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弟子と師匠

この作品を見つけてくれてありがとうございます。

楽しんでいただけたら幸いです。


  アリス・リデルは、アメリカ合衆国DARPA(国防高等研究計画局)で生み出された生体兵器だ。


 表向きは、アメリカ政府公認のステアーズチーム《アイアン・ゲート》所属のステアーズ。


 ――だが実際は軍属。階級は、十六歳にして少尉。


 基地では、“ステイツの秘密兵器”なんて呼ばれている……この私が。


「なんで、私が弟子なんですか?」


 


 授業を終え、教室を出ていく冴えない白髪頭の中年講師――その背中に声をかける。


 


「教師と生徒じゃ、ダメなわけ?」


 問いを無視したまま廊下を歩き続けていたシャオロンは、怪訝そうな表情で振り返った。


 


「お前なあ。俺は非正規雇用の講師で、正確には教師じゃない」


 


「で? なんで私が弟子なの?」


 食い下がる私に、シャオロンは小さくため息をつく。


「炎帝からの頼みだったから……な。炎帝のお願いだぞ? 普通、断れないだろ」


 そう言い残し、再び背を向けて歩き出す。


 


「はっ? ちょっと待って! センセ、ママと知り合いなの?」


 


 シャオロンは足を止めることなく、廊下を進む。


「お前の両親の“最後”の塔登の時、アメリカのチームに成り行きで加わることがあってな」


「なにそれ? 聞いてないんだけど!」


「だから今、話してるだろ」


「いいから、詳しく教えてよ!」


 


「せっかちだな、お前は!」


「そ・う・よ!」


 私はシャオロンの腕を掴み、ちょうど通りかかった、学園内の学生用カフェへ。


 


「おい、話なら放課後でもいいだろ!?」


 無理やり席に座らされたシャオロンが、不機嫌そうに見上げる。


 


「お昼、奢ってあげるから。――話しなさい」


 店員を呼び、ランチセットを二つ注文する。


「俺、弁当持ってきてるんだけど……」


 

「晩ごはんにすればよし」


「よし…って…」


 


 


   ☆☆☆


 


 ランチが運ばれてきて、ようやくシャオロンが口を開いた。


「塔が開放されて間もない頃、俺は中華圏選抜六機の一人に選ばれて、塔上層の調査を行っていた」


「選抜六機って……超エリートじゃん!」


 中国国籍の功夫の達人を集めた、純然たる肉体派チーム。


 当時は、アメリカ、日本、ヨーロッパ各国、そして中国――


 各国が国のプライドと沽券を賭けて、競うように塔の上層を目指していた。


 


「確か……十年くらい前に、最高三十七階到達記録を作ったチームよね」


 


 ――でも。


 


 その後、そのチームの名前を聞くことはなくなった。


 


「俺は第一期メンバーだったんだがな。三度目の最高到達層を目指したアタック中……二十四階層で、俺以外のメンバーは全員戦死した」


 


 その言葉に、胸が詰まる。


 


「一人、途方に暮れてた俺を救ってくれたのが――お前の両親のチームだった」


 


 死んだ仲間を思い出したのか、シャオロンの表情に、微かな哀愁が差した。


 


「でも、なんで二十四階層なんかで全滅してるのよ!?」


 


 三十七階層到達の記録を持つチームが、獣人層で全滅――


 到底、信じられない。


 


「ああ……当時、驕りがあったのも事実だ」


 


 シャオロンは静かに言葉を継ぐ。


 


「だが俺たちが遭遇したのは、二十四階層のノートリアス・モンスター――」


 


氷雷虎族ひょうらいこぞくの凍裂の覇牙《ゼル=ブリザード》だ」


 


 


 ――その名前。


 


 知っている。


 


 氷と雷を操り、爪と牙による近接戦闘を得意とする虎族の王。


「雷が効かない……最悪だろ?」


「しかも俺以外の五人は全員アタッカー。回復薬が尽きた時点で、引くべきだった」


 


 一瞬の判断ミスで、パーティーは全滅する。


 


 理屈では、理解している。


 


 だが――


 


 強敵を前にしたとき、冷静な判断と統率を維持する難しさも、私は知っている。


 十階層の獣界門で、安綱が裏返り暴走したときも――


 


 フォックスにナインでさえ、たった一人の安綱に翻弄されたのは、記憶に新しい。



 あのとき――


 たった一人の暴走で、連携は崩れ、戦線は瓦解した。


 


 強さだけじゃ、塔は登れない。


 


 その現実が、胸の奥に重く沈む。


 


「……で?」


 


