表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クビになった解体屋のおっさん、深夜のS級素材解体配信が人類最強に見つかる 〜まかない飯を出してたら、俺を切った大手クランが勝手に曇っていく〜  作者: さくらろ
第一部 深夜のまかべ食堂

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/39

第33話 ヴァンガード、解散

解体ってのは、死んだもん相手の仕事だ。


生きてるやつに刃を入れるのは、解体とは呼ばない。


──だが組織ってやつは、ときどき、生きたまま自分で自分を捌き始める。


その報せは、復活配信から数日後、仕込み配信の最中に来た。


こはくがスマホを握って、転がるように駐車場へ入ってきた。


「まかべさん! ニュース! ヴァンガード、解散だそうです!」


手元の桂剥きは、止めなかった。


「臨時の記者会見やってて──『胃袋』の件の損害と、スポンサー全社の撤退で、負債整理と隊員の移籍斡旋に入るって。それで、あの」


こはくが、画面と俺を見比べた。


「……『一連の経営判断の責任は、すべて私一人にあります』って。鳴海さんが、頭下げてます。今、生中継で」


大根が、ちょうど一周剥き終わった。


「そうか」


「……それだけですか!?」


「でかい鍋でも、空けると決めれば一晩だ。──それに、空けた鍋は、洗えばまた使える」


《ヴァンガード解散、マジか》


《十年前は子供の憧れだったクランだぞ……》


《ざまぁ……と言いたいとこだが、なんか笑えねえな》


《大将の中じゃ、とっくに終わってる話だしな》


弾幕も、今夜は妙に静かだった。


ざまぁってのは、揚げ物に似てる。


揚げたては美味いが、冷めてから食うもんじゃない。


それから十日ほど経った、雨の深夜だった。


看板の灯りを落としかけた店の前に、男が一人、立っていた。


スーツじゃなかった。


糊の取れていない真新しい作業着に、まだ硬い安全靴。左の袖口から、包帯が少し覗いていた。


「……まだ、やっていますか」


「客なら、誰でも歓迎の店だ」


鳴海蓮司は、傘を畳んで、一番端の席に座った。


注文を訊く前に、俺は寸胴の残りで賄いを一杯だけこしらえた。


雷鹿の筋の味噌炊きを、飯に掛けただけの丼だ。


「品書きには載ってない。賄いだが──それでいいか」


「……いただきます」


丼を待つ間、鳴海は箸袋の角を几帳面に揃えかけて──途中で、やめた。


「来週から、北の解体場に入ります。資格は、一番下から取り直します」


「ほう」


「向こうの親方には、経歴を全部話しました。『うちの倉庫は地下二階じゃない、吹きさらしだ』と言われました」


「いい親方だ」


「真壁さん。私は、あなたに──」


「鳴海さん」


俺はお玉を置いて、丼をカウンターに滑らせた。


「客の身の上話は聞くが、丼が冷める話は聞かない主義でね。──まず、食いな」


鳴海は二秒黙って、それから箸を取った。


食い方は、不器用だった。


会食の食い方しか知らない箸だ。湯気の立つもんを、湯気のあるうちに食ってこなかった箸だった。


それでも一口ごとに、肩から角が取れていくのが分かった。


丼の底が見えた頃、鳴海は箸を置いて、長い息をひとつ吐いた。


「……美味いです」


語尾が、少しだけ煮崩れていた。


「うちは、それしか聞かない店だ」


帰り際、俺は研ぎ場の棚から砥石をひとつ、布に包んで放った。


慌てて受け取った手つきは、剣士の反射だった。──まだ、腐っちゃいない。


「使い込んだやつで悪いが、餞別だ。北じゃ、最初の一年は研ぎしかやらせてもらえんぞ」


「……知っています。調べました」


「なら話が早い。八割で研げ。十割の研ぎは、ここ一番まで取っとくもんだ」


「……はい」


作業着の胸ポケットに、色の浅くなった写真らしき角が差してあったが──何かは、訊かないでおいた。


鳴海は砥石を両手で抱え直して、雨の中で頭を下げた。


深く、長く。


十五分の面談の日より、復帰要請の日より、ずっと長かった。


詫びの言葉は、今夜も出なかった。


──たぶん、あの男はもう知ってるんだ。


詫びってのは口で払うもんじゃなく、これから先の十年、研ぎ場で払っていくもんだってことを。


「……ごちそうさまでした」


それだけ言って、男は雨の向こうに消えた。


リンが、空になった丼を黙って下げた。


「……最後のほう、いい食べ方になってた」


「ほう」


「……ああいうのは、強くなる。たぶん」


序列一位の認定が出たなら、北の親方も楽ができるだろう。


入れ替わるみたいに、世界のほうが騒がしくなった。


翌日の夕方、開店前の駐車場に、葛城が両手に紙袋を提げて現れた。


「……先日の事後処理とは、別件です」


袋の中身は、封筒の束だった。


見慣れない紋章。航空便の判。読めない文字の宛名書き。


「各国政府、国際機関、海外の大手クラン、放送局──あなた宛の正式な接触依頼が、外務省経由だけで、今朝までに四百件を超えました」


「四百」


「非公式の経路を足した数は、数えるのをやめました。……それで、どうされますか」


俺は看板の灯りを入れながら答えた。


「どうもこうも。今夜も零時に、開店だ」


「でしょうね……!」


役人の胃の鳴る音は、さすがに海の向こうまでは届かない。


──世界中が、深夜のフードトラックの灯りに、並ぶ順番を探し始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
鳴海さんはきちんとケジメはつけたけど上層部はコネとか使ってどっか別の場所に天下りとかするのかな?
鳴海は別に社長でも専務でもないだろ…
鳴海1人に責任を押し付けて解散?じゃあ他の経営陣どもは全て無能のお飾りですって認定されるよね。 たかだか1幹部が独断で全て動かせて、そして潰れるまで誰も対策打てない訳だからね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