ショッピングモールでの一幕
「こことかちょうど良さそう気じゃないですか? お値段もお財布に優しくてリーズナブルですよ」
小綺麗そうな雰囲気の店を見つけた私は近くに駆け寄って成瀬くんに訊いてみた。
「本当に高くないのか……? ここって……」
「おそらく、私の感がそう言っているので間違いないです」
「その感とやらには頼れそうにないとさっきわかったばかりなんだが……信じていいのか?」
成瀬くんは店頭と廊下を隔てたギリギリの境界線に立ち止まると、疑心暗鬼な視線を向けてくる。
まあまあ、今回ばかりは任せて欲しい。ここは流行のアプリであるTikTok、YouTubeでもよくおすすめされている今、高校生、大学生から人気のあるブランドなのだから間違いないだろう。
「だって見るのは無料じゃないですか!」
「それでも、俺ら高校生には場違い過ぎただろ……トップス2万って払えないぞ! しかも店員からどうせコイツら買わないんだろうなぁ、って目で見られてたしさ……」
「それがショッピングモールの醍醐味なんです、買わなくても見るだけで楽しむ。目の保養なんて言うじゃないですか? それと同じような感じですって」
「そう、なの、か……? お店の人達に迷惑かけてそうで気が気でなかったけど……」
「……真面目くんか!」
『はぁ』と腑に落ちない様子で首を傾げた。
口にぎゅっと力を入れて押し黙る。
ははーん……さては慣れてないな?
昔からあまり物欲に関して薄そうな印象があったし、『クールキャラ』を彷彿とさせるところはあった。
……ふっふっふ。まぁ、私からすればこのポーカーフェイスを崩すのは容易いけれど!
(いやぁ、良かったなー! あれは!)
……くうーっ! たまらんっ!
成瀬くんが服を褒めてくれたときの恥ずかしがる様子を思い出してひとり、悦に浸ってるいると、
「はぁ……先、見とくからな……」
「え、ちょっと待ってくださいよ!」
「嫌だ!」
「態度がつめたいです!!」
長々とした私の回顧に呆れたのかそそくさと店内に入っていってしまった。
女の子をほっぽり置いていて先に行くのはどうかと思うのだけれど……こんな可愛い子を置いておくと、チャラチャラした男にナンパされてあんなことや、こんなこと、ってならなくもない話じゃないの!?
そんな状況になったら一体どうするのだろうか。今や放っておきそうな雰囲気さえある。
どうやら幼馴染への特別扱いの特権はすでに期限切れのようだった。
***
「次、どうします? 結構疲れましたし一度休憩を挟みません?」
「俺も丁度、そう言おうとしていたところだ」
ひとしきり店内を回りきった後、私たちは観葉植物と一緒に等間隔に設置されているベンチに腰をかけ、休憩の時間に割っている最中だった。
私の手には期間限定の苺とチョコレートをミックスした飲み物。彼の手にはキャラメルフラペチーノ。インスタグラムのストーリーで高校生がこぞって飲んでいる物だ。
成瀬くんは啜りながら、
「ぼちぼちバイト、始めないとな……」
「うぇぇ……やだな」
「しょうがない、あの店員は一枚上手だった俺たちの購買意欲を掻き立ててきたし、営業センスの塊だったな……」
隣の大きな紙袋を見遣った。洋服たちが今にもはち切れんばかりに袋の上から顔を覗かせている。
……ちょっと、買いすぎたかも。
それは、成瀬くんも同様にだ。
「いやぁ、浪費しすぎた」
「ですね、高校生の買う値段じゃないくらいには」
1万、2万……それくらいは軽くいっているだろう。有名なブランドなだけあって、良い商品はそこそこ値段もする。おおかたブランディングの宣伝費用などでかさ増しされているのだろうけれど来年、再来年も着れると思えば安い買い物なのかもしれない。うん、安い買い物だ(断定)そう思おう!
10分程休憩を挟み、そろそろ他の場所も巡ろうと立ち上がったときだった。
「ばーか、ばーか!」
「……うっせえな!このアホ、ちんちんくりんが!」
────ん、なんだろう? 一体。
どこからか言い争う声が聞こえてくる。
「カップル?」
「だな。絶賛、痴話喧嘩中らしい」
「割と目立ちますね……」
少し離れたところからでも視認出来る。
ただのケンカップルか……ショッピングモールに来てまで喧嘩をしているというのか? デートなんだからもっと楽しくすればいいのに、距離感が近くなると相手のいい部分より嫌な部分が目立ってくるとはしばし聞くが実際それは信頼に値するのかどうか真偽は不明だ。
結局、カップルの立場になったことのない私が何を言おうが憶測の域を出ないただの妄言に過ぎないので、当事者になってみないとあの人たちの気持ちは分からないなのだろう。
────って……あ、近づいてきた。
いくぶんか若い、高校生っぽい見た目。
男の人はセンター分けで身長は高め。
女の子は茶髪で……うーん、まだ遠くてあまり見えないけれど。
──あれ?
顔が鮮明になってくる。
既視感が──
センター分けの男の人に茶髪の女の子。
そして、うるさい喧嘩。
────え、あれって!?
今までの既視感がジグソーパズルのように見事なまでに埋まっていき、残すところは私の事実確認だけとなった。
私がすぐさま成瀬くんの方に振り向いて訊ねると、彼も気づいたようで。
「成瀬くん!」
「わかってる……!」
「あの二人じゃないですか!!」
……やっぱり、そうだ!
カップルだと思しき、痴話喧嘩を繰り広げていた人たちは私たちもよく知る2人だった。




