第5話隆の東大進学
前橋高校への進学は果たしたものの、根岸隆の心はどこか満たされていなかった。漠然と「どうせこのまま高校を出て働くのだろう」と考えていた彼は、勉強にもさほど熱が入らず、高校一年生の時の成績は学年で10番程度だった。それは、彼の才能を考えれば、決して満足できるものではなかった。
しかし、彼の人生を決定的に変える出会いが訪れた。高校二年生になったある日、前橋高校から東京大学に進学した一人の先輩が、母校を訪ねてくれたのだ。その先輩は、当時の隆が抱えていた最も大きな悩みに、光を当ててくれた。
「おい、根岸。東大に来れば、親からの仕送りが一切なくても、家庭教師のアルバイトだけで学費も生活費も全部賄えるぞ!家が貧乏だって、そんなの関係ない。東大生には、それだけの価値があるんだ」
その言葉は、貧困という名の鎖に縛られていた隆の心を、一瞬にして解放した。彼の目から鱗が落ちた。これまで、いくら勉強しても、その先に明るい未来があるとは信じられなかった。しかし、東大という場所は、自分の努力が報われる確かな道であることを、先輩の言葉は教えてくれた。
この日から、隆の人生は一変した。彼は俄然やる気を出し、猛烈な勢いで勉強に打ち込み始めた。その結果、すぐに学年でトップに躍り出ると、そのまま独走状態で首位を維持し続けた。彼の才能は、目標を見つけたことで、まるで堰を切ったように溢れ出した。
そして、その東大受験を共に目指したのが、後に富士電機病院院長となる田中亮だった。田中もまた、隆と同じく優秀な学生であり、二人はお互いに切磋琢磨し、深い友情を育んでいった。高校卒業後も、二人の絆は途切れることなく続き、彼らは生涯の親友となった。
隆の東大進学は、単なる学歴の獲得ではなかった。それは、貧困の連鎖を断ち切り、自らの力で未来を切り拓くための、最初の一歩だった。彼は、自身の才能を、世の中の不条理に立ち向かうための武器として磨き上げることを決意した。そして、その決意こそが、後の「神田弁護士物語」の偉大なる序章となったのである。