 私はフォークを置き、シャオロンを睨む。


「そのあと、どうなったのよ」


「どうもこうもないさ」


 シャオロンは肩をすくめ、コーヒーを一口飲む。


 


「お前の親父と母親に拾われてな。そのまま、しばらく一緒に登った」


 


「一緒に……?」


 思わず身を乗り出す。


 

 記録には残っていない話。


 ――つまり、“現場の真実”。


 


「最初はな、正直ついていけなかった」

 ぽつり、とシャオロンが呟く。



「あいつら、強さの質が違った」


「質……?」


 


「技でも、火力でもない。“判断”だ」


 その言葉に、息が止まる。


 


「引くべき時に引く。攻める時に迷わない。誰かが崩れたら、即座にフォローが入る」


 


「当たり前のことを、当たり前にやる」


 シャオロンは苦笑した。


 


「それが、一番難しい」


 ――耳が痛い。


 


 今回の試験。


 私は装備に頼り、無理やり帳尻を合わせた。


 もしあれが、実戦だったら。


 ――死んでいたかもしれない。



「で、センセは何を学んだの?」


 


「さっき言っただろ」


 シャオロンは私をまっすぐ見る。


「“限界を決めてるのは自分だ”ってな」




 ――ギフトの限界。


 


 炎と風。


 


 それが私。

 それ以上でも、それ以下でもない。


 ……本当に?



「お前の母親、オリビアな」

 シャオロンが、不意に口を開く。


 


炎帝エンプレスって呼ばれてたけど――あいつ、自分のこと“炎使い”だなんて一度も言ったことなかったぞ」


 心臓が、ドクンと跳ねた。


「……え?」


「“私は炎そのものだ”って言ってた」


 

 ――あの言葉は…ママの?。


 

 頭の中で、何かが繋がる。



竜巻トルネード――お前の親父エールも同じだ」

 

「風を操る、じゃない。“風である”ってスタンスだった」


 言葉が、出ない。



 それは――

 私が、ずっと“できない”と決めつけていた領域。




「だから言ったろ」


 シャオロンは椅子から立ち上がる。


「お前に足りないのは、“出力”でも“技術”でもない」



 一歩、近づく。


「“認識”だ」


 真っ直ぐに、射抜くような視線。


「お前、自分のこと兵器だと思ってるだろ」


 

 ――ギクリとした。


 


「……別に」


「クククッ、図星だな」

 否定できない。


 DARPA。


 実験体。


 少尉。


 秘密兵器。


 

 全部、事実だ。


「兵器はな、“決められた使い方”しかしない」

 シャオロンの声が、静かに響く。


「でも、ステアーズは違う」


 


 一瞬、間を置いて――



「“どう在るか”を、自分で決める存在だ」


 胸の奥が、ざわつく。


「だから、弟子にする」


 逃げ道を塞ぐように、言い切る。


「教師と生徒じゃ、そこまでは踏み込めねぇ」


 ――理解してしまった。


 

 これは、授業じゃない。



 “変えられるかどうか”の話だ。

「……もし、断ったら?」


 試すように聞く。


 シャオロンは一瞬だけ考え――


「別にいい」

 あっさりと答えた。


「そのままでも、お前は強いからな」

  

 少しだけ、口角を上げる。

「ただし」


「三十階層止まりだ」




 ――ピシッ、と。

 何かが、音を立ててヒビ割れた気がした。

 私は、無意識に拳を握る。


 そんな場所で、止まるつもりはない。


「……いいわ」

 私は、ゆっくりと立ち上がる。


「なってあげる。その弟子」

 シャオロンは、満足そうに頷いた。


「まずは、何から始めますか? 師匠」

 シャオロンは鼻を鳴らし。


「簡単だ」

 

 一言。


「まずは、自分を“炎”だと思え」

 


 ――無茶苦茶だ。


 でも。


 なぜか――

 出来る気がした。


「いいわ、何にでもなってあげる」


「言ったな?」

「ええ」


 ただの“任務”だったはずのこの場所が、少しだけ、違って見えた。




「で、その時は何階層まで行けたの?」


「非公式だが38階層、当時の最高到達点さ」

「なんで、パパとママはそのアタックで引退しちゃったわけ?もっと上を目指しても良かったんじゃ…」


 

「あのアタックを最後にしたのは、お前があの時オリビアのお腹に居たからなのさ」


「…私…が?」


「助けてもらった礼を申し出た時に言われたのさ、“お腹の子が生まれたら助けてあげて”ってな」

 ワシャっと、乱暴に頭を撫でられる。


 この人は、知ってるんだ。


 引退を表明した後の、パパとママがどうなったかを…。


この作品を見つけてくれてありがとうございます。

そして、読んでくださってありがとうございます。

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