↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/89

入学セレモニー 其の一

2026.02.28 Episode0に合わせて再編成しました。


 市街地の一角

――公園のように整備された広場へ飛び出した、その瞬間だった。


 中央の噴水を囲むように設置された巨大モニターが一斉に点灯し、爆音のBGMとともに――


そこに映し出されたのは、紛れもなく俺たち自身の姿だった。


「……うわ」



 思わず足を止めそうになる。



 スピーカーから轟く重低音。

 映像は上空のカメラからの俯瞰、横からの追尾、顔のアップ――完全にロックオンされている。


「こんな大音量で中継されたら……居場所、丸わかりじゃねぇーか……」


 追手がどれだけいるのかすら分からない状況で、

 こっちの現在地だけを全世界に公開されるとか――冗談じゃない。


「侵入ゲートを悟られないための高高度降下じゃなかったのかよっ!?」


 思わず毒づく。


 パラシュート降下、死ぬほど練習させられたんですけど!?

 あの教官の鬼のような顔、思い出しただけで腹立ってきたぞ!


 俺たちはすぐに広場を離脱し、再び建物の影へと滑り込む。


 

 後ろには――



 カシャカシャカシャカシャ……



 四足ドローンの大群。




「あははははは!なんかパレードみたい!」


 先頭を走るニヤは、完全に楽しんでいた。


 おい、こっちは命がけなんだが。




『さぁさぁさぁーっ!!ゲートからは大量のガーディアン《ガードボット》が侵入者を追跡していますっ!!』


 スピーカーから、やたらテンションの高い実況。


 その言葉通り、俺たちは市街地を――

 まるで虫の群れに追われる獲物みたいに追い回されていた。


『まずはセキュリティードローンの追従をどうかわすかが問題だ!序盤で捕まると恥ずかしいぞぉー!!』


「捕まるわけないじゃん」


 ニヤが軽く笑う。


「てか、誰?あの人。天満、知ってる?」


「はぁ……はぁ……どうせスタジオ・ステアーズのジェームズだろ……」


息が切れる。


「モニターなんて見てる余裕ねぇって……」


 だがニヤは、まだ余裕の表情のまま、さらにスピードを上げた。


 ――嘘だろ。


 俺の脚、もう限界近いんですけど!?


 ビルとビルの隙間を縫う。

 影を渡るように疾走する。


 背後には――


 無数の四足機械。


 カシャカシャカシャカシャ……


 あの動き。


 ダメだ。


 生理的に無理だ。


 蜘蛛とか、群れる虫とか思い出す。

 金属音が、羽音に聞こえてくる。




「うぇ……」




 振り返ると、ドローンはビルの看板も、シャッターも、植え込みも――


 全部ぶち壊しながら追ってきていた。


 おい。


 これ……損害賠償とか請求されないよな?


 当然、運営持ちだよな?


 頼むぞマジで。


 俺の将来、借金スタートとかシャレにならん。


 逃げながら、心の中で必死に祈る。


 ――市街地は、まるでテーマパークだった。


 スポンサー企業のブース。

 ステアーズ御用達のショップ。

 カフェ、武器店、装備メンテナンス店。


 そのすべての上に設置された巨大モニターに――


 俺たちが映っている。


「天満ぁー!見て見て!」


 ニヤが笑顔で、追尾している飛行ドローンに向かってピースサイン。


「俺たち、映ってるよ!」


「ああ……」


 苦笑する。


「これで世界デビューだな……」


 

