↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/32

第7話 ミラの秘密

 資料室の空調は、いつもより静かだった。

 アリアは端末に向かいながら、胸の奥のざわつきを抑えられずにいた。


(レオンさんが協力してくれる)


 その事実が、まだ信じられない。

 胸元の赤い布が、今日も静かに脈打つように揺れている。


 そのとき――


「アリア、ちょっと来て」


 ミラの声がした。


 アリアは驚いて顔を上げた。

 ミラはいつもの柔らかい笑顔ではなく、どこか真剣な表情をしていた。


「どうしたの?」

「いいから。誰にも見られない場所で話したいの」


 ミラは資料室の奥へと歩き出した。

 アリアは胸がざわつきながらも、後を追った。


 ◆


 資料室の奥、普段は誰も近づかない古い棚の前。

 ミラは周囲を確認し、アリアに小声で言った。


「アリア。あなた、何かしようとしてるよね?」


 アリアの心臓が跳ねた。


「どうして、わかったの?」


 ミラは苦笑した。


「あなた、わかりやすいんだよ。昨日からずっと、目が違う。何かを見つけた人の目をしてる」


 アリアは言葉を失った。


 ミラは棚の奥に手を伸ばし、古い端末を引き出した。

 薄い埃が舞い、アリアは思わず息を呑む。


「これは……?」

「私の秘密」


 ミラは端末を起動し、画面をアリアに向けた。


 そこには――

 地球の写真が並んでいた。


 アリアは目を見開いた。


「ミラ……あなたも……」


 ミラは静かに頷いた。


「うん。実は私も、ずっと地球の文化を調べてたの。誰にも言えなかったけど」


 アリアの胸が熱くなる。


「どうして……?」


 ミラは少し遠くを見るような目をした。


「小さい頃ね、資料室で偶然色のついた絵を見たの。それが忘れられなくて……この世界にはない何かがあるって、ずっと思ってた」


 アリアは息を呑んだ。


(私と同じだ)


 ミラは端末を操作し、画像を拡大した。


 ニューヨークのタイムズスクエア。

 カラフルな服を着た少女たち。

 笑顔。

 自由。

 色彩。


 アリアの胸が震えた。


「これって……!?」

「綺麗でしょ。私、この世界にもこんな色があったらいいのにって、ずっと思ってた」


 アリアは涙が出そうになった。


「ミラ、私はね……昨日、初めて色を見たの。胸が苦しくなるくらい綺麗で、もっと知りたいって思った」


 ミラはアリアの手をそっと握った。


「アリア。あなたは、私がずっと探してた仲間だよ」


 アリアは手を握り返し、震える声で言った。


「ミラ。私、色を広げたい。このステーションに、もう一度色を取り戻したい」


 ミラは微笑んだ。


「じゃあ、私が手伝う。地球の文化のこと、全部教える。あなたが広げたい色のために」


 アリアは胸元の赤い布を押さえた。


「ありがとう。ミラ」


 二人は静かに微笑み合った。


 その瞬間、資料室の奥で、誰かの影が動いた気がした。

 アリアは振り返ったが、誰もいない。


(気のせい……?)


 しかし、胸の奥に小さな不安が残った。


 ◆


 その後、ミラはアリアに地球のファッション史を教え始めた。


「これは原宿系。自由で、カラフルで、個性の塊みたいなスタイル」

「これはY2K。未来的で、キラキラしてて。アリアに似合いそう」

「これはモード。構築的で、強い意志を感じるデザイン」


 アリアは夢中で聞いた。

 胸の奥で、何かがどんどん膨らんでいく。


(私、作りたい。この色を、この世界に)


 ミラはアリアの表情を見て、嬉しそうに笑った。


「アリア。あなたの目、すごく綺麗だよ。色を見つけた人の目をしてる」


 アリアは照れくさくて、視線をそらした。


 ◆


 その頃――

 資料室の外の廊下で、イーサン・グレイは立ち止まっていた。


 扉の向こうから、微かに聞こえる声。


「色を広げたい」

「地球のファッション」

「綺麗」


 イーサンは眉をひそめた。


(アリア・セルフィス……何をしている)


 胸の奥に、説明のつかないざわめきが生まれる。


 それは警戒か、興味か――

 イーサン自身にもわからなかった。


 ◆


 資料室の奥で、アリアとミラは並んで座っていた。

 画面には、色彩に満ちた地球の世界。


 アリアは静かに呟いた。


「ミラ。私、やるよ。この世界に色を取り戻す」


 ミラは力強く頷いた。


「一緒にやろう、アリア」


 胸元の赤い布が、静かに揺れた。


 アリアは、二人目の仲間を得た。

 そして、色彩の革命はさらに加速していく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。