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クビになった解体屋のおっさん、深夜のS級素材解体配信が人類最強に見つかる 〜まかない飯を出してたら、俺を切った大手クランが勝手に曇っていく〜  作者: さくらろ
第二部 世界同時大解体

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第48話 先客たち


 解体痕ってのは、指紋みたいなもんだ。


 刃の入りに癖が出て、返しに性格が出る。骨に残った何十本の線は、どれも同じ流儀だった。無駄がない。深追いもない。うちの店で出したって恥ずかしくない仕事だ。


 問題は、この骨が壁の奥――地図にない空洞に寝ていたことだった。


『真壁さん。未調査区画への立ち入りは、規定では観測班の先行が――』


「葛城さん。この痕を放っておくと、夜も眠れない性分でね」


『……護衛の同伴と、中継の常時接続を条件に許可します』


 察しのいい役人ってのは、胃薬の減りも早い。悪いとは思ってる。


 先頭はガルシア。崩れた壁の縁を岩の手でむしって、通れる幅に広げていく。


「モンダイ、ナシ。……セマイ」


「お前基準の『狭い』は信用しないことにしてる」


 リンは俺の半歩後ろだ。剣の柄に手は掛けていない。代わりに俺の袖を摘まんでいる。転ばせない係らしい。


 空洞は、思ったより深かった。


 ライトを回す。天井は低く、壁は素の岩だった。真珠層じゃない。試しに指の背で叩くと、詰まった鈍い音がした。広間の柱とは別ものだ。


「ここは竜宮の体じゃないな。ただの岩だ。……だから、砂にならずに残ってる」


《あ、だから骨も無事なのか》

《待って、奥に何かある》


 あった。ライトの輪の先、壁の窪みに――道具が、並んでいた。


 錆の塊になった鉤。柄の朽ちた骨鋸。端には、革が硬直した砥石袋が沈んでいた。どれも塩を噛んで死んでいる。だが、置き方だけは死んでいなかった。


 大きいものから順に、刃を奥へ向けて一列。うちの店の壁と同じ並べ方だ。


《置き方が几帳面すぎる》

《大将の店みたいって言おうとしたら本人が先に固まってた》


『大将……これ、人が、いたんですよね』


 こはくの声が半分裏返っている。俺は窪みの前にしゃがんだ。


「いたんじゃない。働いてたんだ」


 砥石をひとつ、手袋の上から起こす。真ん中が減って、三日月に反っていた。ここまで減らすには、年単位じゃきかない。


 妙な話だ。ダンジョンが世に出たのは、二十年前ってことになってる。この砥石は、その帳簿に載らない減り方をしていた。


 振り返ると、床の隅に石を組んだ輪があった。中の炭は白く風化しきっている。輪のそばには器の欠片が転がっていた。


「飯も、ここで食ってたか」


 働く。研ぐ。食う。寝る。数百年前の誰かの毎日が、間取りごと残っていた。


 骨の山は、奥に向かって三つあった。


 ただの山じゃない。仕分けだ。太い骨、板状の甲殻、角と牙。素材の種類ごとに分けて積んである。市場の競り台と同じ理屈だった。


 一番手前の山の線を、指の背でなぞる。


「先に腱の道を外して、次に膜、最後に芯……」


 声に出して、途中で止まった。手順が、俺と同じだ。いや、違うな。数百年先にやってた連中に、俺が同じなんだ。


「……読めるの」


「レシピは素材に書いてある。あの人らも、同じところを読んだってだけだ」


 二つ目の山で、線の顔ぶれが変わった。


 荒い線がある。深すぎる線がある。その隣に、正しい角度で引き直された線が寄り添っていた。


 教えてる。


 下手な刃に手本を見せる。やらせる。また見せる。骨の上に、稽古の時間割が刻まれていた。


「センパイ、デスカ」


「ああ、先客だ。……師匠と、弟子もいたらしい」


 ガルシアが両腕を組み直した。岩男なりの敬礼かもしれない。


 三つ目の山の前で、足が止まった。


 骨の関節に、折れた刃先が噛んだまま残っていた。


 そこで終わりじゃなかった。線は続いている。ただ、折れた先の線は届きが浅い。短くなった刃で届く深さだけを、それでも引き続けた痕だった。


 折れた。研ぎ直した。それでも、引いたんだ。


 俺はヘルメットを取った。


『た、大将!?』


「静かにしてくれ」


 骨の山に向かって、頭を下げる。深く、ゆっくり。


 いい仕事でした、と口の中だけで言った。同業の挨拶に、それ以上の言葉は要らない。


 リンは何も言わなかった。ただ、隣で同じ角度に頭を下げていた。ガルシアの巨体も、いつの間にか折れていた。


《……画面の前で正座してる》

《数百年前の職人に頭を下げるおっさん》

《この配信、深夜でよかった》


 弾幕まで声を潜めてる気がするのは、気のせいってことにしておく。


 最奥の壁際に、それはあった。


 膝の高さの石板だ。立てかけたんじゃない。岩を彫って、わざわざ「残る形」にしてある。


 表面の砂を、指の背で払った。


 文字が出た。読めない。横に流れる古い書体だ。ただ、文字の上に彫られた紋には見覚えがあった。


 鷲だ。首が、二つある。


「――こはく。リズに繋いでくれ。カメラをこれに寄せる」


 中継の向こうで、息を呑む音がした。繋ぐまでもなく、聞いていたらしい。


『ししょう。その紋……わたしの包丁と、同じです』


「だろうな。銘の切り方まで似てる」


『家に伝わる、いちばん古い銘です。機械より、ずっとずっと前の……。文字も、読めます。組合の古い職人文字です』


 リズの声が一度途切れた。読み間違いを避ける間だ。娘は仕事の前にだけ、この間を取る。


「慌てなくていい。一枚ずつだ」


『はい。……上の段は、名前です。ここで働いた人たちの。八人ぶん、あります』


「下の段は」


 空洞の中は静かだった。数百年ぶんの静けさだ。


 リズが、読んだ。


『――「これ以上は、ひとりの刃では届かない」』

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― 新着の感想 ―
砥石って砥石用の砥石で水平にするのだと思ってた。
職人に近しい者と家紋持ちが居たから出会えた感じか?
よくわからんな 時間と空間が歪んで接続されてる?
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