 モニターの中では、金髪の司会者が――


 狐耳のアシスタントに、スレッジハンマーで殺されかけていた。


『ご、ごめんなさい!全国放送で公開死刑は勘弁な!?』


『口には気をつけてくださいね?』


「……やっぱりジェームズじゃん」


 思わず呟く。



 あの流れ、完全に様式美だ。

 余計なこと言う → ミサトさんがキレる → 殺されかける。


 スタジオ・ステアーズ名物。


『警備担当ステアーズに捕まることなく塔から脱出し、海上に停泊している進化学園所有フェリーまで生きて戻れればセレモニー終了です!』


 ――生きて戻れれば。


 さらっと恐ろしいこと言ったな、今。



「あ」

 ニヤがぽん、と手を叩く。




「フェリーが北の海岸沖だから、北出口から脱出予定だったんだな!」


「……今思い出したのかよ」


「当然、敵も張ってるよね」


「だろうな」


 俺は後ろを見た。


 迫るドローンの群れ。


「まずは、このガラクタをどうにかしないとな」


「んだな」


 俺たちは開けた広場へ出ると――同時に足を止め、振り返った。


 迫るガードボットの大群。


 俺は腰のシースから、二本のダマスカス製ククリナイフを引き抜く。


 金属の冷たい輝き。


 構える。




 ――その瞬間。


「ごめん天満」




 ニヤが手を差し出した。


「一本貸して。俺、装備ないから」


 ……そういう言い方する?


「……ちゃんと返せよ」


 ナイフを放る。


 ニヤはそれを受け取った瞬間――


 そのまま舞った。


 流線。


 一閃。


 ガンッ――バララッ!!


 四体のドローンが、一瞬で分解した。




「にゃはは」


ニヤが笑いながら加速して投擲したナイフを回収。




「天満よりうまく使ってあげるよ」


 ……おい。


 他人の武器を持ち主より上手く使うな。


 友達なくすぞ。


「すごいねこれ、切れ味」


 片手でくるくる回す。


 余裕の笑顔。


 ――ちょっと自信無くすんだけど。


「……競争だな、ニヤ」


 舌で唇を湿らせる。


 狙いを定める。


 線を描くように――


 斬る。


 五体。


 一瞬で切断。


 金属が悲鳴を上げ、崩れ落ちる。


「……ふん」


 ドヤ顔。


「やるじゃん、天満」


 ニヤが笑った。


 ――ガードボット。


 かつては、進化の塔一階と二階を守るセキュリティロボットの蜘蛛型多脚戦車。

 侵入者を捕獲し、解体する――人類の敵。


 無尽蔵に生産され、米軍の特殊部隊ですら長年苦戦した存在。


 人類がフロア1と2を完全制圧するまで、二十年。


 今では――


 警備。

 清掃。

 売店スタッフ。


 完全に人類の管理下にある。


 装備は訓練用のデチューンされた特別仕様で、近距離電撃百万ボルトの非接触放電のみ。


 厄介なのは――


 数。


 次から次へと現れる。


 だが。


 近距離型なら。


 答えは簡単だ。


 ヒットアンドアウェイ。


 踏み込み。


 斬る。


 離脱。


 残像すら残る速度で、スクラップを量産していく。


 ドローンが電撃を放つ前の、わずかな予兆。


 その瞬間。


 懐へ入り――


 一閃。


 ニヤの動きは、まるで芸術だった。


 手首から肘、肩、体幹。


 すべてが連動し、刃が滑らかに軌跡を描く。


 紙を切るように、機械を断つ。



 ……すげぇ。



 正直、見惚れた。


 熟練のナイフ使いは、銃にも劣らないというが――


 こいつは、もうその域だ。


「剣しか使ったことなかったけど」


 ナイフを回しながら笑う。


「まあまあでしょ?」


 投げ返される。


 受け取る。


「……大したもんだ」


 正直な感想だった。


「剣とナイフは別物なんだけどな」


「そう?」


 ニヤは首を傾げる。


「刺して斬る。同じじゃん」


 ――言われてしまえば、それまでだ。


 できる奴は、そう言う。


 俺はナイフを鞘へ戻した。




 足元には――


 ガラクタの山。




 俺より、明らかに多い撃破数。


 ……俺、プロフィールにナイフ得意って書いたよな。


 ちょっと。


 いや、かなり。


 自信無くすんだけど。


「まぁ」


 俺は空を見上げる。


「セレモニーは、こんなもんじゃ終わらないだろうけどな」


 胸の奥で、嫌な予感が静かに膨らんでいた。


読んでくださってありがとうございます。続きが気になった方はブックマーク、広告の下の☆☆☆☆☆から応援していただければ励みになりますので、よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。