黒づくめの男と第12話
始業式。
夏休み含めて2ヶ月ぶりぐらいに出席した俺は、やはりクラス中から嫌な視線の的になっていた。
……これだから来たくなかったんだ。
黒兎と紗耶は違うクラスだから休み時間まで会えないし、かなり苦痛で仕方が無い。
「はぁ……」
思わずついてしまうため息。それが聞こえたのか、周りからの視線は鋭さを増す。
……まだあの喫茶店で働いてる方が気が楽だ……
☆☆☆
「やっと終わった……」
なんとか乗り越えた放課後。
校門前で俺を待っていた黒兎と紗耶と合流する。
「お疲れさん!どうだったよ新学期!」
「どうせ周りの視線が痛くてビクビクしてたんでしょ!」
「………」
お察しの通りです。
「で、今日もバイトだろ?」
「あぁ。まぁどうせお客さんも来ないだろうけど」
「そういう事言ってる時に限って客ドバってくるよね」
「あそこに限ってはそれはねぇよ。今日は店に寄ってく?」
「いやー、今日はちょっと出かけるところがあってさ。また今度行くよ」
「私もー」
「?そうか。二人でなんて珍しいな」
そんな他愛もない会話をひとしきりした後、喫茶店の店の前で別れる。
ドアを開けようと手を伸ばすと、こちらが触れるより先にドアが開いた。
「あ〜!因幡さん来てくれた〜!助かった〜!」
現れたのはラメエルさんだった。
「?どうかしましたか?」
「ちょっと私〜これから出かけなきゃ行けないので店番頼んでも良いですか〜?」
「あ、はい。わかりました」
「じゃあ〜お願いします〜!」
そのまま走ってどこかに行くラメエルさん。余程大事な予定なのだろうか。
とりあえず任されたからにはきちんと仕事をこなす俺。すぐに着替えて掃除や洗い物を終わらせる。
さて。
「暇だ……」
客がいないとすることが無さすぎる……!1人くらい喋り相手が来てくれてもええやんか……
と、一人でぼーっとしてると、
カランコロンカラン……
「あっ、いらっしゃいませー!」
早速お客さんが来た。なんとか暇は潰せそうだ。
お客さんの見た目はざっと30代前半、黒いスーツに黒いネクタイ。ワイルドな顎鬚とグラサンがなかなか……
危ない人にしか見えない。
えっ。何この人。来る場所間違ってない?どう見てもヤーさんなんだけど。大丈夫かな。殺されないかな。俺。
俺が内心ビクビクしてると、お客さんが口を開いた。
「……なんだ。今日はラメエルのヤツ休みか?」
……ラメエルさんの知り合いかよ。あの人の周りには変な人しかいないのか。
「店長なら先ほど用事があるってどっかに行きましたよ。」
「…そうか。………ところで少年。貴様は?」
「あ、バイトの因幡です。宜しくお願いします!」
「……そうか。貴様が……」
なんかそんな感じのこと前にもガブリエルさんやメタトロンさんにも言われた気がする。そんなに珍しいのだろうか。
お客さんが席に着いたので、俺は注文を伺う。
「何にしますか?」
「……ブレンドのブラック」
「かしこまりました。少々お待ちください」
「ふん……手際がいいな。少年」
「あ、ありがとうございます…」
見た目はめちゃめちゃ怖いけど優しい人なのかな。……でも雰囲気がどことなくラメエルさんと似てる気がするんだよなぁ……
俺はカップにコーヒーを注ぎ、お客さんに出す。
「お待たせしました。ブレンドのブラックです」
「……普段ならここで愚痴をこぼしていくんだが、子供が相手だと我慢せざるを得ないな」
ラメエルさんがいる時のことだろうか。ということは常連客ということか。
「いえ、自分でよければ聞きますよ」
「ふん……そうか。ならば付き合ってもらおう」
お客さんはいろいろなことを話してくれた。
先代の上司が急に疾走したせいで自分がトップを務めさせられたとか、周りの人達がフリーダムすぎて大変だとか。その話を聞いた俺は……
「わかります……!周りがフリーダム過ぎると自分が何とかしなきゃって思うんですよね……」
「フフッ。少年、貴様も中々苦労してるんだな……」
「いえいえ……お客様も大変そうで……」
お客さんがコーヒーを1杯飲み終わる頃には俺とお客さんの間に妙な絆のようなものが芽生えていた。苦労人だけがわかるというかなんというか……
「さて、お代わりを貰おう」
「かしこまりました」
空いたカップに再びコーヒーを注ぐ。
その後も俺とお客さんの他愛もない会話は続き、三杯目を飲み干したところで、
「さて。そろそろお暇するとしよう。愚痴を聞かせて悪かったな少年」
「いえいえ。こちらも大変勉強になりましたので!」
「そうか。それは良かった」
お会計を済ませ、お客さんが店を出ようとドアを開けようとーーー
カランコロンカラン……
ーーーしたところでラメエルさんが帰ってきた。
「あ、お帰りなさい」
「ただいまです〜……おや?アザゼルさんじゃないですか!また今日も来たんですか〜?暇ですか〜?」
「貴様と違ってやることばかりだこのアホめ!」
「失礼ですね〜!私もやることいっぱいですよ〜!!」
どうやらお客さんの名前はアザゼルというらしい。……アザゼル?
と、俺がなにかに引っかかってると、ラメエルさんが紹介してくれる。
「こちらはアザゼルさん!先代に代わり魔王として頑張ってる私と同じ堕天使です〜!」
そしてアザゼルさんの背中には立派な黒い羽が生えていた。




