表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クビになった解体屋のおっさん、深夜のS級素材解体配信が人類最強に見つかる 〜まかない飯を出してたら、俺を切った大手クランが勝手に曇っていく〜  作者: さくらろ
第一部 深夜のまかべ食堂

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/30

第24話 特異ダンジョン『胃袋』

腹ってのは、正直な臓器だ。


減れば鳴るし、傷めば悲鳴を上げる。


──厄介なのは、悲鳴のほうが聞こえる頃には、だいたい手遅れってことだ。


午前二時半。


看板を仕舞った店の前に、黒塗りが停まった。


今度は、二台だった。


降りてきた葛城主任の後ろに、スーツが四人。全員、目つきが役所のそれじゃない。


「……夜分に、すみません」


「客じゃなさそうだな。今夜は、岡持ちも無しか」


「ええ。──今夜は、書類より重いものを持ってきました」


カウンターの端では、リンが皿を拭いていた。


看板後の皿拭きは弟子の仕事だと、いつの間にか本人が決めた。


葛城はリンを見て一瞬迷い、それから、諦めたように息を吐いた。


「……天宮様にも、いずれ通達の行く案件です。手間が省けたと、思うことにします」


スーツの一人が、店の周りに小さな機械を置いて回った。盗聴対策だそうだ。


丼屋の庇の下が、国家機密の会議室に格上げされた瞬間だった。


「話の前に、これを食え。顔色が、この前より白い」


「いえ、職務中ですので」


「倒れられるほうが職務に障る。──雷鹿の筋だ。三日炊いてある」


葛城は二秒迷って、箸を取った。


三口目で、肩から力が抜けたのが分かった。


固い役人ってのも、肉と同じだ。時間をかけた出汁には、ちゃんと応える。


「──先日の、黒塗りの地名です」


カウンターに広げられた地図の上で、黒は剥がされていた。


人口三十万の地方都市。その市街地の、ほぼ真下に、赤い円がひとつ。


「ダンジョンの正式名は管理番号です。ですが研究班も探索者も、通称しか使いません」


「なんて呼ばれてる」


「──『胃袋』です」


聞いただけで胸焼けのしそうな渾名だった。


「中で死んだ魔獣も、置き去りの装備も、数日で溶けて消えます。回収班が降りる頃には、骨も残らない。入ったものを消化するダンジョン。──それで、胃袋です」


「行儀の悪い客だな」


「その胃袋の最深部の核が──例の波形の主です。あれからずっと観測を続けていました。そして昨夜、変わりました」


葛城は端末をカウンターに置いた。


波形が二段、並んでいる。


上は海外の崩壊事例。注釈に『暴走直前』。


下の波形は、上のそれと、もうほとんど見分けがつかなかった。


「研究班の試算で、もって一ヶ月。最短なら、二週間です」


「暴走すると、どうなる」


「過去の事例どおりなら、ダンジョンは内側から崩壊します。──直上の地盤ごと」


リンの布巾が、止まっていた。


「避難計画は、あります。ですが、三十万人を騒ぎにせず二週間で動かす計画は──ありません」


「確証は」


「保管庫の欠片が、三日前から胃袋の波形と同じ周期で明滅を始めました。観測班の若手は『その子が怖がってる』と報告しています。……非科学的な報告書を決裁したのは、初めてです」


あの石が、怖がってる。


強さ序列一位のセンサーと、同じことを言う若手がいるらしい。


「で、俺に何をさせたい」


「核の摘出です。──暴走する、前に」


葛城は、湯呑みに口をつけなかった。あの夜と同じだった。


「協定違反じゃなかったか。核は触れるの禁止、観測のみ」


「国際観測委員会が、昨夜、特例を承認しました。条件付きです。──『核に触れて、構造を壊さなかった記録を持つ者に限る』」


「ずいぶん絞った条件だな。世界に何人いる」


「一人です」


役人は、まっすぐこっちを見ていた。


「あなたしか、いないんです。真壁さん」


俺は茶を一口飲んだ。


要するに、傷んだ内臓の摘出手術だ。


患者は世界で、執刀は丼屋。ずいぶんな大病院もあったもんだ。


「道具は持ち込みでいいのか。まな板と、研ぎ場の確保が要る」


「……作戦の説明より先に、まな板の話をするのは、世界であなたくらいですよ」


「大事だろう。仕事の八割は段取りだ」


「その仕事に、世界で唯一の登録名称がついていることは、もうお忘れですか」


「台帳の話か。包丁の重さは、登録の前と変わってないよ」


葛城は眼鏡を外して、眉間を揉んだ。


胃袋の話の最中に、胃の痛そうな顔をするんじゃない。


「編成は国家直轄の混成チームです。観測班、工兵、医療班。それと護衛小隊──各クランの精鋭から選抜を」


「私」


こと、と皿が置かれた。


リンが、布巾を畳んでいた。


「護衛は、私がやる」


「天宮様。選抜には序列や所属の調整というものが」


「序列なら、一位」


ぐうの音も出ない人事だった。


「……事務所が、とは聞きません。聞きませんが、一応」


「契約に、もうひとつ足す」


リンは、こともなげに言った。


「──『護衛する相手は、私が選ぶ』」


夜食の自由に続く、二項目めらしい。


あの事務所の担当者の顔が、ちょっとだけ見たかった。


「決まりですね。……正直、助かります。あなたが断った場合の護衛リストは、二枚目から先が白紙でした」


「白紙て」


「一枚目に書く名前が強すぎるんですよ」


葛城は鞄から最後の一枚を出して、カウンターに置いた。


正式な要請書。判子の欄が、見たこともない数だけ並んでいた。


「ひとつだけ、先に言わせてください」


「なんだ」


「今回の作戦の最重要人物は、戦闘員ではありません。観測班でも、工兵でもない。──あなたです。人類最強が護衛につき、国家が道を空け、非戦闘職のあなたが、最前線の一番奥に立つ」


十年、列のいちばん後ろで荷を受け取ってきた男に、ずいぶんな配置換えだ。


世の中の人事ってのは、つくづく読めない。


「危険は、あります。胃袋は現役のS級指定で、核の摘出に前例はない。失敗すれば、街どころか、あなたごと──」


葛城はそこで言葉を切って、それから、役人の顔のまま言った。


「……断っても、いいんですよ」


俺は研ぎ場から、十年物の相棒を一本取って、布で拭いた。


いつもと同じ重さだった。


「いや──素材が泣いてるのは、見過ごせない性分でね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>「いや──素材が泣いてるのは、見過ごせない性分でね」 切り抜き班まだかぁぁぁぁぁぁぁ!!
もういっそ国をあげて解体屋さんの技術を学べる配信を教科書に解体師育成頑張って欲しいな〜、正直これだけの実績持ちなら他国が引っ張ろうって躍起になりそう!。
どいつもこいつも真壁さんに依存しすぎだわ 国も利用する事しか考えてない
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