第24話 剣術講義後(ガルド)
訓練が終わり、剣を拭きながら、
ガルドは自分の手元を見ていた。
短く刈った黒髪が汗で立って、額がむず痒い。
不機嫌そうに見えるのは分かっているが、直す気はない。
剣先は、自然と胸の正面に戻っていた。
正中線。
教官の言葉を思い出すまでもない。
身体が先に、そう動く。
――残るのは、型だ。
剣術講義でやったのは、ただ一つの動きだった。
受けて、流して、戻す。
半歩で止める。
派手さはない。
だが、前線でいちばん薄くなる場所を、正面から塞ぐ型だ。
前線では、装備が揃わない。
盾は薄く、煙は切れ、魔術は不発になる。
守りは壁じゃない。
重なっている間だけ、死なない。
だから、受けたあとに剣先が外に残ると、そこが薄くなる。
隣との間に穴ができる。
矢は、人を狙って飛んでこない。
薄い場所に入ってくる。
講義で言われた「半歩で止める」は、
剣の上手さの話じゃない。
守りが重なっている位置で止まれ。
そう言われているのだ。
ガルドは、それを身体で知っていた。
だから前に出ない。
出るより、戻る。
戻って、隣との間を埋める。
自分が動かないことで、列は崩れにくくなる。
列が崩れにくければ、誰かが前に出なくて済む。
剣を鞘に収め、顔を上げる。
目尻に汗が溜まる。拭わない。
鋭く見える目で、相手を刺すんじゃなく、距離と隙間だけを測る。
少し離れたところに、エルネストがいる。
あいつは、講義の間も前に出る癖が抜けていなかった。
戻れる。だが、止まり切らない。
前線では、それが要った。
誰かが前に出て、崩れるまでの数秒を買わなければならなかった。
だが、ここは違う。
ここでは、
前に出なくて済む形を作れるかどうかが見られている。
ガルドは思う。
エルネストが前に出なくていい瞬間を、
一つでも増やしたい。
だから揃える。
だから戻る。
だから止める。
講義で教えられたのは、新しい剣じゃない。
前線で生き残った動きを、
他人と共有できる形にする方法だった。
それを受け入れるかどうか。
そこが、ここで試されている。




