憂さ晴らしとアルバイト
猛暑な残暑に耐えながらの通勤に体力を奪われながらも
少しずつですが執筆しています。
もっと早く書けたらいいんだけど…。
☆☆☆
九識インダストリーのラボの休憩室。
渡辺安綱は不機嫌だった。
自分で言うのも何だけど。
最近ずっとイライラしている。
帯刀している二刀も同様にイラついている様で、ブツブツ文句を垂れ流している。
それが拍車をかけて私をイラつかせる。
学園の教室で、昇級試験のパーティが決まって浮かれている天満の顔を見て、さらにイラつきが加速して溜まりに溜まったフラストレーションが爆発しそうで、九識のラボに逃げて来たのだが…。
「あぁ、なんかぶった斬りたい」
「安綱…突然、恐ろしい事呟くわね」
目の前でコーヒーを啜っていた九識瑞穂が、驚いてコーヒーを吹き出しそうになる。
「もう直ぐ昇級試験なんだから、我慢なさいな」
白衣にコーヒーをこぼしてないかチェックしながら、子どもを諭すように言う。
「嗚呼、無理! このラボにある試作品を全部切り倒してもまだ足りない! 」
「足りないなら、尚更マジお願い…やめて!」
私も試験受けるんだから! と試作品のロボットの前で私から庇うように両手を広げる。
「くっ、やっぱり学校に戻って、天満でもぶった斬ってやろうかしら? 」
カチカチと腰の刀を鍔鳴りさせながら呟く。
「お願いだから、やめてあげて! 天満くんも試験のパーティ決まったばかりなんでしょ?」
「ヤバい、うぅ我慢できない、今夜辺りエボ帰りのランカー相手に辻斬りとかやってしまいそう」
自我が保てなくなりそうな破壊衝動に耐える。
「安綱、完全にギフトの索冥に引っ張られてんじゃん」
強大なギフトを得たステアーズに有りがちな症状だ。
「やっぱり、そうなのかな? また、ツノを一本切っておいた方が良いかな? 嫌ぁ~私フォックスの赤い狐みたいになりたくない」
交戦的な赤い色の九尾のランカーを思い浮かべたら、突然スマホが振るえる。
「うっ、ねぇ様から電話? 」
バイブ機能で唸るスマホを思わずテーブルに投げ出して距離を取る。
「お姉さん? って…出ないの?」
「で…でるわよ」
躊躇いながら、スマホを手に取る。
『ちょっと! 出るの遅くない安綱ぁ、取り込み中だった?』
久しぶりに聞く、姉、あつるの声。
「何? なんの用?」
『うお! 久しぶりのお姉ちゃんからの電話なのに、冷たくない?』
「あぁ、用がないなら切るわよ」
『用があるからかけたのよ! 安綱ぁ、ちょっと仕事手伝いなさいな 試験まで少し時間有るでしょう?』
「はぁ、なんで私が…」
『そろそろ、溜まってんじゃないかと思ってね、場所と時間は送っとくから』
そう一方的に伝えると、、通話が切れてしまった。
「なによ…溜まってるとか…人を欲求不満みたいに…」
すべて見透かしたようなタイミングで先回りしてくるやり方が実に姉らしい。
「お姉さん、居たんだね安綱」
「ん? あぁ、三人兄妹だったけど兄は亡くなってるから、今は姉あつると私の二人姉妹だね」
「あぁ、お兄さん亡くなってたんだ…なんか、ごめん…で、 お姉さんはなんて? 」
瑞稀は、兄について触れてしまったのを申し訳なさそうに呟く。
「なんか、仕事手伝えって」
「安綱に仕事のお手伝いをお願いするって事は、お姉さんのお仕事も荒事系なの? 良かったじゃん」
さっきまで申し訳なさそうにしてたくせに、瑞稀はニヤニヤしながら言ってくる。
「警視庁警備部 特殊警備二課の小隊長してるよ」
「おお!特殊二課って!《鬼斬り》じゃん、あぁ、そうか鬼と言ったら渡辺だもんね」
鬼斬り渡辺としての荒事を生業にしていても、立派な国家公務員なのだ。
