第29話 ゼロ・プロトコル
管理局本部の会議室は、いつもよりも冷たく、重く、暗かった。
中央の巨大スクリーンには、光導管の崩壊映像が繰り返し映し出されている。
虹色の閃光。
市民の歓声。
アリアの姿。
そして――管理局の無力。
幹部たちは沈黙していた。
その沈黙を破ったのは、管理局長の低い声だった。
「アリア・セルフィスを、このまま放置するわけにはいかない」
幹部の一人が震える声で言う。
「しかし、市民の間では"色を守れ"という声が……」
管理局長は冷たく言い放った。
「だからこそだ。芽は早いうちに摘む。色彩は秩序を乱す毒だ」
そして――
彼は端末に手を伸ばした。
「ゼロ・プロトコルを発動する」
会議室がざわめく。
「ゼロ・プロトコル……!? まさか、本当に……?」
「色彩関連のデータ、物品、人物。すべてを排除するというのか……」
「アリア・セルフィスだけでなく、一般の市民まで……!」
管理局長は静かに言った。
「秩序のためだ。犠牲はやむを得ん」
その瞬間、ステーション全体に冷たいアナウンスが響いた。
◆
「こちら管理局。ただいまより、ゼロ・プロトコルを発動します」
アリアたちがいる地下都市にも、その声は届いた。
若者たちが青ざめる。
「ゼロ・プロトコル……!」
「まじかよ……」
「色を全部消すっていうのか……!」
アリアは息を呑んだ。
(ついに来た)
アナウンスは続く。
「色彩に関するデータ、物品、記録、および関係者はすべて排除対象となります」
「市民は速やかに管理局の指示に従ってください」
「抵抗する者は反逆者とみなされます」
アリアの胸が痛んだ。
(私の光が、こんな事態を生んでしまったの……?)
ミラはアリアの手を握った。
「アリア。あなたの光が真実を照らしたから、管理局は恐れてるんだ」
レオンも言う。
「ゼロ・プロトコルは管理局が追い詰められている証拠です」
イーサンは静かに頷いた。
「アリア、これは管理局の最後の悪あがきだ」
◆
地下都市の外では、市民たちが騒然としていた。
「ゼロ・プロトコル!? 色を全部消すって……!」
「アリアを守れ!」
「管理局に従うな!」
「色は自由だ!」
一方で、恐怖に震える声もあった。
「管理局に逆らったら……殺される……」
「秩序が崩壊するぞ……」
「どうすれば……」
そんな中、若者の一人が叫んだ。
「アリアさん! あなたの光を見た人は、もう銀色の世界には戻れません! だから、もう一度光を……!」
◆
アリアはゆっくりと立ち上がった。
傷はまだ痛む。
身体は重い。
でも、心は揺らがなかった。
「逃げても、終わらない。管理局は色そのものを消そうとしてる」
ミラが頷く。
「だからアリア、あなたが必要なんだよ」
レオンが言う。
「最後のショーをやりましょう。色を守るために」
イーサンはアリアの隣に立ち、静かに言った。
「アリア。俺は命を賭けて君を守る」
アリアは胸元の赤い布を握りしめた。
ゼロ・プロトコルが発動された今、革命は後戻りできない。
最後の光が、動き始めた。




