入学セレモニー 其の一
シティー内の公園のような広場に出たところで、噴水を囲むように設置された巨大モニターに俺たちの姿が映され、爆音で流れるBGMとともに入学セレモニーの放送が始まった。
うわぁ、こんな大音量で中継されたら、ますます居場所丸わかりじゃねぇーか。
追手の人数も分からないのに、こっちの居場所が知られるのは御免こうむりたい。
「侵入ゲートを悟られないための、高高度降下じゃなかったのかよっ!?」
パラシュートで降りるヤツ、メッチャ練習させられたんですけど!?
公園から飛び出て、ぞろぞろと四足ドローンを引き連れたまま再び建物の物陰に忍び込む。
「あははははは!なんかパレードみたい!」
ニヤは楽しそうに先頭を走る。
『さぁさぁさぁーっ!!ゲートからは大量のガーディアン「ガードボット」が侵入者を追いますっ!!』
言葉通り、市街地を無数の四つ足のドローンに追い回されている俺たち。
『まずは、セキュリティードローンのガーディアン「ガードボット」の追従をどうかわすかが問題だな!!セレモニー序盤で捕まると恥ずかしいぞ!」
「捕まるわけないじゃん、てか誰だ?天満知ってる?」
「はぁはぁ、どうせスタジオ・ステアーズのジェームスじゃねぇーの?画面観てる余裕ねぇって」
余裕の表情でニヤはスピードのギアを上げる。俺はもうそろそろ速度的に限界なんですけど。モニターなんて見てられないって。
入り組んだビルとビルの間を縫うように走る、蠢く蜘蛛の大群のような四足ドローンをぞろぞろと引き連れて市街地を疾走する。
なんか、ああいう虫っぽい動きするの生理的に無理なんだよなぁ。カシャカシャと定期的な音とかね虫の羽音に聞こえて・・・うぇってなる。
背後を振り返り、なりふり構わず追いかけてくるドローンの大群を辟易しながら見つめる。市街地のビルやテナントの看板やシャッター等々お構いなしに破壊しながら追っかけてくるけど、損害賠償金とか請求されない?損害は当然運営持ちなんだよな・・・なんて祈りながら、とりあえず逃げる。
ゲート内もまるでテーマパークのような街並みが続く、多くはステアーズのスポンサー企業のブースやステアーズ御用達の商店や飲食店が立ち並んでいる。
進化の塔を囲むように形成された進化街の各所に設置された巨大モニターに、ゲートを通り過ぎてエボ・シティーに侵入した俺たちの姿が映し出される。
「天満ぁー見てみて、俺たち映ってるよっ!!」
ニヤは笑顔で追走する飛行ドローンのカメラにピースサイン。
「あぁ、これでいよいよ俺たちも世界デビューってわけだ」
モニターに映っている金髪の長髪のアメリが人МCが アシスタントの狐耳のおねーさんにハンマーで殺されかけている。
『うっ、ご・・・ごめんなさい、全国放送で公開死刑は勘弁な・・・うんうん・・・スレッジハンマーは置いておこうね』
『ふん、口には気をつけることね』
「やっぱり、ジェームスじゃん」
ジェームスが余計なこと言って、ミサトさんがキレるのはスタジオ・ステアーズではお馴染みのお約束だ。
『シティー内に待機する警備担当ステアーズに捕まることなく塔から脱出し、海上に停泊している進化学園所有のフェリーまで生きて戻れたらセレモニーは終了だ』
さらっと今「生きて戻れたら終了」とか言いやがったな。
「そっか、フェリーが停泊してるのが北側海岸沖だから北出口から脱出だったんだ」
今頃思い出したんかい。
「当然、敵もそこで網張ってるわけだけどな」
「まずは、その前にこのガラクタたちを何とかしないとだよ!」
「んだな!」
市街地の少し開けた広場に出たところで、俺たちは踵を返し追従してくるセキュリティードローンの大群と向き合う。
二本のダマスカスのククリナイフをシースーから抜き出し構える。
