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茜とアリス

すこし短いですがアップします。

物語のテンポで少し期待感が高まればいいのですが…。

 病室の空気が、一瞬で凍りついた。

 

「ねぇ! アイツを捕まえて! 私の能力《ちから》をアイツに奪われたの!」

 ベッドの上で、赤星茜は泣き腫らした目のまま叫ぶ。

 

 シーツを握り締める指が震えていた。

 

 あの赤星茜が――

 取り乱している。

 

 私は、思わず言葉を失った。

 

「茜」

 低い声で帝が制する。

 

「まず落ち着け。何を奪われた?」

 その一言で、茜もようやく呼吸を整える。

 

 乱れた息を何度か吐いてから――

 

「……《各端(かくたん)》じゃない」

 

 その言葉に。

 

 部屋の空気が、わずかに変わった。

 

 帝の目が細まり。

 ノーマンが静かに腕を組み。

 シャオロンが眉を上げる。

 

「フロア39で戦った階層主……覚えてるでしょ?」

 茜は、自嘲するように笑う。

 

「《金色金剛阿修羅》」

 

 

 ――私は息を呑む。

 

 三十九階層。

 人類未踏目前。

 

 そこで赤星茜が一時的に獲得した、“神話級”の変身能力。

 金色金剛阿修羅。

 

 六本腕。

 超再生。

 莫大な闘気。

 

 当時、“人類最強形態”とまで噂された異形。

 

 

「奪われたのは、そっちよ」

 

 

 数秒。

 

 誰も言葉を発しなかった。

 

 そして――

 「……はぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 最初に大きく息を吐いたのはシャオロンだった。

「よかったぁ……」

 

「センセ?」

 

「いや、お前ら分かってねぇだろ。黒麒麟《各端》まで奪われてたら、マジで国家崩壊レベルだぞ」

 

「縁起でもないこと言うな」

 帝が低く返す。

 

 だが。

 

 その表情には、確かに安堵があった。

 

 ノーマンも肩の力を抜く。

 

「なるほどな……。だから、あの黒いスライム野郎、逃げ出す直前から妙にフィジカル寄りだったのか」

 

「阿修羅形態の身体能力に引っ張られてたんでしょうね」

 サラも静かに分析する。

 

 私は、胸を撫で下ろした。

 

 正直に言えば――怖かった。

 

 もし赤星茜の本来のギフトまで奪われていたら。

 あの男は、もっと化け物になっていた。

 

 

「……それと」

 

 茜が、ゆっくりこちらを見る。

 真っ赤に泣き腫らした目。

 

 けれどその瞳は、真っ直ぐだった。

 

「選手控室で、助けに入ってくれたの……分かってた」

 

 私は目を瞬かせる。

 

「意識、半分飛んでたけど……覚えてる」

 茜は、深く頭を下げた。

 

 

「ありがとう」

 

 

 病室が静まり返る。

 

 

「それと――」

 

 

 さらに頭を下げる。

「疑われて、連行までされたのに……ごめんなさい」

 

 

 その言葉に、私は慌てて手を振った。

「ちょ、ちょっと! やめてよ! 別にアンタのせいじゃないし!」

 

「でも――」

 

「それに、あの状況なら普通疑うでしょ」

 

 

 そう。

 

 あの場にいた。

 最後まであの男に接触していた。

 

 しかも、私は軍属。

 おそろいの学制服。

 

 疑われる理由なんて、いくらでもある。

 

「……でも」

 

 茜は小さく笑う。

 

「助けに来てくれたの、嬉しかった」

 

 ――不意打ちだった。

 

 

 胸の奥が、少し熱くなる。

 

 

「……そ」

 なんとか、それだけ返す。

 

 

 すると。

 

 

 茜の視線が、ふとシャオロンへ向いた。

 

 

「……雷公?」

 

 

 シャオロンが肩を竦める。

「その呼び方、久々に聞いたな」

 

 

「あなた、まだ現役だったのね」

「講師やってるだけだよ。しがない非正規だ」

 

 

「引退するって言ってたくせに…嘘つき」

 

 茜は笑う。

 

 そして――

 

 

「アリス」

 真っ直ぐ、私を見る。

 

 

「あなた、オーバー40プロジェクトに参加しなさい」

 

 

「……は?」

 

 

 突然すぎて、変な声が出た。

 

 

「もちろん、参加条件を満たしてからね」

 

 

 帝が即座に眉を吊り上げる。

「おい茜。勝手に決めるな」

 

 

「だって必要でしょ」

 茜は真顔だった。

 

 

「私を襲った連中、多分ロシア勢力よね?」

 

 

 病室の空気が、また変わる。

「必ずまた動く」

 静かな声音。

 

 だが、その奥には怒りがあった。

 

 

「だから――リベンジしましょう」

 

「……」

 帝が深く息を吐く。

 

 

「ああ、炎帝《エンプレス》と竜巻が事故に巻き込まれたのも、そういやロシア絡みだったか?」

 ノーマンが呟く。

 

 

「おい、ノーマン」

 帝が鋭く睨む。

 

「もう少し言葉を選べ」

 そのやり取りに、奈美だけが完全についていけていない顔をしていた。

「えっと……どういう話なんですか?」

 

 

 私は、小さく息を吐く。

 「……フロア34」

 

 

 全員の視線が集まる。

 

 

「フロアボス戦の直前、ロシアチームでギフトの暴走事故があったの」

 

 

 奈美が息を呑む。

「その暴走に巻き込まれた炎帝と竜巻――私の両親は、暴走を止めるために残った」

 

 

「チームメイトを、安全圏のフロア35へ逃がすために」

 

 

 静かに。

 

 淡々と。

 

 でも、その記憶は今でも鮮明だった。

 

 

「二人はそのまま、帰ってこなかった」

 

 

 病室に沈黙が落ちる。

 

 

「当時は騒がれたわ。最高到達点を競ってたロシアが、アメリカチームのアタックを妨害したんじゃないかって」

 

 

「証拠は出なかったがな」

 

 帝が低く付け加える。

 

 

 だが。

 

 今回の襲撃。

 

 ロシア人。

 

 ギフト強奪。

 

 そして――オーバー40プロジェクト。

 

 

 偶然で片付けるには、出来すぎていた。

 

 

「……なら、なおさらだ」

 

 

 私は、ゆっくりと顔を上げる。

 

 

「私、条件を満たしてみせる」

 

 

 茜が、少し驚いた顔をする。

 

 

「プロジェクト40に参加できるステアーズに、絶対なる」

 

 

 頭に浮かぶ。

 

 安綱。

 

 ニヤ。

 

 天満。

 

 

 あの三人と一緒に、塔を登る。

 

 

 もっと上へ。

 

 誰も辿り着いていない場所へ。

 

 

 そして――

 

 私は茜へ手を差し出す。

 

 

「そのリベンジ、乗ったわ」

 

 

 一瞬。

 

 茜は目を丸くして。

 

 

 それから、強く笑った。

 

 

「……ええ」

 

 

 握手。

 その瞬間。

 

 胸の奥で、何かが燃え上がる。

 

 

 私は、強くなる。

 

 

 あの黒いスライム男にも負けないくらいに。

 誰にも奪えないくらいに。

 

 

 ――必ず。


読んでくださってありがとうございます。続きが気になった方はブックマーク、広告の下の☆☆☆☆☆から応援していただければ励みになりますので、よろしくお願いします。


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