イケメンは何でもできる
「成瀬くんはどれからいきたいとかあるかい? 僕は特にこだわりもないし、合わせるけど」
「俺もなんでもいいけど、強いて言うなら軽い種目からがいいな……最近運動してないから50メートル走とか負担がかかるものは後にしたほうが良いかもしれない」
「──そうだね、って言っても外競技だから結構ハードなもの多いかもしれないけど」
さきほど配られた用紙に目を落とす。
本当だ、ハードなもの多いな。
この中だったら、そうだな……。
少し、頭を悩ませて、
「……ハンドボール投げとかはどうだ?」
「いいね。じゃあ、それから行こうか」
ハンドボール投げだったら肩使うだけだし、足使うよりも幾分かマシだろう。《《だけ》》というと何か波紋を呼びそうなのだが、決してハンドボールの悪口などでは一切ない……体力測定にはもちろん、本来のチームを作って対戦形式を行うような測定方法はない。それに、今の自分の体の状態を考慮すると足よりも肩を使う方が、と思った……体を暖めるという意味も兼ねてだ。
一応、他の競技の様子も見ておこう。
そう思い、周りを見渡すと、
「……ん、あれは……」
遠目に蘭の姿を見つけた。
なんか、すっげぇ楽しそうにしてる……隣にはいつものごとく花嶋がくっついている。ペア組んだんだな。
いつもは長い髪をただ、下ろしているだけだがスポーツをするとなると邪魔になるのだろう、ひとつに束ねて上の方で髪をくくったポニーテール姿に変わっていた。それに体操服……新鮮だな。
最近ではスタイルが良いと持て囃されているのを目にするが、さすがは学校一の美少女と言わていただけあって、体型はスラリとしていて出るとこは出ている。こうして見ると外面はめちゃくちゃ清楚で真面目そうな感じがするよな……実際はそんなこともないんだけどさ。
「──おーい、」
これがギャップというものか。
なんとも火力が高いらしいな。
「……何かあった、ぼーっとしてさ? あと次出番だから準備しようか」
「あ、おお! ……わかった」
石川の声で回顧から醒め、つい頓狂な声をあげてしまった。
いつのまにかもう前にひと組にまで迫っていた。ああ、良くないな……もう、いつもの蘭じゃないか……制服姿とちょっと違うからって他に何が違うっていうんだ?
現を抜かしてしまった自分が情けない……まるで、更衣室でのアイツらみたいじゃないか!
今思っていたことは絶対に墓場まで持っていこう、そうしよう。
「よーし、次のお前ら。準備は出来てるか、出来てるなら1回目始めるぞ〜!」
準備開始の合図がかかると、石川が口角を少し上げてボールを持った。
「勝負だね」
「……は? ……勝負って?」
聞き返すと、
「いや、なんでもないよ。こっちの話だから」
そう言って俺の顔を見遣った。
──よくあることだ。
ハンドボール投げのレーンはグラウンドの面積を結構取ってしまうからか二つしかない。そのため、ペアになって体力測定を行うことになるわけで自然と勝負意識のような感情が芽生えてしまう、別に勝負なんてしていないのに。
籠にいくつか入ったハンドボールをひょいっと持ち上げた。……案外重いものだ。
「じゃあ、投げていいぞ!」
──記念すべき1回目。
円の枠内で軽く助走をつけて、枠のギリギリまで足を残して上半身を捻る。
横投げでも巻き投げでもいいだろう。
そこまで規制とかないだろうし、問題ない。
──────だが、
あ、やば……ミスった。
精一杯投げたボールは体の向きが悪かったのか、するりと手から抜けて、中心角の狭い扇形のコートを大きく左に巻いていくと、記録範囲外の場所にポテンと落ちた。
「成瀬の1回目、記録なしな〜! 次2回目の準備しとけ」
「……はい」
全然ダメダメじゃねえか!
俺は首を傾げて、2個目のボールを籠から取ろうとしたとき女子の『キャーッ!』という黄色い声援が耳朶を打った。
何事かと顔を起こす。
風を切るように鋭い弾道が宙を舞う。
『1回目。石川、36メートル!』その声はまた、ほかのクラスの女子も呼び寄せる。
──嘘だろ、運動神経もいいとか。
「マジか、運動できるのかよ。意外だな」
「まあね、特別得意ではないんだけど……運動すること自体はそこそこ好きってところかな」
パタパタとボールを投げた感覚を手に慣らしながらそう言った。
「石川くん……かっこいいー! 勉強もできるし運動もできるなんて完璧男子じゃん!」
……おい、やめてくれ、このガヤ!
めちゃくちゃ、アウェイでやりづらいんだけどこれ……! イケメン野郎と比較されてる感じがしてまじで嫌すぎるんだが!
そんなアウェイな空気に呑まれていると、
「成瀬くん、がんばー!」
「あやとっち、がんばれ。だらしないぞー」
横を通りがかった蘭と花嶋が笑顔でこちらに手を振っていた。
「……だらしなくない」
見られていると思うと、恥ずかしいな。
まあ、いいか。
──リベンジの2回目。
枠の限界まで助走をつけると、今度は体の向きを気持ち、右に寄せてボールを放った。
理想的な角度。スピードも悪くない。
放ったボールは綺麗な弧を描き、扇形の枠内に余裕で収まった。
「成瀬、2回目。33メートル」
「──で、石川、2回目。33メートル」
心の中でガッツポーズをかます。
……よしよし、及第点だな。全国平均に比べれば取れているだろうからこれで充分だろう。これでまた記録なしを叩き出したらマジで恥ずかしくて気が気がじゃなかっただろうから、記録よりも恥辱を受けないことのほうが切実に嬉しい。
「…………成瀬くんも中々、やるね」
「まぐれだ。お前の方が凄いだろ、36メートルって凄いな」
石川は余裕綽々《よゆうしゃくしゃく》な様子で。
かといって、無理をしているようでもあって、表情の裏側から悔しそうな──負けず嫌いな性格が垣間見えた。




