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師匠と弟子 2

この作品を見つけてくれてありがとうございます。

楽しんでいただけたら幸いです。

 アメリカ政府公認ステアーズチーム《クライマーズ》本部棟。

 

 無機質な白い廊下。

 床は磨き上げられ、靴音がやけに響く。

 

 私は、その一室で――

 

「サラ……まだあるの? これ」

 タブレットを睨みつけた。

 

 画面には、びっしりと並ぶ英文の条項。

 

 国家機密保持契約。

 機密情報漏洩時の刑事責任。

 越境適用条項。

 軍事機密準拠条項――

 

「アリス、全部読めとは言ってないわ。重要箇所はマークしてあるでしょ」

 淡々とした声で言うのは、サラ・マイヤー弁護士。

 

 その手元にも同じタブレット。

 だが、処理速度が段違いだ。

 

「いや、読むだろ普通……」

 隣でぼやくのはシャオロン。

 すでに十数枚はサインしたらしく、若干うんざりした顔をしている。

「センセー、まだ半分も終わってませんよ」

 少し離れた席で、もう一人の少女が苦笑する。

 

 ――波際奈美。

 

 私のクラスメイトで、水系ギフトの使い手。

 彼女も同様に、タブレットと格闘中だった。

「先生の弟子になることと、このサイン……関係あるのでしょうか?」

  奈美は首を傾げながら、律儀に一つ一つ確認している。

「あるのよ」

 

 即答したのは、サラだった。

「シャオロンは中国籍。しかも軍事レベルのギフト保持者。講師の枠を超えて、あなたたちに直接指導するとなれば、“教育”ではなく“軍事的技能供与”と見なされる可能性がある」

 

 画面を指で弾きながら、続ける。

「だから、ここで線を引くの。責任の所在、情報の帰属、指導内容の制限――全部ね」

「面倒くせぇな……」

 シャオロンは頭を掻きながら、次のページへと進む。

「香港政府、中国本土、そしてアメリカ。三方向から監視される形になります」

 

 さらりと、とんでもないことを言う。

 

「機密漏洩と判断された場合、最悪――国家反逆罪。国外でも適用されます」

 

「はいはい、怖い怖い」

 軽口を叩きながらも、シャオロンの指は止まらない。

 

 だが、その目はわずかに細められていた。

 

 ――本気で理解している顔だ。


「ここはな、訓練にうってつけの場所なんだよ」

 指でテーブルを軽く叩く。

「外部の目は完全にシャットアウト。実験設備も揃ってる。多少派手にやっても問題なし」

「……なるほど」


「まぁ、“安全に壊せる場所”ってことだな」


 私はその様子を横目に見ながら、タブレットを閉じた。

「終わり」


「早いわね」

「読む必要ないでしょ。どうせサインするしかないんだから」


 サラは一瞬だけ私を見る。

 その視線には、わずかな“評価”が混じっていた。

 「合理的ね。嫌いじゃないわ」

 

「それにしても、センセ、私以外に弟子を取ってるって聞いてなかったんですけど?」

 私はわざとらしく奈美の方を見る。

「ふふふ、お弟子二号お世話になります」

 奈美は立ち上がり、丁寧に頭を下げた。

  

「奈美も物好きよね、こんな怪しい中年の弟子になろうなんて」」

「アリスさんも弟子になったって聞いて、決めました!」

「怪しい初老のオジサンじゃん、若い女子高生二人も弟子にとって何やらかすつもりか分らないわよ」 

 

「お前なぁ……」

 

 シャオロンが呆れたように口を挟む。

「そういうのは、俺の居ないところで言ってくれ」」


 小さく鼻を鳴らす。

 

「……で、終わったなら行くぞ」

 

 シャオロンは立ち上がる。

 

「どこに?」

 

 一瞬、言葉を選ぶような間。

 

「オリビアとエールに、挨拶させてくれ」

 

 

 空気が、わずかに変わった。

 

 

 私は目を閉じる。

 

 そして――

 

 ゆっくりと、頷いた。

 

「……ええ」

 

 

   ☆☆☆

 

 

 本部棟を出ると、空気が変わる。

 

