表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クビになった解体屋のおっさん、深夜のS級素材解体配信が人類最強に見つかる 〜まかない飯を出してたら、俺を切った大手クランが勝手に曇っていく〜  作者: さくらろ
第一部 深夜のまかべ食堂

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/22

第20話 世界の臓器

重い話ってのは、内臓に似ている。


外からは見えない場所で、いちばん大事な仕事をしてる。


だから開けるときは、急いじゃいけない。──傷つけたら、二度と戻らないからだ。


午前三時四十分。


看板を仕舞った店の前に、ヘッドライトが一対、音もなく停まった。


降りてきた葛城主任は、一人だった。部下もなし、書類鞄の列もなし。


代わりに、手首と細い鎖で繋がれた銀色のケースを提げていた。


「……物々しいな。出前にしちゃ、頑丈すぎる岡持ちだ」


「冗談に付き合う体力が、今夜は残っていません」


深夜の照明の下で、役人の顔色は、紙より白かった。


カウンターに、茶をふたつ。


葛城は座る前に、店の外を一度、ぐるりと見回した。


「配信は」


「切ってある。録画もなしだ。──電話で、そう言われたからな」


「……感謝します」


ケースの中身は、分厚い報告書が一冊。


表紙に判子が三つ。どれも、見たことのない印だった。


「結論から申し上げます」


葛城は、湯呑みに口もつけずに言った。


「例の鉱石は、魔石ではありません。ダンジョンの──『核』の、欠片です」


「核?」


「すべてのダンジョンの最深部に、ひとつずつ存在が確認されているものです。ダンジョンを作り、魔獣を生み、全体を維持している。研究班の報告書には、こうあります」


葛城は頁を開き、一行を指でなぞった。


『核とは、世界がダンジョンを生むための、臓器である』


「……ずいぶん詩人だな、お宅の研究班は」


「書いた本人は、三日寝ていないそうです」


俺は茶を一口飲んだ。


臓器、ね。


言われてみりゃ、あの石の光り方は──確かに、脈だった。


「で? その臓器の欠片が、なんだって最深部でもない、熊だの蛇だのの腹ん中にいた」


「不明です。前例がありません。……ただ、核そのものの前例なら、あります。最悪のやつが」


葛城の声が、一段沈んだ。


「過去、海外で核の摘出が試みられた事例が、数件。結果は、すべて同じです。核は、刃だろうが機械だろうが、構造に触れられた瞬間に暴走し──崩壊します。ダンジョンごと。運が悪ければ、上の街ごと」


「……穏やかじゃないな」


「以来、核は国際協定で『触れてはならないもの』とされています。観測のみ。接触は、全面禁止です」


「賢明だ。傷んだ内臓は、素人が開けるもんじゃない」


「ええ。──ここからが、本題です」


葛城が次の頁を開いた。


見覚えのあるグラフだった。天井に張り付いた線が、今度は二本。


「あなたが欠片の周りごと切り出した、あの肉塊。二件とも解析しました。核物質に直接触れていた組織なのに、構造の損傷が──ゼロです。大鎧熊の分も、鎖蛇の分も」


「ほう」


「世界中の接触記録を、すべて遡りました。核に刃を入れて、何ひとつ壊さなかった例は、人類の記録上、二件だけです。──両方とも、あなたです」


「そりゃ、刃を当ててないからな。周りの肉の、流れがほどける場所から外しただけだ」


「それが、できないんです」


「研ぎが足りんのだろう」


「またそれですか!」


葛城は眼鏡を外して、眉間を揉んだ。


ずいぶん見慣れた仕草になったもんだ。


「……先週、研究班があなたの配信映像を全工程解析して、最新のアームで完全に再現しました。包丁も、同じ銘の業物を取り寄せて」


「ほう。それで」


「検体は崩壊しました。零コンマ二秒で」


「アームの研ぎが甘い」


「機械のせいにするのも大概にしてください!」


役人が深夜に声を荒らげるのは、よっぽどのことだ。


葛城は咳払いをひとつして、報告書の間から、角の固い一枚を抜き出した。


「……上の決定です。あなたのその技術は、本日付で、国の台帳に固有技能として正式登録されました。登録名称──ユニークスキル【完全解体】」


「完全、解体」


「保持者は、世界であなた一人です。ご異論は」


「あるに決まってる。スキルってのはな、リンみたいな連中が持って生まれるやつだ。俺のは、研いだ包丁と、十年の経験だよ」


「その経験とやらが世界で再現不能だという話を、いま三十分かけてしたんですが!?」


まあ、台帳に何と書かれようが、明日も包丁の重さは変わらん。


登録料を取られないなら、好きに書かせておけばいい。


「ひとつ聞いていいか」


「どうぞ」


「保管庫の石は、まだ光ってるのか」


「……ええ。息をするように、明滅を続けています。観測班の若手が、最近あれを『その子』と呼び始めて、上が頭を抱えています」


その子、ね。


あの夜、倉庫の入り口で聞いた細い声と、同じ呼び方だ。


強さだけで序列一位を張ってる奴の目には、最初から、あれが「生きてる何か」に見えてたらしい。


──俺の指の背より、よっぽど上等なセンサーだ。


「話は以上か」


「……いえ」


葛城の手が、最後の頁の前で止まった。


めくるかどうか、迷う間があった。


役人が書類の前で迷うのを、初めて見た。


「これは本来、お見せできる段階の情報ではありません。ですが──あなたには、知っていていただきたい」


開かれた頁には、波形のグラフが二枚、並んでいた。


一枚は、海外の崩壊事例の観測記録。注釈に『暴走、直前』とある。


もう一枚は──それと、ほとんど同じ形をしていた。


「……おい。これは」


「国内です。某所のダンジョンの核が、三週間前から、この波形を出し始めました。場所は、まだ申し上げられません」


二枚目のグラフの上で、地名が黒く塗り潰されていた。


世界の臓器が、この国の腹の中で、悲鳴を上げ始めてるって話だ。


葛城が帰ったあと、俺は研ぎ場から包丁を一本、手に取った。


いつもと同じ重さの、いつもと同じ相棒のはずだった。


それなのに。


──黒塗りの下で眠ってる地名に、いつか呼ばれる気がしてならなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
機械でかりそめの技術模倣しても、相手の素材が完全同一でもなければ再現の土俵にたってないんだよな
熟練の金属加工職人は、指先と竹ひごでミクロン以下の研磨をするぜ? ロボットアームには「勘」が無いってこった。 データ収集だけしてるAIが「閃き」に目覚めて、やっとスタートラインじゃねぇかな。
スキルが与えられたものなら異論はありそうですが、至ったものをスキルと呼ぶなら、積み上げたそれはスキルと呼ばれるべき。 本気で繰り返せば到れるとしても、そこに至るまで考え、確かめ、繰り返した人が、他にい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