警備部特殊警備部二課 特務強襲部隊。
通称《鬼切り》。
明治政府の時代より、鬼、妖専門の特務機関。
居るはずが無い《鬼》や《妖》の存在を市民に知られること無く、それらを殲滅する事を使命にしてきた政府機関で立派な国家公務員だ。
一般人がまず知ることのない存在なのだが、エボでは割と有名な機関で、エボからもランカーが度々任務に駆り出されることも少なくない。
エボが島に降り立ってから、世界中で顕著に鬼や妖の出現率が爆上がりしているのが理由で、私の兄もそんな激務の中、殉職している。
現場の人手不足は深刻で最近ではエボのステアーズ・ギルドに正式に依頼して任務に当たっているようだ。
鬼や妖の増加の原因がエボなのに、そのエボの調査に人を割かない政府のやり方に当時から疑問を感じている。
おまけに、低階層で倒したガーディアンをリサイクルするスカベンジャーと呼ばれるステアーズの賃金の高さに比べて、上階層で生体系のガーディアンを狩る旨味が無いのが問題ともされている。
私がエボを目指したのも、そこにあるのだ。
《鬼切り》なんて馬鹿げた職業をなくす為、その根源を経たない政府機関や渡辺のやり方には辟易している。
私と違って姉は亡くなった兄の意思を継いで、特別強襲部隊に入隊して、こうして機会がある度に私を助っ人として現場に駆り出すのだ。
渡辺は渡辺の仕事をしろと…。
あなたも入隊しなさい…と、無言のプレッシャーをかけてくるのだが、私は入隊する気は無い。
エボで鬼を斬りまくって、忌々しい妖刀との契約を破棄してやる。
必ず私の代で渡辺の《鬼斬り》家業を廃業させるつもりでエボまで来たのだから…。
何処に鬼や妖が出たとしても、もう我々だけが戦った時代は終わってるのだ。
その辺の事情を裏社会を牛耳ってるお偉いさんたちにも理解してもらいたいものだ。
ステアーズには《渡辺》以上の化け物がゴロゴロいるのだから…。
私らだけに頼らず、依頼すればいいのだ。
やりたい人が、相応の報酬を貰いやったらいい。
死んだ兄のように、無理やり《血筋》に《使命》や《任務》を押し付けて戦わせるから、殉職者が後を絶たない。
「試験前の最終調整には丁度よかったじゃない」
八つ当たりで大事な試作品をガラクタにされずに済んだ瑞穂
「そうだね、サクッと本土で暴れてくるよ」
憂さ晴らしで天満を斬らなくても良いぐらいは発散してこないとね。
⭐︎⭐︎⭐︎
進化島 北港
「渡辺安綱様、本土では許可なしでのギフトの使用は禁止されていますので、くれぐれもお気をつけください」
北港の出島カウンターの受付嬢にどうやら顔バレしているようで、名指しで注意を受ける。
「わかってるわよ、無断使用したらライセンス剥奪なんでしょ? 」
「はい、あと刀の封印ですが任務開始までは解かないようにお願いします」
赤い和紙で鞘と鍔が縛られ、抜刀できなくなっている二本を手渡される。
「封印解いたら、銃刀法違反に罰金でしょ! わかってるって」
苛立ちを抑えながら、乱暴に乗船チケットと刀を受け取り、出航ゲートに向かう。
約半年ぶりの本土だ。
乗り合いロビーから外に出て、高速船乗り場から背後で巨大な影を落としている巨塔を見上げる。
深呼吸して、ゆっくりと吸い込んだ海風を吐き出す。
溜め込んだ力を自分の意思で爆発させる為には、この衝動を抑え込むしかない。
「まだだ…」
この衝動をコントロールできれば、私はもっと強くなれる。
そう信じて、私は港に着岸した高速船に乗り込んだ。
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