 人工的な白から、現実の空へ。

 

 

 訓練棟。

 実験棟。

 

 どれも巨大で、無機質で――

 

 どこか“人間を測るための箱”のように見える。

 

 

 その脇を抜け、小高い丘へ。

 

 

 風が、少し強い。

 

 

 広がるのは――墓地。

 

 

 整然と並ぶ墓石と、綺麗に手入れされた芝生。

 

 その中で、ひときわ大きな二つ。

 

 

 私は、自然と足を止めた。

 

 

 シャオロンが、静かに前へ出る。

 

 

 そして――

 

 手を合わせた。

「……約束を果たしに来たぜ」

 

 

 低く、静かな声。

 

 

 奈美も、しゃがんで隣でそっと手を合わせてから、私を見上げる。

「お二人の名前にリデルって、このお墓って…アリスさんのご両親…」

 

 

 私は――

 

 一瞬だけ、迷ってから。

 「そうよ…」

 

 そう答えて、同じように、目を閉じた。

 

  

 

   ☆☆☆

 

 

 墓参りを終え、丘を下りる。

 「じゃあ、軽く始めるか――」

 

 シャオロンが言いかけた、その時。

 

 

 ――着信音。

  サラの端末だ。

 

 

「……はい、サラ・マイヤーです」

 

 表情が、変わる。

 「……ええ」 

 一拍。

 「はい、今から向かいます」

 

 

 通話を切る。

 

 

「どうしたの?」

 サラは私を見る。

 

 

「赤星茜さんが、意識を取り戻したそうよ」

 

 ――心臓が、跳ねた。 


「あなたに、どうしても礼が言いたいって」

 言葉が、出ない。

 あの戦い。

 

 あの相手。

 “助けた”という実感は、正直ない。

 

「……行く」

 短く答える。

 

 

「車を回すわ。すぐ出ましょう」

 

 

   ☆☆☆

 

 

 黒塗りの車が、静かに走る。

 運転席にサラ。

 助手席にシャオロン。

 

 後部座席に、私と奈美。 

 窓の外を、街が流れていく。

「……ねぇ、アリスさん」

 奈美が、小さな声で話しかけてくる。

「赤星さんって……どんな人なんですか?」

 少しだけ、考える。

 「……強いわよ」

 それだけじゃ、足りない。

 「あと――」

 

 

 言葉を探す。

「……ちゃんと、“人間”してる」

 

 

 奈美は、きょとんとした顔をした。

 

 あれほどの強大なギフトを得て、その力に飲まれる事なく。

 人で有り続ける強さを持っている。


 父に恋い焦がれ、異母弟に嫉妬し、そして観客を魅了する。

 まさに、人間そのものだ…。

 

 車はやがて、大きな建物の前で減速する。

 

 

 ――アーカード総合病院。

 

 自動ドアが開く。

 

冷たい空気。

 

 消毒液の匂い。

 総合受付のカウンターの前で、一人の少年が鋭い眼光でこちらを見つめていた。


 赤星帝。


 彼は無言で顎で付いてこいと示す。


 受付カウンターを抜けて、VIP専用エレベーターに乗り込み最上階に上がる。

「今回の件、すまなかった…そして、我が娘を救ってくれて感謝する」

 エレベーターの中で、深々と頭を下げる帝。


「子供の姿で、頭下げないでよ…私が悪い人みたいじゃない」

「だから、エレベーターの中で頭下げてんだろ! 察しろよ」

 シャオロンは頭を下げたままの帝に合わせるように、私の頭を鷲掴みにして頭を下げる。

 エレベーターは最上階で止まり、長い廊下を行くと豪華な木製の扉の前にノーマン・ガーランドの姿があった。

 ノーマンは無言で頭を下げると、私をエスコートするように入室を促す。

 

入室すると、ベットの上で号泣している赤星茜がいた。


 そして、彼女は私の顔を見るなり、叫んだ。


「ねぇ! アイツを捕まえて! 私の能力ちからをアイツに奪われたの!」

 

 


 



この作品を見つけてくれてありがとうございます。

そして、読んでくださってありがとうございます。

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