満たしてくれる彼女との時間が大好きだったのです。