「ごめん天満、決めてるところ悪いんだけど一本貸して、俺装備ないからさ」
そういう言い方するかね?ごめんよ!確かにちょっと決めてたけど!こういう時、急にクールになりやがる。
「ちゃんと返せよ」
ほいっとナイフを投げ渡すと、受け取った流れで流線を描くように舞う、すると周りを囲んでいた四体のドローンがガチャンバラッとまぁ見事にバラバラになる。
「にゃはは、天満よりうまく使って見せてあげるよ」
他人の武器を持ち主よりうまく使っちゃダメだぜニヤ、友達無くすぞ。
「にゃははははは、面白いぐらい切れ味良いね、これ」
ニヤは器用にナイフを片手でくるくる回しておどけて見せる。
余裕だな、こっちとしてはちょっと自信無くすよ。
「んじゃ、競争だなニア」
舌なめずりして、狙いを定め、描いた線をなぞる様に高速でナイフを振り下ろし横に薙ぐ。
対抗心丸出しで、ニヤよりもほんのちょっと速く五台のドローンを切り刻む。
ギギギギギィィィィィィと、金属が擦れる音を立ててドローンが立て続けにバラバラになる。
「ふんっ!」
どや顔。
「やるじゃん、天満」
かつて、ガーディアン「ガードボット」は進化塔の一階に出現するセキュリティーロボットだ。侵入者を捕獲し解体する人類の敵だった存在だった。
無尽蔵に進化の塔内で製造され、運用されてきたセキュリティードローンは、かつての海兵隊もずいぶん手を焼いたらしい。
進化の塔のフロア1とフロア2を完全制圧するのに人類は二十年の時間を要した。
その後、進化の塔の一階のガーディアン・システムを人類が完全掌握して数年。今じゃすっかりエボの警備から売店の売り子に市街地の清掃まで担う存在だ。
攻撃方法は非接触型の電流攻撃で至近距離から百万ボルトの電流を対象に飛ばして自由を奪うタイプなので、ここの戦力は大したことないのだが・・・やっかいなのが数だ。
次から次へと列を成してドローンが押し寄せてくる。
攻撃レンジが近距離なので、ヒットアンドアウェイで一撃離脱で仕留めるのが定石だろう。
俺たちは残像が残るほどのスピードで、かたっぱしにスクラップを量産していく。
ドローンが攻撃態勢になる一瞬の気配、目標を補足し、対象に攻撃を仕掛ける信号を発し内蔵された電源回路で高電圧を発生させて射出する。その一瞬に懐に入り、ワンアクションで対象を切断。振り下ろしの勢いのまま姿勢を変えて、遠心力を殺さずナイフの流れに手首から腕に、肩から胴体へと刀線が一筆書きのように滑らかで美しい線を描きながら、ニヤは紙切れを切り刻むように無機質なドローンたちを切断していく。
ナイフ使いの端くれの俺から見ても、ニアのナイフの使い方は様になっている。惚れ惚れする動きだ。熟練のナイフ使いなら至近距離で銃を持った相手に引け劣らないと言うが、まさにその域に達している。
「今まで剣しか使ったことなかったけど、まあまあでしょ?」
ニヤの動きに見とれていた俺に、手首のスナップでナイフを放って渡す。
「大したもんだな、剣とナイフってのは扱い方がまるで違うんだけどな」
「そうかなぁ、刺して斬るは剣と同じじゃん」
ナイフを受け取り鞘に納める。
できる奴に「同じじゃん」って言われてしまうと、ぐうの音も出ねぇ。正確にはナイフと剣の扱いは別物だ、だけどこいつは刀身の長さが違う程度の認識で、コレがやれちゃう奴なわけで首席と四席の実力差ってやつなんだろうな。
あらためて俺とニヤが築いたガラクタの山を見下ろす。
俺、自己プロフィールにナイフが得意とか書いちゃったじゃねぇーか。
本気で自信無くすぜ。
「まぁ、セレモニーはこんなもんじゃ終わらないだろうけどな」
圧倒的に俺が倒した数の方が少なかったなんて、あえて見て見ぬふりをする。
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